第三章 第六話 防衛戦開始
俺達は様々な感情を抱きながら、臨時村から出発した。
こちらの数は約100名で、前衛班約50名、後衛約30名、補助班が約20名程の構成だ。
補助班は武器や薬等の物資の支給や運搬、回復魔術や医療術の心得がある者は、負傷者の手当てを担っている。
前衛の負傷者が出れば、後衛の者も前衛に参加し時間を稼ぎ、負傷した傷が癒えた前衛の者が、再び戻ってくる流れとなる。
またこちらが有利となる場面であれば、敵の数を減らす絶好の機会となる為、その時も後衛が前衛に参加するタイミングとなる。
約100名の行列が、一斉に移動した。
約1時間程で、臨時村から約3kmの洞窟前に到着した。時間はまだ魔物が来る気配はなかった。
現在は10時少し前の刻だ。予想では、11時頃に洞窟へ魔物達が入る事が想定され、人数や物資の配置確認が行われた。
ゲンジ「では、一部のハンターは持ち場に着いてくれ!もし、奇襲が予想される場合、ワシと一部の人間が持っている無線貝を通じて連絡してくれ!」
無線貝という、現世でいう携帯電話の機能を有している特殊な貝を、監視役のハンスや一部のハンター、更にゲンジとミズキ、補助班のリーダーが持つ事になった。
またスコットとケニーという領地を監視しているハンターが、魔物の軍勢が現地に来る直前で、連絡する手筈になっている。
ハンス「では行って参ります。皆、必ず村を守って、生きて帰りましょう!」
ゲンジ「ハンスも無理はするなよ。無事を祈る。」
ハンス「はい!それでは!」
ハンスや他のハンター達は持ち場へと向かった。
俺達はゲンジの指示のもと、隊列ごとに並び待機となった。イースはまた震え出しており、俺達と違う前衛にいるミズキの代わりに、俺が身体をさすったり、励ましたりした。ミズキは涙ぐましい顔で、こちらを見ていた。
守「修行で練習した動きをすれば、大丈夫だ。俺達は辛い修行によって、頑丈な身体を手に入れたんだ。ちょっとやそっとじゃ傷すらつかないさ。この力、皆を守る為に使おう。」
イース「はい……頑張ります!」
イースは俺よりも更に頑丈だ。寧ろ不安が強かった為、心のケアを考えると、声を掛ける内容は不安を取り除く事の方が良いだろう。
ゲンジ「(守は本当に落ち着いておる。防衛戦といっても、敵との殺し合いじゃ……親友と刃を交えたと言っておったが、何か特殊な組織や軍隊での戦闘経験があるのじゃろうか。いずれにせよ……頼りになるわい。)」
……しかし、この状況。暗殺者組織にいた頃、暗殺のサポートを行っていた時に似ているな。だが、あの時とは戦闘スタイルも、能力もガラリと変わった。
今の俺はどこまでやれるんだろうか。ましてや相手は魔物だ。イースとの組み手は行っていたが、こちらを殺そうとしてくる魔物とは初めて相対する。全く別物と思って良いだろう。
……待機している時間は、場慣れしていない者達にとっては物凄く長い時間に感じただろう。
そして11時少し前の刻、ゲンジの無線貝を通して連絡が来た。スコットというハンターからで、魔物が洞窟に入る直前であると言う。魔物は合計約200体近く、後方にはターゲットとなるシシオウ、ドグマの姿もあるとの事だった。
周囲に緊張が走る。洞窟内は約300m程だ。ゲンジが気配を察知し、奇襲を掛けるタイミングを見計らって合図を出し、前衛・後衛が順に突入していく形となる。
数の不利もある為、奇襲の成功が防衛戦勝利のカギとなる。
ゲンジ「(……まだじゃな……近づいておる…………もう少しじゃ……)」
更に緊張が走る。
ゲンジ「(……………………ここじゃ!)今じゃ!前衛から突入!その後すぐに後衛も突入するぞ!」
前衛のミズキ達が洞窟内へ突入した。
いよいよだ。防衛戦開始の火蓋が切って落とされた。
ミズキ達の後に続くと、魔物達の軍勢が洞窟入口から約50m程の距離にいた。そこには鬼や狼の人型の魔物や、粘液の塊の様なスライム?系統の魔物、狼型の魔物、悪魔の様な小型や大型の魔物などがいた。
軍勢の魔物達は、行進している最中に不意を突かれた形となり、臨戦体勢に入っていなかった。
ゲンジ「今じゃ前衛の者達!奴等を切り崩せ!」
ミズキ「はい!」
ミズキが先陣を切り、ついでポー達の残りの前衛も後に続いた。この時ミズキは愛用の刀、輝水刀という綺麗に輝く水色の刀を使用していた。
この刀は妖刀の類で、刀は意思を持ち、刀に認められる者しか扱う事が出来ないと言われている。
ミズキ「(出し惜しみはしない!奇襲は初撃が肝心!)
