#44 ケジメの付け方
ユキさんの話を聞いている間、セツナさんはずっと背筋を伸ばして、その表情は辛そうというよりも必死な形相だった。
特に、ムギさんの名前が出る度に歯を食いしばる様にして、でも決して顔を下に向けることなく、最後まで聞いていた。
ユキさんの話が終わるとセツナさんが再び話し始めた。
「ムギくんにも、謝罪しようと会いに行ったことがあるの。 でも拒絶されて、話を聞いてもらうことも、謝罪することもさせて貰えなかった。 それまでも、自分が悪いことしたって解ってたつもりだったけど、ムギくんに拒絶されて、初めて自分がどれだけムギくんのことを傷つけたのか分かって、それまで以上に自責の気持ちが止まらなくなったわ」
「そっか、ムギくんに会いに行ってたんだね。 これからも会いに行くつもりはあるの?」
「ううん。 私がムギくんの前に姿を見せることはムギくんにとって迷惑でしかないって分かるから、これ以上は迷惑かけないわ」
「まぁそうだね」
「それで、セツナちゃんはこれからどうしたい? 私にどうしてほしい? 怒ってほしい? 一緒に泣いて慰めてほしい? 罵倒して嫌ってほしい?」
「え・・・・どうしたら良いかは分からない・・・でも、方法とか分からないけど、ケジメを付けたいって思うわ」
「ケジメか・・・」
ユキさんはそう零すと考える表情をして、しばらく黙った。
セツナさんは、そんなユキさんのことを不安そうな表情で見つめていた。
2~3分ほどしてからユキさんが再び話し始めた。
「よし、今からケジメを付けよう。 私がケジメを付けてあげるよ。 元生徒会副会長として、ケジメを付けてあげる」
ユキさんはそう言うと、二人の間にあるテーブルを横にずらして、セツナさんに近寄りすぐ正面に膝立ちになった。
セツナさんを見下ろすユキさんは
「セツナちゃん、歯を食いしばって。 これはムギくんの分」
そう言って右手を振り上げてから、セツナさんの左頬に振り下ろした。
すぐに再び右手を振り上げて「まだだよ。これはハナちゃんの分」と言って同じように左頬に振り下ろした。
容赦の無いビンタだった。
セツナさんは殴られて態勢を崩しても、その度に声1つ漏らさずに直ぐに座りなおしてユキさんを正面から見据えて次のビンタに備えた。
「最後は、私の分」
そう言ってユキさんは右手を振り上げたけど、そのままの態勢で止まってしまった。
どうしたんだろう?と思ってユキさんの表情を見ると、ユキさんは両目から涙をボロボロと零していた。
「なんで・・・なんで馬鹿なことしたのよぉ なんで親友にこんなことさせるようなことしたのよぉ なんで最初に相談してくれなかったのよぉ ううう」
「ユキちゃん・・・」
どちらからともなく二人は抱き合い、泣いていた。
「ユキちゃん、ごめん・・・ずっとごめん」
「うううう」
私も自然と涙が零れていた。
ユキさんの真の覚悟とか、燻っていた怒りとか、これまで抱えてた後悔とか、まとめて全部を見せつけられた様な圧倒的な迫力と同時に、親友としての優しさと温かさを感じて、涙が止まらなくなった。
セツナさんにユキさんが居てくれて、本当に良かったと思う。
しばらく室内に、3人の泣き声だけが続いた。




