とある一家のワンシーン
「三月末をもってわが社は倒産することになった」
新年明けてしばらくしたのち、社長が朝礼で述べた。
朝礼の場は騒然となる。
(来るべき時が来たか……)
「どうするよ、佐囲藤」
悟りの境地に達していたら、動揺している友人が話しかけてきた。
「つぶれるまでは付き合おうぜ。あとは手続きだな」
「そうだよな……」
落ち着いている佐囲藤を見て、友人も落ち着きを取り戻す。
朝礼後には通暁常務が始まる。
「取引先に挨拶してきてくださいね」
営業部長から声をかけられ、佐囲藤は外回りに向かう。
(失業の手続きはこれでよしっと)
その日のうちに公共職業安定所で手続きを終えた佐囲藤。
(夜間もやっていて助かったよ)
土曜日もやっていると職員さんは話す。
(場所によって変わるからまずは調べておくのが正解か)
公共職業安定所を後にして、佐囲藤は家に帰る。
(こういう時にトラックとかで異世界に行くんだろうな)
赤信号で待つ佐囲藤。
車のライトがやけにまぶしく感じる。
(帰りを待っている家族がいるし、変な期待はやめようか)
街灯やレストランの広告塔が照らす道を選び、佐囲藤は早足で家路につく。
「ただいま」
家に帰り、挨拶をする。
おかえりなさいと、妻と娘が出迎えてくれた。
「お父さんの会社潰れるの?」
娘が驚いた口調で佐囲藤に話す。
「大丈夫だよ。新しい仕事先探していくからね」
娘の頭をなで、心配させまいと気丈に振る舞う佐囲藤。
「私も働いているから、ある程度は大丈夫よ」
「ワン」
妻も愛犬も励ましてくれた。
「ありがとう」
佐囲藤はお礼を妻に伝え、夕食の準備を手伝う。
(こういう時こそ、楽天的になれって親に言われたな……なんとかなるさ)
食事を終えると、佐囲藤は友人や同僚から携帯で連絡を取り出す。
悲観的になっている友人と楽観的な同僚。
(人それぞれだよな、こういうの)
個性を感じつつ、佐囲藤は携帯に文字を入力する。
携帯の画面に文字やスタンプが次々と流れ、佐囲藤は楽しさを感じていた。