第二章 第六話 暖かい心
2023/1/7 一部修正しました。
取巻き「おらぁ!!」
取巻き達が俺の顔目掛けて、拳を振るう。
暗殺者組織に所属していた時なら、取るに足らない相手であったが、今はやはり身体が軋む。思った様には身体が動かせず、速度が出ない。先の件で明らかになった様に、暗殺術もおそらく使えないだろう。
躱す事はできなかったが、何とかガードして凌いだ。そこにすかさず拳の連打を、奴らの頬や顎に見舞った。
取巻き「うげ!……うん?思ったより痛くないぞ?」
……そういえば俺が右拳のカウンターを、巨漢男ポーに見舞った時もビクともしなかった。……速度だけでなく、力も相当落ちていた。
取巻き「やっぱり大した事ねぇ!てめぇら、やっちまうぞぉー!!」
始めの内はガードしながら、奴らの打ち終わりを狙って拳を叩き込んだが、多勢に無勢、俺も力と速度が相当落ちていた為、徐々に取巻き達のペースになっていった。
俺はガードしていた隙間から徐々に攻撃を入れられ、その数は数十発程受けるまでに至っていた。
守「……。どうした。終わりか……?」
イース「……守さん……どうして……」
取巻き「はぁ……はぁ……やっぱりコイツ半端ねぇ……おい、何でこんなボロボロになっても、まだトカゲを守ろうとするんだ?そもそもそのトカゲは魔物だぜ?死んで当然だろ!!いい加減楽に寝てろよ!」
……俺は装飾せずに、声を大にして叫んだ。
守「………………この子は……この子は優しい子なんだ!!暴力を振るうお前らに一切危害を加えなかっただろ!優しすぎるんだよ!!
なぜ無抵抗なこの子を迫害する!?その子が何をしたって言うんだ!?魔物がどうとか言ってるが、無抵抗な者を迫害する奴の方が、俺から見たら立派な魔物だよ!!
その子は俺の事を案じてくれて、心配して泣いてくれたんだ!その子の心は、暖かい優しい人間が持っている心……それと変わりないんだよ!!!」
イース「……!!」
俺は自分で言いながらハッと気がつく。そんな事を思っていたんだな……
無抵抗な者を迫害か……実行者となる前にこの世界にやってきたが、俺も暗殺に関わった人間だ。同じ様な事に加担していた俺も魔物の様な物だな……。
同時にイースの澄んだ優しい心が、羨ましくもあったんだなと……
取巻きは少しの間黙っていたが、また口を開いた。
取巻き「……。おい、親分を呼びつけるぞ。あの方に引導を渡してもらおう。」
流石にそれはまずい状況だ。巨漢男ポーが来たら、おそらく俺たちは死ぬ運命を辿るだろう……
その様に考えていた時、右方から女性の声が聞こえた。
「貴方達!何をしているの!その2人から離れなさい!!」
それはミズキの声だった。
取巻き「あのジジイの所の女だ!ジジイ程ではないが、確かアイツも強かったんだよな……ここは一旦引き上げるぞ!」
その後の取巻き達の逃げ足は速かった。
そして、ミズキが俺達の所に駆け寄る。
ミズキ「守さん無事でしたか!良かった!イースちゃんも無事ね!良かった……。イースちゃんが外に出たのを感じたので、急いで外に出たらもう居なくて……。
イースちゃん、何で外に出ちゃったの!?……心配だったんだから……!」
どうやらイースが外に出てしまい、ミズキは探していた様だ。
イース「すみません……覚えていないはずのお父さんと……お母さんの様な声が外から聞こえたんです。フラフラとその声が聞こえる方に歩いてしまって……気付いたらここにいました……。本当にごめんなさい……」
イースの記憶が少し戻ったのだろうか。
そんなイースをミズキは涙を流して抱き締めた。イースも涙を流していた。俺も何だか貰い泣きしそうになってしまった。……こんな感情になったのは何年振りだろうか。
……その帰りボロボロだった俺とイースは、ミズキに肩や腕を貸して貰いながら、帰路についていた。
ミズキ「イースちゃん……意外と重いのね……。守さんも細身に見えて……いえ、何でもありません……グヌヌ。」
守「……正直に言って頂いて結構です。」
イース「すみません……。ミズキさん本当に有難う御座います。これからは絶対に外を1人で出歩かない様にします……。守さん。」
守「どうした?イース?」
イース「本当に有難う御座います。あの時仰っていた、あのお言葉……凄い嬉しかったです。僕の心は暖かい人の心、それと同じであると……。」
ミズキ「そんな事を仰られていたのですね。……やっぱり守さんはお優しいです。」
守「……本心を言ったまでです。イース、俺もミズキさんもゲンジさんも、ちゃんとお前の心を見ている。誰が何と言おうと、お前は優しい心を持つ者なんだ。(本当に羨ましい位に……)」
イース「……!……ありがとう……ございます……」
そんなやり取りをして、建物の中に入ると、イースは謝罪の言葉を俺達に言って、すぐに眠ってしまった。相当疲れていたのだろう。
俺もミズキとお互い礼を言った後に、寝床についた。
イースの寝顔を見ながら、俺はとある出来事を思い出していた。
守「あいつも当時、こんな気持ちで俺を助けてくれたのだろうか……」
それは小学校の時にいじめらていた俺と、孤独であった親友との出来事であった……
…… エピソード 守① 「翔との出会い」へ続く
次回は、主人公である守のエピソード2話分となります。
本編との繋がりもある為、読んで頂けたら幸いです。




