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隔界記~王崩の白銀姫~  作者: 曇天
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契約

 詞葉はなにかに包まれているような浮遊感を感じていた。



(わたし......急に意識が遠のいて......)   



 ゆっくり目を開けると、ぼんやりと見えるそこは水の中だった。



 溺れる、そう思い上を目指すも周囲全てから光が見え上下がわからない、


(もう限界)



 だが、苦しくはなくよく考えると呼吸もしていなかった。



(死んだのかしら)



 目が慣れてきて周囲を見て驚いた、水の中のような広大なその世界には、森や山があり、更には多くの異形の獣がいたからだ。



 その獣たちは、青い炎を纏う亀、巨大な羽根の生えたミミズや岩のような鳥、樹木を背負った虫等、様々な形状や色彩の生き物がいた。



(これってもしかして深精、わたし深精界に来てしまったの)



 そう思った詞葉の前に魚の大群が通っていった。

 すると一匹群れから離れて詞葉のそばにやってきた。

 それは、色が変わるせびれや尾びれをたなびかせるたび、リーンと鈴のような音を鳴らせる、透明な体を持つ詞葉より大きな魚だった。


 

 魚は詞葉をじっと見つめるとどこからか声がしてきた 。

 


「我は......洸魚こうぎょ......我に名を与えよ.....」 

 


(この魚が話しかけてきてる? 名前つけろって、でも名前こうぎょじゃないの、種族の名前なのかな、名前か......)  


「えーと、動くたび鈴の音がなるから、りんでどうかな」  詞葉が言うと、その魚がうなずくようにしてゆっくり光に消えていたった。  

 すると、右腕に痛みがあり見てみると、紋様のようなものが浮かび上がっていた。



(これ、まさか契約したの......名前をつけたから)



 そんなつもりなかったのにと詞葉がかんがえると、突然頭が痛みだし、



「こい......こっちへこい......」



(また......あの声......)  



 ずっと下の深い方から声が聞こえる、そこはとても暗くなっていた。 いや暗いというより漆黒といった表現があっていた。

 恐ろしさを感じるが、抗し難い感情が沸き立って詞葉は、深い方へと進んでいき、黒い場所との境界を越えようとしたとき



「......そちらにいってはならない......」    



 という声が聞こえはっとして、踏みとどまった。



「......こい......こい......」  



 呼ぶ声に後ろ髪を引かれながら、何とか離れた詞葉は声を感じた方に進み洞窟を抜けると、とても暖かい光が射してきた。  

 そこにあった白い丘に降り立つとその場所はとても清浄な感じがして、心が落ち着いた。  



 ここは、一体そう思った時、目も眩む眩しい光に包まれ詞葉の意識は遠ざかった。



「......ことは......ことはさま......詞葉様!」



 自分を呼ぶ声に、詞葉は目を覚ますと、  

 そこには、不安そう見ている蒼真の姿があった。



「蒼真さん?」


「詞葉様! 気が付かれましたか! 

 良かった......急に倒れられたと聞き心配致しました」

 

「う、うん、ごめんね心配かけちゃって......そうだ、腕は大丈夫?」


「ええ、深手ではないので、心配は無用です、玄蓬殿の話では、深精の間で突然虚ろな顔で柱に触られたと......」


「自分でもよくは......ただ、頭に声がしたと思ったら意識が薄れて、いろいろな生き物がいる水の中にいて......夢かな」


「いいえ、詞葉様は深精界に行かれ契約されたのですよ」     



 どうしてと詞葉の問いに、蒼真は小さな手鏡を渡した。  

 そこに写っていたのは、銀色の髪に金の瞳になった自分の姿があった。

 驚く詞葉に、


「深精と契約すると、髪の色や目の色が変わることがあります。

 そして、体に紋様が浮き出てくるのです」  



 蒼真は自分の着物の袖をまくると、左腕に紋様があった。

 詞葉も左腕の袖をまくると、同じような紋様があり、  



「そうか、わたし深精界にいってたのね......そうだ、あの時最後になにか丘を見て......」  


 

 眠そうな顔で思いだそうとする詞葉に、


「まあ、詞葉様、ご無事だったのでよろしいではありませんか、もう夜も更けました。  

 まずお眠りになられた方が宜しいのでは」


「そうね、蒼真さんに会って安心したら眠くなってきた。  

 その事はまた明日考えましょう......」  



 そう言うと詞葉様はすぐに眠りについた。  



 蒼真はその寝顔を見て、  



「おやすみなさいませ」  


 

 そう言って蒼真もその隣の仮の寝具に横になると、疲れと安心からかすぐに、寝息をたてた。  

 深夜、蒼真は宮中の騒然とした声で目が覚めた。



 隣の寝具にいたはずの詞葉がいないことに、いいしれない不安を抱きながら寝所を飛び出した。    


 声の方に向かうと、衛兵に連行される詞葉の姿があった。

 呆然としたとした表情をした詞葉の体には血の跡があり、衛兵の手に血のついた剣が抜き身であった。  



「どうされたのです! 詞葉様!」



 離せと衛兵に詰め寄ると、玄蓬が近寄り 、



「寝所で斬られ恒枝様が亡くなられました......その場に詞葉様が、剣を持ち立ち尽くすのを、恒枝様の叫び声を聞いた衛兵が見ておりまして......」


「そんなはずはない! 寝所ならば常に衛兵がいたはずだ!」


「はい......ですが、寝所に入るのを見ていないようなのです、恐らく窓から」


「だが、詞葉様は、今日こちらに来られたのだ! 

 この王宮にくわしいはずがない!」


「残念ながら、今日一日わたくしが案内したのです」


「違う! 恒枝様を手に掛けるはずが......」


「勿論、詞葉様が手を掛けたかはわかりません......ただ、今日深精界に入り何か影響を受けなかったとも言えません...... 操られたのかも......  ですが、ことは継承に関わること、調べない訳にもいかない」



言葉を無くし蒼真が見つめる中、詞葉は言葉もなく、衛兵に連れられていった。


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