第三章 第三話 模擬戦 対ミズキ
ゲンジとハンスは会議場に残る為、一時の別れを言った後、ミズキと俺とイースは帰り、昼食を済ませた。
そこから例の修行場所で、ミズキとの訓練が始まった。
ミズキ「時間がありません。まだ何も教えてませんが、守さんとイースちゃんの実力を確実に見たいので、一対一で私と相手をして、私から一本を取って下さい。私は修行用の無刃刀を使わせて頂きます。」
まず、俺が先陣を切らせて貰った。
守「では俺から。早速参ります。」
ミズキ「はい。いつでもどうぞ。」
まだまだ完全ではなかったが、身体が少し軽くなっていた。力も少し入りやすくなっている。ゲンジとの修行の効果なのか?
俺は軽快な足取りをしながら、ミズキの方へ近づいた。
ミズキ「(特殊な足捌き……空道の物とも、他の武術の物とも違う……これは拳闘の動き?でもちょっと違う気も……)」
気は引けるが……これも修行の内だ。俺は左のジャブをミズキの顔目掛けて連射した。
ミズキ「(速さは……まずまずかな。でも……)はっ!」
しかし俺が放ったジャブの連射は全て、ミズキの無刃刀に弾き返される。
だが、それは想定していた。そこに渾身の右ストレートをミズキの無刃刀に当て込んでいく。
ミズキ「(先程の拳よりも数段重い……)くっ!」
ミズキは後方に吹っ飛ぶ形となる。そこにすかさず追撃を試みる。先程の攻撃に加え、更にフック・アッパー・ボディブローと多様の拳撃を繰り出していく。
顔面の所は刃の所で、ボディーブローは持ち手の所で、ミズキはそれらを防いでいた。
ミズキ「(拳撃の角度が多彩で読みづらい!拳も非常に硬さがあり、威力がある。最初の左拳はあえて弱く速く打った物ね……一旦離れる!)」
ミズキは高速で距離を長めに取った。
ミズキ「守さんかなり強いですね……私も少し本気を出します……」
守「……(雰囲気が変わった……)」
ミズキの刀が円を描いたと思えば、今度は流れる様にこちらへ高速に向かってくる。繰り出す刀撃は、水の様に滑らかである様に感じたが、太刀筋は非常に速く殆ど見えなかった。
守「(固めるしかない!!)」
俺は咄嗟に身体中に気を張り巡らせ、防御を固めた。
ミズキの連撃が、金切音の様な音を立てながら、連続で俺の身体に当てこまれていく。おそらくポーの拳撃より少し劣る位でかなり威力があるだろう。そしてそれ以上に格段に速く手数も多い。
しかし、多少の痛みはあっても俺の身体は殆ど傷ついていない。修行の成果が出ている。
ミズキ「……硬い。全然傷がついてない。効いてないみたいね。こうなればこの技で……水月斬!!」
三日月の形をした水色の大きな斬撃が、俺の身体を袈裟斬りの形で斜めに切り裂いた。辺りから鮮血が舞った。
ミズキ「……!!はわわわ!!大変です!おくすりぃ!おくすりぃっっ!!」
ミズキは特殊な薬を取り出すと、俺の胸目かげてその薬を掛けた。傷は浅かったからなのだろうか、あっという間に止血された。
ミズキ「本当に申し訳ありませんでしたぁ!下手したら大変な事にぃ!本当に申し訳ありませんでしたぁ!」
ミズキは物凄い取り乱していた。
守「ミズキさん、落ち着いて下さい。傷は浅かったですし、特殊な薬の効果で止血されてますから。ゲンジさんも実戦さながらでと言ってたじゃないですか。俺も全力で望んでいましたから。(まぁ剛体術を使わずに、且つ本物の刀だったら……死んでたか……?)」
ミズキ「…………有難うございます。…………守さんの動きは……拳闘ですか?特殊な足捌きに見えましたが……」
守「(拳闘って確かボクシングとほぼ同じだよな……?)
はい。おそらく、その拳闘ってやつなんですかね?動きが染み付いていて、咄嗟に出たみたいです。(暗殺者組織では違う戦闘技術に矯正されちゃったんだよな……)」
ミズキ「守さん強かったです……思わず技も出してしまいました……本当に申し訳ありません……。強化するべき所は見えたので、後で練習しましょう。少し休憩して下さい。
……次はイースちゃんの番ね!準備はいい?」
イース「(凄い怖いし、ミズキさんと戦うのは嫌だけど……やるしかない!)はい!宜しく御願いします!」
ミズキの今度の相手はイースだ。
今度はすかさずミズキから前に出た。やはり踏み込みも速い。一瞬で距離を詰めると、ミズキは無刃刀での連撃をイースに繰り出した。
イース「(……速い!けど、ゲンジさんとの修行を思い出して……身体を固める!)」
今度も凄まじい金切り音が連続で鳴り響く。
ミズキ「(硬い……硬さでいったら守さん以上……?
