第三章 第四話 防衛戦前夜
ミズキとイースの模擬戦は、両者目を回して倒れ込む形となり、結果としては引き分け?で幕を閉じた。
守「イースゥゥゥ!ミズキさぁぁん!大丈夫かぁ!!」
俺の問い掛けに2人は反応した。
ミズキ・イース「はぁい……大丈夫れすぅ……」
2人はゆっくりと起き上がった。
守「良かった……
(結果は引き分けかな。……あれ?俺はミズキさんに負けて、イースは引き分けて……。イースって俺よりも強い……?……はっ!兄弟子としての立場がぁぁ!)」
すかさずミズキは泣きながら、イースを抱きしめた。
ミズキ「イースちゃぁぁん!ごめんなさぁい!また技を出して、今度はイースちゃんを酷い目に……ごめんなさぁい!嫌いにならないでぇ!!」
イース「大丈夫ですよ、ミズキさん!お互い様ですよ!ミズキさんを嫌いになんて、絶対にならないですよ!僕はミズキさんが大好きですから!」
ミズキ「……イースちゃぁぁん!うわぁぁん!」
イースは天然の人たらしだな……。
……ミズキさん……この人は本当に大丈夫なのか?先程から取り乱してばかりだが、果たして訓練が行えるのだろうか……
そんな心配をしていた時、イースが口を開く。
イース「凄い怖かったけど……守さんの激励があったから、僕は何とか戦えました。僕の決定的に弱い所は、立ち向かう勇気がない心なんですね……」
守「イース……。」
ミズキ「イースちゃん……。けど、イースちゃんには良い所が沢山あるのよ!
あの白銀の息は凄かったわ!(守:確かにな。)
そして、守さんより防御が硬い!(守:グサッ!)
更に、守さんより力が強い!(守:グサグサッ!!)」
何故俺と比較するんだ……俺にも兄弟子としての立場が……
ミズキ「はっ!!守さんごめんなさい!決して深い意味ではなく……」
……触れないで欲しかった。
守「いえ。ただ確かにイースは強いです。もっと修行して、実戦を積んでいけば、俺とは比較にならない位強くなるでしょうね。……ただ兄弟子として威厳を示せる様に、精進します……」
ミズキ「はわわわ………………少し休憩してから、実戦に備えて、強化する点を把握して、修行を始めましょう!」
俺達は少し休憩した後、修行に臨んだ。
まず俺の方は、防御方法の指摘を受けた。身体の頑強さに頼っていると、現状の防御力だと、敵の強烈な一撃に耐えられない可能性がある。ガードを固めるだけでなく、両手を自在に使ったり、別方向に受け流したり、武器を持っている相手なら持ち手の所を掴んだりと……様々な方法を習得するべきだと。
ミズキ「両手を使っての防御は、老師が得意としている、守護壁術との相性も良いんです。守さんは適正があるので、今後を考えると防御方法は考えた方が良いかと思います。」
守「(取り乱していた印象が物凄く強かったが、しっかり見て頂いていたんだな……なるほど。俺はガードを固めるだけだったから、ミズキさんの強烈な一撃を貰ってしまったんだな……)
はい。分かりました。御指導有難うございます。」
続いてイースの方は自分でも言っていた様に立ち向かう心の強さ……しかしこれは修行に耐えたり実戦を積み重ねていくしかない。速度に関しても、天賦の才、または種族の壁もあり、難しい問題であると。
ミズキ「しかし、イースちゃんは並外れた頑強さと力を持っています。基本的な体術を習得しながら、良い所を徹底的に伸ばすべきかと思います。それが己を守る最大の武器になるでしょうから。」
イース「分かりました!ミズキさん、有難うございます!」
ミズキ「それじゃ体術の基本的な立ち回りを練習しましょう!私は老師に教わった空道を軸に、指導しますね!」
こうして修行に移った。ミズキは俺とイースに空道の基本的な立ち回りや、防御、攻撃方法を手取り足取り教えてくれた。そうこうしてる内に夜となった。
3人一緒に帰り、食事を取り、別々に風呂へ入り、床に着いた。
翌日、体術の基本を確認しながら、俺は両手を自在に使用しての防御方法、イースは強固な防御姿勢や気の張り巡らせ方を確認した。
その後は俺とイースは素手での組み手、ミズキは素手や無刃刀を使いながら、実戦の動きの確認や練習を行った。
そして気づけば夕方になろうとしていた。
ミズキ「2人ともお疲れ様でした!動きが良くなってきたと思います!明日はいよいよ実戦になるので、早めに切り上げましょう。沢山夕食を作るので、沢山食べて下さいね!」
守・イース「有難う御座いました!!」
そうして3人で帰った後、ミズキは早速夕食の準備に取り掛かった。
守「イース。あれをやるか!」
イース「はい!」
俺とイースは岩と重りを袋から取り出し、ゲンジとの最初の修行で行った瞑想訓練を行った。
ミズキ「ふふっ。2人とも精が出ますね。」
空いてる時間は瞑想訓練を行う様にと……ゲンジからの教えだった。
瞑想訓練を行い、暫く経ってからであった。
「ただいまじゃ!……おっ!2人ともやっておるのぉ!感心感心!」
「ただいま。2人とも頑張ってるね。」
ゲンジとハンスが帰ってきた。
ゲンジ「会議場には別のハンターに待機してもらっとる。その間にミズキの美味しいご飯を頂こうと思っての!
