エピソード 守③ 「強敵」
投稿遅くなりました。
守のエピソード編 3話目です。
臨時村の防衛戦は無事に勝利した。
しかし、約100名中の12名が戦死、重傷者が約30名、その内俺を含む3名が超重傷者となった。特に俺は生死の境を彷徨う程の状態であった。
応急処置を受ける前に、俺の意識は闇へと落ちてしまった………………
「ガアアアアアアァァァァァッッッッッ!!!!!」
「邪魔すんじゃねぇぇっっ!!!」
「ギャァァァァァッッッッッ!!!!」
「うおおぉぉぉ!!!死ねぇぇっっ!!!!」
「砕け散れぇ!!!!!」
守「(怖い。何だってこんなに……怖い……痛い………………痛い!!怖い……怖い!!やめてくれぇぇぇっっ!!)」
そんな時だった。1人の男性の声が聞こえてきた。
「……守!その悔しさを糧にしろ!これはもっと強くなるチャンスなんだ!負けたままじゃ終われないだろ!!もっともっと強くなって……その強敵に挑んでいけ!!その強敵を超えていけ!!
その強敵に、Revengeだ!!!」
守「はっ……!この声は……?」
これは……確かに俺の父親の声だ……。
……………………思い出す。父親からRevengeという言葉を聞いたのは、2回目の時だったな……
話は遡る事、中学と高校の時。
中学時、親友の翔は空手部に入部した。剣道部よりも空手部の方が盛んで、県内でも強豪であった事が理由だ。
俺も翔と同じ部に入って強くなりたい……そう思って俺も空手部に入部した。そんなとある日の練習中、
翔「守。お前は蹴り技より、手技の方がセンスあるな。空手よりもボクシングの方が……いやすまん、聞かなかった事にしてくれ。今は練習に集中だ!」
そんな話を聞いた。自分でも自覚はあった。
結局空手でも翔には敵わなかった。翔と同じ道で進むより、翔とは別の道に進み、違う強さを手に入れたい。そう思っていた。
中学時の翔の言葉がキッカケにもなり、俺はボクシング部がある高校を希望し、翔とは別々の高校となった。
高校に入学してから、希望通りボクシング部に入部した。見た目は怖い人達ばかりだったが、根は優しい人ばかりで、懸命に練習していく内に心を開いていった。
先輩「北条!お前頑張っているな!学校の方針で、初心者の1年は安全の為に試合に出られない事になっているが……2年から試合に出られるぞ!思いっきり暴れてこい!」
守「はい!思いっきり暴れてやります!」
……迎えた2年生の県予選。初戦は優勝候補の「西城蓮生」との試合に決まった。幼少期からボクシングを始めている、いわゆるボクシングエリートであり、期待のプロボクサー候補である。
決まった時からは更に猛練習に打ち込んでいた。番狂せを起こしてやる……そんな風に意気込んでいた。
迎えた一回戦、俺は気合いを入れてリングに上がり、優勝候補の西城と相対する。そして、試合開始のゴングが鳴らされた。
1R目、西条はガードを固めながら様子を見る。俺は番狂せを起こそうと、猛練習の成果を見せるために怒涛の連打を仕掛けた。西城は瞬きせず、ガード越しからこちらの方をじっくりと見ている。
守「(ガードは流石に固いが……ガード越しでも効いてくる筈だ。そして合間にボディを入れる!)」
顔への連打……そして合間にボディへの攻撃。猛練習の中で練習した攻撃のパターンだ。ボディの攻撃は的確に肝臓を捉えていた。一瞬西城は顔を顰めた様に見えた。
俺が終始猛攻を行う形となり、1ラウンド目は終了した。
監督「北条!スタミナは大丈夫か!」
守「はい!まだまだ行けます!」
監督「向こうは出鼻をくじかれてる筈だ!このまま押し込むぞ!この試合勝てるぞ!」
守「はい!!」
そして2ラウンド目。まだ体力に余裕がある俺は、拳の連打を続けた。しかし合間にボディ攻撃を入れようとした時だった。
守「……!!」
肝臓への攻撃は西城の右腕にガードされ、同時に左フックのカウンターが、俺の右こめかみを捉えた。
一発で視界が歪む。タイミングが完璧な上に、何て威力なんだ……
西城「(一気に決める!)」
