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エピローグ そりゃ、そうなるわね!

 和真さんの住んでいたアパートの部屋から運び出される荷物達。

 今日はいよいよお引っ越し、そしてこの荷物は私達が結婚の為に住む、新しい新居に運び込まれる。


「全部運び込まなくても」


 まだ言ってる。


「良いのよ、後で選別すれば。

 部屋は沢山余ってるから」


 新居は6LDKの新築マンション。

 もちろん私達に買える筈が無い、お父さんが持っている物件を格安で借りたのだ。

 本当はプレゼントするつもりだったそうだが、和真さんが断った。


『そこまでして頂く訳には...』

 格好良かったな、あの時の和真さん。

 お父さんだけじゃなく、お母さんまで真っ赤になってた。


「そうだけど、お世話になりっぱなしだ」


 顔を曇らせる和真さんの気持ちも分かる。

 なんと言っても家の両親は過保護だ。

 子供は私一人、本当は息子も欲しかったらしい。

 だからだろう、和真さんを一目で気に入ってしまった。(事前に身辺を調べていたそうだが)


「あれは...やっぱり捨てよう」


 運び出される荷物に呟く和真さん。

 価値の無い物に見えて、後で必要だったってよくある事。

 本当なら事前にゆっくり選別したかった。

 でも出来なかった。

 原因は和真の元カノ西島紗央莉だ。


 5ヶ月前、警察に被害届を出して受理された。

 これで和真に近づく事は無いと思ったが、紗央莉はそれを無視して何度も和真のアパートへやって来た。


『和真に直接会う訳じゃない』

 ふざけた言い分に呆れた。

 時折、深夜に和真のアパートを徘徊する紗央莉。

 部屋に上がる訳じゃない、不気味な紗央莉から和真を護る為、会社の近くにアパートを借りる様に言った。

 必要最低限の物だけ運び出して、残りは新しく購入した。

 もちろん、そこに私も毎夜の様に通ったが。


 あんまり居心地が良かったので、つい和真の引っ越しが遅れてしまったのは申し訳ない。


「これで全部です」


 引っ越し業者が報告する。

 たいして荷物が残っていた訳じゃなかったので、軽トラ一台で収まってしまった。


「ありがとうございました、では後日」


 荷物は一旦業者に預かって貰う。

 今日はこの後、お父さん達と食事会の予定だ。


「なんと言うか...呆気ないな」


 空っぽになった部屋を見て和真が呟いた。

 八畳と四畳の二間しかない部屋。

 風呂も無い、ここに和真は大学入学以来約6年過ごしたんだ。

 その時間は彼にしか分からない。


「そうね」


「ここで暮らした記憶は忘れられないよ」


「和真さん...」


 良い事や悪い事も全部詰まった部屋。

 その中には元カノ、西島紗央莉と過ごした時間もあるだろう。

 そう考えると、胸が少し傷んだ。


「さあ行きましょ、お父さんが待ってるわ」


「ああ」


 出来るだけ明るく振る舞う。

 これから私は新しい新居で和真さんと思い出を築き上げて行くんだ!


「え?」


「なんで?」


 部屋を出ようと玄関で靴を履く私達の前に突如現れた一人の女。

 どうしてコイツが居るんだ?

 調べじゃ、先月田舎に帰ったと聞いたが...


「...見いつけた」


 目が据わり、抑揚のない声で呟く紗央莉は気持ちが悪い、


「今さら何の用だ?」


 怯む事なく和真さんが紗央莉に対峙する。

 私の事は見えてないの?


「ねえ...その女は誰よ?」


 見えてるのか、視線は真っ直ぐ和真さんしか捉えてないから分からなかった。


「お前には関係無いだろ」


「答えてよ...それとも何、アンタの方こそ浮気してたんじゃないの?」


 何を言ってるんだコイツ?


「お前な...俺に近づいたら駄目な事は知ってるだろ」


 和真、無駄よ。

 コイツ、頭がおかしくなってるから。


「答えなさい!!」


「そんな義務は無い」


 義務も責任もね。

 小刻みに震える紗央莉に気持ち悪さは感じるが、恐怖は感じない。

 手ぶらで刃物は持ってないみたい。

 いざとなりゃ、和真さんを抱っこして逃げたら良い。


「待ちなさい!アンタのせいで私の人生滅茶苦茶よ!」


「身から出た錆びだろ?」


 その通り!


「うるさい!仕事も友達も、全部失くしたんだのよ!絶対お前のせいだ!!」


 それ違う!