防衛戦前の決起集会じゃ!!」
守・ミズキ・イース「ゲンジさん(ミズキ:老師)、ハンスさん、おかえりなさい!」
ミズキ「お二人ともお疲れ様でした!お二人が戻られるかもしれなかったので、ご飯沢山作ってたんですよ!」
ゲンジ「すまんの。ミズキ。本当は事前に帰る事を伝えたかったのじゃが。」
ハンス「申し訳ない。何とか時間を作っても、ミズキの料理を食べたくてね。」
ミズキ「いえいえ!そう言って頂けて、嬉しいです!」
そして、5人で食事をした。
ゲンジとハンスは当日の打ち合わせや、襲撃する予定の魔物の攻略法、様々な場面に対応した俺達の動きの指示確認などを行なっていた様だ。
ミズキは修行の最初に、模擬戦を行った事をゲンジに報告した。
ゲンジ「して守や。ミズキとの模擬戦はどうじゃった?……ププッ!ボロボロにされたんじゃろうな!ミズキは戦闘に入ると物凄いムキになるんじゃ!勿論それも織り込み済みじゃけどな!ハハハハハハッ!!」
守「(あぁ、何かムカついてきたぞ……)」
ゲンジ「まぁワシの見立てだと、イースは健闘したんじゃなかろうかな。守は……負けたんじゃろうなぁ!勝てる要素全然ないもの!ププッ!」
守「(ブチっ!)おい!こら!クソ○○○!!俺はちょっとの怪我で済んで、イースはミズキさんと引き分けて大健闘したがな……ミズキさんが暴走して目を回して、イースはボコボコにされて、色々大変だったんだぞぉ!!」
ミズキ「……ちょっと!守さん!!やめてくださぁい!!」
イース「守さん、落ち着いて……」
ハンス「はははっ!守さん落ち着いて!老師も老師ですよ!(老師……何だか楽しそうだな。こういう師弟関係を望まれていたんだろうか……何か妬いてしまうな。)」
ゲンジ「あーはっはっはっ!冗談じゃ!冗談!」
そんな談笑?があったり、他にも俺達の訓練の様子や、各々の長所や弱点、イースが氷の息を吐ける様になった事などの話をした。
食事をした後、ゲンジは優しい顔で労いの言葉を掛ける。
ゲンジ「皆、本当にご苦労じゃった。守とイースは本来ならじっくりと鍛えたかったが、事態が事態じゃからな。明日はこれまでの修行の成果を存分に発揮してくれ。辛い修行を耐えてきたオヌシ達なら、充分に活躍出来るじゃろう。」
守・イース「ゲンジさん……」
ゲンジ「ミズキ、2人の修行を見てくれたり、いつも美味しい食事を有難うな。ハンス、潜入調査や昨日からの対応等色々苦労を掛けるな。有難う。」
ハンス・ミズキ「老師……」
5人が円陣を作り、手を重ね合わせた。
ゲンジ「明日が運命の分かれ道になるじゃろう。この場所を守り抜き、絶対に生きて、ここに戻って来よう!気合いじゃぁぁぁ!!」
一同「おーっ!!!」
決意を固め、ゲンジとハンスは会議場へと戻っていき、ミズキとイースと俺は風呂に入った後、床に着いた。
……明日は絶対に負けない。ここを守り切って、生き伸びるんだ。そんな思いを胸に、俺は眠りに着いた。
……第三章 第五話へ続く