そこから西城が怒涛のラッシュを仕掛けた。俺はボディと顔面に拳の連打を浴びた。
俺は反撃に転じようと、右フックを思いっきり振っていった。
監督「駄目だぁ!大振りだぁ!ガードを固めろ北条!!」
すぐさま西城の右ストレートのカウンターが炸裂し、俺はマットに沈み込んだ。
守「(またカウンター……!いやまだ、行ける!!)」
レフェリーが割ってカウントを始める。実はかなりのダメージを負っていたが、俺はすぐに立ち上がり、フラッシュダウンに見せ掛けた。レフェリーストップにならない様、眼に力を宿わせ、まだやれるとレフェリーに訴えかける。
レフェリー「……ボックス!!」
カウントは止まり、続行の合図がなされた。
西城「(根性、スタミナはある。しかし俺の相手ではない。すまないが俺はやるべき事の為、容赦なく行かせてもらう!!)」
……実力差は明白だった。更に、ダメージで動きが鈍ってしまった俺にはなす術がなかった。その後も怒涛のラッシュが炸裂し、俺はサンドバッグ状態になってしまった。
そのラッシュは鬼気迫る物があり、小学校で堂田から受けていた暴力や、練習のスパーリングで受けた物よりも、凄まじい気迫と威力だった。
監督「……すまん!北条!!」
監督がタオルを投げ込むと同時に、レフェリーが合間に割って試合を止めた。
その瞬間俺は気持ちが切れてしまい、その場に座る様に崩れ落ちた……
守「……負けた…………」
番狂せを起こしてやる。そんな意気込みで望んだ試合だったが、初の公式戦は、1回戦2RTKO負けという結果に終わった。
崩れ落ちた直後、俺はそのまま意識を失ってしまった……。
守「……あれ?ここは?」
気付けばそこはベッドの上だった。近くには監督と父親と母親が座っていた。
俺は意識を失ってから、病院へ搬送されたのだ。
監督は俺に声を掛け、両親にも改めて謝罪し、病室を出ていった。
父親「守……。大丈夫か?」
母親「…………大丈夫……?」
守「……父さん。母さん。心配かけてごめんね。頭や体は少し痛むけど、大丈夫だよ。ごめんね…………心配かけて……」
うつむく俺に両親は抱きしめながら、「無事で良かった……」と言ってくれた。
その後、療養と検査目的で3日間入院後、自宅退院となった。
その夜、3人で一緒に夕食を取った。
俺は何とか笑顔でいようとしていたのだが、心の底では笑えなかった。そんな中、父親が口を開いた。
父親「守……今でも試合に負けた事が悔しいか?」
守「悔しくなんか……ないよ。」
父親「強がらなくて良い。お前がボクシング部に入った時から、懸命に練習してた事は俺も母さんも分かっている。俺達の前では正直に話してほしい。
お節介だと思うが、小学校の時みたいに、お前が1人悩んで苦しんでいてほしくはないんだ。」
母親「空手の時もそうだったけど……ボクシング部に入るのは正直私は反対だったの。でも毎日守が懸命に頑張ってる姿を見て、守は本当に強くなろうとしてるんだなって……今は応援して、協力したいと思ってるの。」
俺は涙が出た。両親の優しさと、負けた悔しさを抑え切れなかった。
守「本当は……凄い悔しい!!こんなに悔しいのは初めてだ……あんなに練習したのに……それでも全然敵わない相手だった……!!」
父親は俺の言葉をしっかり聞いた後、こう答えた。
父親「……守!その悔しさを糧にしろ!これはもっと強くなるチャンスなんだ!負けたままじゃ終われないだろ!!もっともっと強くなって……その強敵に挑んでいけ!!その強敵を超えていけ!!
その強敵に、Revengeだ!!!」
守「(Revengeか……)……父さん………………有難う!母さんも有難う!
次に対戦した時は、絶対に勝ってみせるよ!!」
父親「おう!その意気だ!俺達も協力させてもらうぞ!」
母親「……無理はし過ぎないでね。でも私も協力するからね。」
そして、俺の部屋には父親が書いた、「Revenge!!」と大きく書かれた紙が、貼り出されたのであった。
…… エピソード 守④ 「おかえり」へ続く