……水月斬!!」
横薙ぎに放った水色の大きな斬撃は、次々と魔物を真っ二つにしていった。真っ二つになった魔物は、その後黒い靄となり、消えていった。
模擬戦の時、もしあの妖刀を使われていたら、俺……死んでたな……
ポー「あいつにばっかり戦わせねぇ!俺達もやるぞ!」
ポーは俺をボロボロにした例の鉄球を魔物に振り降ろした。魔物はなす術もなく鉄球に潰され、消滅した。
……俺あの時、本当に良く無事だったな……
前衛の活躍があり、魔物達は次々と倒されていった。
「敵襲か?前の方が賑やかだなぁ?シシオウ、俺達もいくか?」
「ドグマ、こちらの数はまだ余裕がある。もう少し様子を見るぞ。厄介な奴がもう少しいるかもしれん。そいつらを優先して……殺す!」
ゲンジ「(今の内に数を減らす!)後衛も前衛に続け!指揮官に辿り着ける様、魔物の数を減らすぞ!」
今度は俺達後衛も魔物の軍勢に少しずつ入っていった。
ゲンジも前衛に加勢すると、圧倒的な力を見せつけた。
ゲンジ「(玄武連撃掌!!」
ゲンジが両手に光の様な闘気を纏わせたと思うと、両手で闘気ごと次々と魔物達に打ち込んでいった。魔物達は次々と倒れ込み消滅していった。凄い……
俺も前衛に参加する。
「ガァァァァ!!」
俺と同じ程度の体躯をした、狼様の人型魔物が相対した。魔物は斧のような武器を持っており、それを振り翳してきた。
守「武器を持っている相手には……」
俺は冷静に、相手が武器を持っている持ち手の所で腕を止め、すかさず全力の拳の連打を見舞った。
「グウオォォォ!」
ゲンジ「(守よ、良い動きじゃ!ミズキの教えか!)」
ミズキ「(守さん……修行の成果が早くも出てる!)」
魔物は倒れ込み、その後消滅した。
これならいけるぞ!と思った矢先、前衛の1人が2体の人型魔物に囲まれていた。ポーの取巻きの手下の1人だ。
手下「うわぁぁぁ!殺されるぅぅ!!」
守「!!」
俺からは距離が少し遠い。間に合わないか……と思ったその時だった。
イース「危ないです!」
イースは2体の魔物の同時攻撃を、両腕で受け止めた。
ゲンジ「イース!」
ミズキ「イースちゃん!」
すぐさま、ゲンジとミズキが1体ずつ魔物を仕留めた。
ゲンジ「大丈夫か!イース!」
ミズキ「イースちゃん!怪我はない!?」
少し遅れて俺もイースの元へ走り込んだ。
守「イース!大丈夫か!?」
イース「怖かったですが……大丈夫です!有難う御座います!……お怪我はありませんか?」
手下「あぁ……有難う……俺は兄貴の命令で、あんた達を散々殴ったのに……」
イース「良いんですよ!危ない味方の人がいたら、助けます!」
守「……それはもう過去の事だ。今は戦いに集中だ!まだ戦えるか!?」
手下「……はい!まだ戦えます!怪我もありません!有難う御座います!」
ゲンジ「ふむ。(イース、守……ナイスじゃぁ!お前ら最高じゃぁぁ!!)」
ミズキ「(イースちゃん……守さん……)」
ポー「……。(手下を助けてくれた?あの魔物が……?)」
ゲンジ「よし!皆の者!今の内にどんどん攻めるぞぉ!!ただし、深追いはするなよ!」
その後も俺達の前衛、後衛が躍動し、魔物は次々と倒れ消滅していった。
「シシオウ、結構俺達の軍、やられてきたぞぉ。やられっぱなしはムカつくぞぉ。厄介な奴見つかったかぁ?」
「ドグマ。見つけたぞ。まずは水色の刀を持っている黒髪の女。あとあの方が予言で申していた、我らに災いをもたらすと言う力を持つ……黒服を来たジジイと……そばに居るパットしない男と、小太りドラゴンの奴だ。
その4体を確実に殺す。鉄球男も少し気になるが……人間にしては力があるだけで、俺達の敵ではない。他の奴らに任せておけば良い。そいつらを倒したら、あとはどうにでもなる雑魚だ。」
「よっしゃぁ!やったぁ!暴れられるぞぉ!!シシオウ、分担するかぁ?」
「あぁ。ドグマ、お前は女とドラゴンを頼む。俺はジジイとパットしない男を殺る。(女の攻撃はおそらく水属性。俺と相性が悪い。それにドラゴンも種族的に、もしかしたら氷の攻撃を使ってくるかもしれないしな。用心に越した事はないだろう。)
まぁその前に周りのゴミ掃除といこうじゃないか。」
「ガッテン承知だゼェ!!」
俺達が優勢に戦いを進めていく中……ここから、戦況は苛烈さを増していくのであった。
…… 第三章 第七話へ続く




