エピソード 守④ 「おかえり」
守エピソード編、続きです。
2年で初の公式戦敗退後、俺は更に練習に打ち込んだ。
ただ闇雲に……ではなく、負けてしまった試合での反省点を活かしながら。
守「あの時はただ闇雲にパンチを振るっていた。ボディは的確に当たっていた様だったが、右腕のガードが下がってた所を狙われた……」
基本に立ち返り、左ジャブからパンチを一つ一つ磨いていった。また、足捌きやガード、パーリング、スウェーバック等ディフェンス技術も磨いていった。
守「あの時、攻撃も守りの技術も遠く及ばなかった……。
毎日積み重ねて着実に強くなってやる!」
毎日毎日、練習を積み重ねた。身体も頭もフル稼働して、ボクシングに打ち込んだ。3年生が引退し、キャプテンに任命されてから、後輩の指導をしながら、自分の練習も怠らず励んでいった。
心が沈んでいる時には、部屋にある「Revenge!!」と書かれた大きな文字を見て、奮起していた。
そして遂に俺が3年生として、最後の公式戦の日となった。偶然なのか……昨年の全国インターハイ準優勝者で、昨年県予選1回戦で俺が負けた相手でもある……西城蓮生が、またしても1回戦で当たる事になった。
守「……偶然か。必然か。いずれにしても西城さんとのリベンジのチャンス!……絶対に勝ってみせる!!」
試合前日、両親と3人で夕食を取りながら、話した。
父親「いよいよだな。この日の為に頑張ってきたんだよな。悔いがない様に、練習の成果を相手に全力でぶつけてこい!」
母親「無事に帰ってくる事が一番……でも、お父さんの言う様に悔いのない様に頑張ってね!」
守「うん!有難う!全力で頑張るよ!!練習の成果を全部出して、絶対に勝つよ!!」
そして再戦の日を迎えた。俺は深呼吸してリングへと上がった。西城の方は一度勝った相手というのもあり、リラックスしていた。
守「(……とにかく、今までやってきた事を全力でやる!)」
試合開始のゴングが鳴らされた。
西城は前回と同様にガードを固めてきた。それはこちらも織り込み済みだ。俺はボディへの連射を見舞っていった。
西城「(前回と攻め方が違う!?しかし顔面がガラ空きだ!)」
西城は俺の空いた顔面に、左フックのカウンターを合わせようとする。しかし俺は先読みし、ダッキングで躱す。そこから右アッパーを西城の顎に見舞っていった。
西城「!!(ガードを下げていたのはワザと……!?
前回とは別人だ!1年前と同じだと判断するのは危険だ!本気でいく!)」
西条は適応能力にも優れていた。すぐさま左ジャブを連射しながら、ステップを使っていくアウトボクシングに切り替えた。
俺はパーリングやガードで防ぎながら、こちらも左ジャブの連射を繰り出していく。その攻防の中、1R目が終了した。
続く2R目、西城は左ジャブに加え、右も使いながら、攻撃の角度を変えてきた。変幻自在の拳に、俺は徐々に喰らってしまう様になる。
だが突如として、西城の拳が急激に遅くなる。
守「!!(チャンスだ!)」
西城の左ストレートに右クロスカウンターを捩じ込もうとした。だが西城の左拳は途中で止まってしまい、西城は顔面を横へとズラし躱す。
西城「(エサに引っかかったな。)」
守「!!(……しまった!罠か!)」
気付いた時には遅かった。俺は右ストレートのカウンターをモロに浴びてしまった。
守「……!ならば!」
1R目の様にボディで、相手のフックを誘って、ダッキング後に右アッパーを捩じ込もうと試みる。
予想通り西城は左フックのカウンターを繰り出した。俺はダッキングで躱そうとしたが、左フックは下斜めから突き上げる様に、軌道が変化していた。
斜め下から突き上げる……「スマッシュ」パンチだ。
守「!!」
そのスマッシュは直撃し、俺はマットに沈み込んでしまった。
守「(やはり向こうが何枚も上手……しかし、諦めない!)」
俺はすぐさま立ち上がり、目力でレフェリーに訴えかける。試合は続行された。
練習の成果から、倒れてからも幾分は動けたが、試合は西城ペースとなっていった。ここで2R目が終了となった。
監督「北条!大丈夫かぁ!」
守「はい!大丈夫です!やっぱり西城さんは強いですね!」
監督「そんな西城選手と渡り合ってるお前も凄いぞ!練習を頑張ってたのは、周りの皆も見てる!お前の集大成、見てやれ!」
守「はい!(このラウンドで全てを出し切る!)」
そして3R目。最終ラウンドが始まった。
俺は左ジャブにフック、右ストレートにフックやアッパー、ボディブロー等、あらゆる攻撃を繰り出した。