……けどイースちゃんごめんね。イースちゃんの弱点は見当がついているの。)」
そこから更にミズキの怒涛の連撃、更に顔に似つかない気迫に満ちた声を上げながら、イースに攻撃していた。
ミズキ「うぉぉぉ!!どうしたぁ!こんなもんかぁ!!(イースちゃんの弱点は速度が遅い事と……心の弱さ。)」
イースは終始押されていた。攻撃しようにも連撃の隙間が殆どなく、無刃刀の振りも非常に速い為、反撃の隙が見当たらない。更にミズキの気迫に圧倒されていた。
イース「うぅ……!」
守「イースぅ!!ゲンジさんとの、あの無茶苦茶な修行を思い出せぇ!」
イース「はっ!」
そうだ。ゲンジさんは無茶苦茶な暴り……愛の鞭で、無茶苦茶な暴げ……叱咤激励を言いながら、修行をつけてくれていたんだ。
守「修行の時に比べたら、今受けてる攻撃なんて、全然ヌルい位だろ!!お前の底力を見せてやれ!!」
イース「……はい!」
イースはダメージ覚悟で突撃し、右腕を振り翳した。連撃を繰り出していたミズキは避ける事が出来ず、無刃刀で攻撃を防ぐ事しか出来なかった。ミズキは後方に思いっきり吹っ飛ばされた。
ミズキ「(力も守さん以上……?けど守さんのあの言葉……腹が立つ!)私の攻撃がヌルいですって!?……良いでしょう!本気で行かせて頂きます!!」
その直後、ミズキの雰囲気が変わってしまった。
あっ、これ俺やっちゃったかもしれない……イース頑張れ……
イース「……これは……マズイです……」
ミズキ「技は出しませんが、先程以上の攻撃ですよ……はぁっ!!」
ミズキは全力の踏み込みを見せた。最早殆ど見えない。イース……無事でいてくれ……
イース「(だめだ……殺されますぅ!)……うわぁぁぁ!」
そう思っていた時だった。イースの口から白銀色の息が大量に吐き出され、ミズキの脚元を覆った。そしてミズキは前のめりに倒れてしまったのだ。
ミズキ「ガクガクガク……寒い!動かない……!脚が……脚が凍りついてる!」
ミズキの脚元が凍っていて、ミズキは身動きが取れなくなってしまった。氷の息?昔やっていたゲームで、ドラゴンが氷の息を吐いていた記憶があったが……現物は初めて見た……だが、何はともあれ……
守「イース!チャンスだぁ!ミズキさんに一本取ってやれぇ!!」
イース「……はい!ミズキさん!覚悟して下さいぃ!」
ミズキ「はわわわ……!マズイ!!」
ミズキは何とか器用に立ち上がったが、脚がまだ凍りついて上手く動けない状況だった。イースは突撃している。これで勝負アリと思ったのだが……
ミズキ「こうなったら、自信がない技だけど……
水車輪!!」
ミズキは水色の壁を覆ったかと思うと、そのまま身体を回転した。脚元に付いていた氷を強引に剥がしたのだ。……下手したら大怪我だと思ったが。
ミズキ「はわわわ……とまれないぃぃ!!イースちゃん、とまってぇぇぇ!!」
イース「うわぁぁ!とまれませぇぇん!!」
守「!!」
……そのままイースは無刃刀を高速回転しているミズキの元に向かってしまい、多数の強烈な連撃を喰らってしまった。水の力と遠心力が加わっている為、先程の連撃よりも威力は倍増しているだろう……
ドガガガガガガガガガガガガ!!
イース「グブブブブブブゥ!!」
ミズキ「はわわわわわぁ!!」
守「これはまずいぃぃ!!」
その後ようやく回転が収まったが、ミズキもイースも目を回してその場に倒れてしまった……
守「はわわわわ……こりゃ大変だぁ!!
イースゥゥゥ!!ミズキさぁぁん!!大丈夫かぁ!!」
ミズキとイースの模擬戦は、両者目を回して倒れ込む形となり、結果としては引き分け?で幕を閉じた……
……第三章 第四話へ続く