「お前酔ってるのか?」


 紗央莉の口から臭うアルコールに、和真も気づいたか。


「話を逸らすな!!」


 埒が開かない、早く行きたいのに。


「ちょっと良いかしら?」


「何よアンタ」


 私の言葉にようやく紗央莉の視線が向いた。

 酷いのは顔色だけじゃない、髪までボサボサ、服装もヨレヨレ。

 確か和真さんと同い年の筈なんだけど、40代にしか見えない。


「山井郁衣と申します」


「ひょっとして、お前が和真を私から奪った女なの?」


 何だとコイツ?


「お前とは随分な物言いですね」


「郁衣」


 和真が私の手を握る。

 何て小さい手、この手で私を...


「答えろ!」


 おっといけない、つい妄想が。


「何を?」


「お前が仕組んだな!」


「仕組む?」


 何の話だ?


「5ヶ月前だ、バーで男を!!」


「ああ...貴女は酔っぱらってラブホテルで...和真さんに聞きましたわ」


 確かに仕組んだな。

 正確には川井さんとだけど、もちろん言わないが。


「ふざけるな!!」


「ふざけてるのはどっちかしら?」


 うるさい女だ。


「...な、何よ」


「何だ、少し睨んだけだぞ?」


「おい...止めろ」


 あら和真さんまで...ダメ、可愛い奥さんになるのを誓ったのに。


「ごめんなさい、行きましょう」


「うん」


 しっかりと和真さんの手を握り直す。

 やっぱり最高だ。


「その手を離せ!和真は私の物だ!!

 私だけに尽くしていれば良いのよ」


 何だと!?それが本音か!!


「和真さんは物じゃない!!

 ふざけるのも大概にしなさい!!

 何が酒のせいよ!そんな身体になっても、まだ分からないの!!」


 我慢出来なかった。

 ここまで墜ちて尚、酒にすがり自分を、そして和真を傷つける紗央莉に。


「行こう」


 崩れ落ちる紗央莉の脇を通る。

 こんな惨めな姿、例え別れた恋人であっても見たくないだろう。


「待ってよ...和真...もうお酒止めるから...絶対嫌がる事しないから...またここで暮らそうよ...」


「...手遅れだ」


「そんな...」


 和真が小さい声で呟く。

 紗央莉の顔に改めて絶望の色が滲んだ。


「とりあえず病院に行きなさい、あと婦人科にも」


「え?」


 あれ?和真気づいて無かったの?


「どうして...それを?」


 紗央莉まで冗談でしょ?


「そりゃお腹見りゃ分かるわよ、それとも中は腹水なの?」


「お前...まさか」


「ち...違う!か...和真、貴方の子供よ、だから私と実家に」


 アホか...

 だから田舎から出てきたのか。

 さしずめ、誰の子ってなったんだな。

 堕胎を薦める訳じゃないが、余りに無計画だろ。

 いや、酒に逃げ続けて正常な判断力が失われているのか。


「救えないな...それでも飲むのか」


「全くよ」


「アアアア!!」


 雄叫びの様な声で泣き叫ぶ紗央莉。

 これは救えない、もう仕方ないわ。

 私達は振り返る事なく、アパート近くに停めていた車に乗り込んだ。


「お疲れ様」


「...うん」


 さっきから和真は無言だ。

 ショックだろうな、何て声を掛けたら良いの?


 「間に合うかな」


 「何に?」


「今日の食事会だよ」


 まさか和真、大丈夫なの?


「大丈夫?無理しないで」


「いや、だから行きたいんだ。

 なんか完全に吹っ切れちゃったよ」


「そうなの?」


「ああ、遅かれアイツはダメになっていただろ。

 俺には、もう郁衣が居る」


「...うん」


 そんな熱い目で見ないで。

 私は車を近くのコインパーキングに停めた。

 安全運転だ、安全....ダメだ顔のニヤケが治まらない。


「俺は幸せを実感してる、間違いない。

 郁衣、愛してる」


「私もよ和真!!」


「ウップ!」


 我慢出来ない!!

 私は和真をしっかり胸に抱き締めた。


『絶対手離すもんか!!』

 改めて心に誓った。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 感想返しへ元カノの救済ルートがあったのにさっき気付きました。ざまぁが強いスパイスだとすると、上手く作られた救済ルートは穏やかな隠し味のようですね。本編では反感と不快感しか感じなかった元カノが…
[良い点] いざとなりゃ、和真さんを抱っこして逃げたら良い。 これぞ本当のお姉さん抱っこ(笑)。 [気になる点] 6LDK、初めから小作り前提か。 ぽんこつさんのライバルは実母(マテ)。 追記・…
[一言] 酒は飲んでも飲まれるな 依存症には何言っても効かないけどね ありがとうございました
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