西城「(やはりこの選手、気持ちが強い!だが、見切れない速さではない!)」
西城は俺の様々な攻撃を防ぎ、見切り、遂にはカウンターを取っていった。俺は何とか踏ん張って耐えていたが、時間は刻々と迫る。判定に入ってしまったら、確実に西城が勝利する事は目に見えている。
守「(西城さんは俺の攻撃に合わせて、的確にカウンターを入れてくる…………ならば!覚悟を決める!)」
残りあと10秒を切った時だった。俺は大振りの右フックを振っていった。
監督「あぁ!最後は大振りにぃ!!まずいぃぃ!!」
西城「(右!しかも大振りだ!右ストレートのカウンターを取る!)」
守「(……昨年と同じ……予想通り!ここだぁ!!)」
西城「……!!」
西城が右ストレートを繰り出したと同時に、俺は前進した。顔面には直撃したが、インパクトポイントをずらし、威力を半減した。
俺は同時に右腕を畳んで、ストレートの軌道に変化させた。その右ストレートを、全体重、全身全霊かけて、西城の顔面へと繰り出していった。
西城「(しまった!!……だが、負けるわけには……負けるわけにはいかないんだぁぁ!!)」
捨て身の攻撃は西城の顔面を捉えた。……しかし西城は額の所で拳を受けて、威力を軽減させていた。
西城「(……!視界が……歪む……!?……まずい!!)」
西城は額で拳を受けたが、立つのが精一杯の状況だった。
守「(今だぁぁ!!)」
俺は追撃の左フックを見舞おうとした……
しかし次の瞬間、無情にも試合終了のゴングが鳴り響いてしまった。俺は左拳を、西城の顔面手前で止めた。直後にレフェリーが割って止めに入った。
……判定はダウンを取り、ヒット数で上回った西城の勝利となった。周りに歓声が湧き上がった。
俺の最後の公式戦は……1回戦判定負けの結果に終わってしまった。
直後、俺は西城の元へ駆け寄った。
守「今日は有難うございました!やっぱり西城さんは強かったです!完敗です!」
西城「……そんな事はない。あんなに覚悟を持った拳は初めて受けた。額で受けたのに効いたよ。しかも最後の左フック……止めてなければ、俺は間違いなく倒れていた。振り切れば君が勝っていたかもしれないのに……。」
守「あの時は何とか止まりました……終わりのゴングが鳴った時点で、試合は終了ですよ!」
そんな時歓声の中、一際大きな声がした。
父親「守ぅぅぅ!!良く頑張ったよお前はぁぁ!!流石は俺の子だァ!最高だよお前はぁぁぁ!!!西城選手も有難う御座いましたぁぁ!!」
母親「ちょっと……人前よ。抑えて……でも良く頑張ったわね守。心配で心配で……」
守「……父さん!母さん!」
その直後、西城へだけでなく、俺への歓声も上がっていった。
西城「……これじゃぁ、どっちが勝者か分からないな。君は高校卒業してもボクシングを続けるのかい?」
守「高校で辞めようと思います。高卒で社会人になろうかと。今叫んでるのが父親で隣が母親なんです。2人を早く楽にさせたくて。」
西城「そうか。君とは是非プロのリングで……と思ったが……。仕方ないな。」
守「西城さん……。僕は1年前に負けたからこそ強くなれました!本当に有難う御座いました!」
西城「……あぁ!必ず全国優勝して、一番強かったのは県予選一回戦で当たった、北条守選手だったと言わせて貰うよ!こちらこそ今日は本当に有難う!」
守「はい!応援してます!有難う御座いました!」
俺と西城は握手を交わした。大歓声の中、俺の最後の公式戦は終わったのであった。
試合後、監督にもお礼の挨拶を行い、帰路へ着こうとした時だった。両親が迎えに来てくれた。
人目もはばからず、2人は泣きながら俺を抱きしめた。
父親「守ぅぅ!!よくぞ無事に戻ってきたぁ!正直滅茶苦茶心配だったんだぁ!!」
母親「うぅ……守……守ぅぅ!!」
守「ちょっと父さん、母さん……もう俺高校3年生だよ……流石にこれは……」
両親「無事で良かった!良かった……!」
守「恥ずかしいけど……ありがとう!!」
こうして、俺の高校ボクシング生活は幕を閉じた。
リベンジはならなかったけど、悔いはない。俺は強い相手に立ち向かう心、負けても挫けない心を手に入れる事が出来た。
何より、今まで支えてくれた両親に、早く恩返しをしたい気持ちであった。感謝してもしきれない位だ。
両親「守ぅ!……おかえりぃぃ!!!」
守「うん!……ただいま!!!」
…… 第三章 第十話へ続く
守エピソード編でした。
次回から本編に戻ります。




