第三章 第五話 防衛戦直前
俺は絶対に負けない、ここを守り切るという決意を胸にしながら、眠りに着いた……
「光の力の修行を始められたのですね……」
聞き覚えのある落ち着いた女性の声だ。
守「はい。貴方が俺の魂を、こちらの世界に移してくれたんですね。復讐したい気持ちは正直まだ消えませんが……お陰で大切な物を見つけ、今まで伏せていた心を取り戻す事が出来ました。本当に有難うございます。」
「本当に良かったです。……貴方を無事に送り届けられて良かった……」
守「それと、やはり剛体術と守護壁術が、光の力だったのですね。私の身体の軋みが、少しずつ緩和されてきているのは……?」
「……貴方は修行に入る前から、優しい光の心を取り戻せていました。そこに光の力が加わり、その力が闇の力を徐々に浄化し、身体の異常が少しずつ緩和されてきたのでしょう。
仮に以前の心のままでは、光の力の習得は出来なかったでしょう。」
なるほど……ゲンジさん達やイースに感謝だな……
「明日は人間の領地を奪った魔物と、相対する様ですね。私からは何もしてあげられないのですが、彼等には充分に注意して下さい。特に指揮官の魔物2体には……」
そこから女性の声は聞こえなくなってしまった。
指揮官の魔物2体……確かシシオウとドグマと言ったか。充分に注意しておこう。
……そして朝を迎えた。いよいよ防衛戦だ。魔物と初めて相対する。イースは凄い緊張しており震えていた。
ミズキさんと俺で身体をさすりながら励ましてあげた。
守「ミズキさんは悪い魔物と戦っているんでしたっけ。」
ミズキ「はい。ハンターは人を襲う魔物を討伐する仕事もしています。みんな、イースちゃんみたいな子達なら良いのに……」
そう言うとミズキは、イースの頭を撫でた。
イースも少しずつ、落ち着きを取り戻している様だった。
朝食を済ませ、俺達は作戦会議場へ再び赴いた。
俺達は比較的早く、ゲンジやハンス、その他の数名のハンターがいた。
ゲンジ「いよいよじゃな。守とイースは防御を怠るなよ。ミズキは敵陣を切り裂いていけ。だが皆無理はするなよ。」
ハンス「俺は現地に着いて準備の手伝いをしたら、持ち場に行くから、戦いの時は暫く会えないね。ここを守り切って無事に戻ってこよう!」
ミズキ・守・イース「はい!!」
予定の8時近くとなり、人も多くなり、緊張感が漂ってきた。そんな時ポーの取巻きが、ミズキに絡んできた。
取巻き「アンタは俺らと一緒の前衛だなぁ?アンタ別嬪で、しかも良い身体してんなぁ?どさくさに紛れて触っちまうかもよぉ?」
……こいつバカか。これから防衛戦だぞ?何言ってんだ?ミズキは老師の言葉が効いてるのか、黙って相手にしない様にしている。近くにいたゲンジとハンスは何やら警戒している様だった。
取巻き「あれ?聞こえてないのかな?だったら……ほれ!」
ミズキ「……!!」
あろう事か取巻きは、ミズキの胸を揉む様に触ってきたのだ。これは流石に止めようと動いた瞬間、
ゲンジ「おい?何しとんじゃ?直ぐに手を離せ。じゃないと首を折るぞ。」
ハンス「戦力は減らしたくないが、テメェは別だ。直ぐにその汚い手を離さないと、首を刺す。」
音もなく取巻きの背後にはゲンジ、横にはハンスが即座に移動していた。ゲンジは取巻きの頭を掴んでおり、ハンスは取巻きの首に苦無を突き付けていた。2人とも見た事がない殺気に満ち溢れた顔だった。
取巻き「ひぃぃぃっ!!親分!!」
取巻きは咄嗟に手を離し、近くにいたポーに助けを求めた。
ポー「テメェ何やってんだ?」
取巻き「そうだ!親分を怒らせたな!」
ポー「違う!!テメェだよぉ!!」
そう言うとポーは取巻きの頭を掴んだと同時に、髪を大量に毟り取った。
ブチブチブチブチ!!
取巻き「ぎゃぁぁぁ!!親分!すみません!すみませぇん!!」
ポーはミズキ達の前にやってきて、
ポー「バカな手下が申し訳ない。すまなかった。」
と詫びを入れてきた。
ポー「……一昨日も来ていたが、やはり魔物も防衛戦に参加するんだな。大丈夫なんだろうな?途中で裏切ったりしないのか?」
と今度は問いかけてきた。
ミズキ「イースちゃんは、そこの悶絶しているアンタの部下より、よっぽど信頼出来るけど。」
ゲンジ「あの日以来、イースはきちんとワシらが見ておるが、信頼出来る子じゃよ。」
ポー「……そうか。だが、俺達の邪魔はしてくれるなよ。イース。」
イース「はい……分かりました……」
そう言うとポーは取巻きを連れて離れていった。あいつ、イースって名前で呼んでたな。魔物を見境なく尋常じゃない程憎んでいる事以外は、意外と仁義深い性格なのか?
取巻きはクズ中のクズだが……
ゲンジ「……ワシらも人の事は言えんな。ミズキすまんの。」
ハンス「……そうですね。ミズキすまんな。我慢してくれていたのに。」
ミズキ「ふふっ!2人とも勝手なんですから!……でも、嬉しかったです!有難う御座います!」
……俺とイースが取り残された。イースはたじろんでいた。イースはそっち方面には疎いだろうから無理はないにしても、俺もゲンジの言葉がなければ飛び込んで……いや、2人の早業を見た感想としては、あれより速く動くのは絶対に無理だ。結果は同じであっただろう……
そんなやり取りがありながら、予定の8時となり、作戦の最終確認を全員で行った。
基本的に変更点はなく、予定通り前衛の中にはミズキやポー達、後衛の中にはゲンジと俺とイースが入り、ゲンジは総指揮官、ハンスは奇襲に備えて持ち場での監視役となる。
また指揮官2体の魔物に関して、獅子型のシシオウは鋭い牙と素早く鋭い爪攻撃、更に火炎の息や咆哮を使ってくる様だ。弱点は反対に氷や水属性の攻撃に弱いらしい。
熊型のドグマはシシオウより遅いが力が強く、高威力の爪と前脚の重撃、そしてイースと種類は同じだが、威力が段違いな氷の息を使ってくるとの事だ。弱点は反対に火属性の攻撃に弱いらしい。
そして出発前にゲンジが全員に向けて、声を発した。
ゲンジ「皆の者!いよいよ防衛戦の時が来た!ここには領地を奪われた方達や、ハンターなど様々な立場の者達がおる。
だが皆目的は同じ!この臨時村を守る事!そしてガーサル領を奪還する事じゃ!皆の者全ての協力が必要となる!
まずは今日、必ずこの場所を守り抜き、必ず生きて帰ってこようぞ!!」
一同「おおおぉぉぉっっ!!!!」
皆一同の士気が、物凄い勢いで高まっていった。
ハンス「(やはり老師は凄い。俺はあんな風に、皆の士気を上げる事は出来ないな。……総指揮官を俺ではなく、老師に御願いして良かった。)」
そして俺達は胸の高鳴りや、この先の不安等、色々な感情を抱きながら、臨時村から出発した。
…… 第三章 第六話へ続く




