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隔界記~王崩の白銀姫~  作者: 曇天
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王宮

 先程の戦いのあと、詞葉は、焔紗という少女に連れられて、しばらく馬車に乗せられていた。

 馬車の窓から外を見ると、辺りはもう暗くなり始めていた。



「蒼真さんが無事か確かめさせてくれるのよね」 


「......伝えています、明日には白華城はっかじょうに着くでしょう」    



 焔紗のその言葉に安堵して、馬車の外を眺めた。  

 すると前方に大きな白い城と、それを囲む城壁が見えてきた 。



 城壁の中は碁盤の目のように秩序だって建物が並び、とても整備された巨大な都市だった。  

 少し暗くなってきたなか、おそらく石でできた街灯の灯りがともり幻想的な光景がひろがる。

 すべての道が石畳で舗装されており、高い楼閣が遠くに見えていた、    様々な商店が軒を並べ建つ中、多くの人が話ながら行き交っている。  人々の身なりは、知らない自分が見ても、高価だと分かる衣服を着ていて、特に女性は煌びやかな(くし)(かんざし)など装飾品を身に纏っていた。  



 それを馬車から眺めながら詞葉は、  



「同じ国なのにあの町と、こんなにも違うなんて......」  



 と呟くと、今までこちらから言わなければ口を開かなかった焔紗が、



「......貴女の国とて、貧富の差はあるでしょう、それとも彼らは貧しき者のことなど考えない強欲とおっしゃりたいのですか」


「傲慢とでも言いたいのね、わたしの世界でも貧富の差はあるけど、おかしいという感情は自然に出るもの、何も出来ないならなにも感じずに無視をして生きて行けって、そう簡単には考えられないものでしょ」


「......そうですが、無力な者はなにもなす術がない、考えるだけ虚しいだけなのです......  

 貴女が考えるよりもずっと、世界は苦痛に満ちている......」



 焔紗の言葉を聞き、詞葉は自分の人生を振り返っていた。

 逆波詞葉は、優しい両親の元なに不自由なく育てられた。  だが、それも詞葉が小学生になるまでだった。  

 両親が立て続けに亡くなると母の親族に預けられたが、邪魔者扱いされ毎日のように暴力を振るわれる。

 そこでは、学校にも行けない監禁状態だったが、覚悟を決め逃げ出し警察に駆け込み、そこで保護され施設に入った。

 そして今は自分で決めた全寮制の女子高に入っていたのだった。    



 そんな覚悟ができたのは、生前父が言っていた、



「人に人は救えない、自分を救えるのは自分だけ、自らを自らの王と成らぬ者に(しるべ)は意味をなさない」  



 という言葉が胸にあったからだ、と詞葉は思っていた。



「そうね、そう言うんだから、  多分あなたはわたしより辛い生き方をしてきたのでしょうね.......  でも、その人にはその人にしかわからない痛みが全ての人にある、  

 他の人と比べて自分の方が辛かったなんて意味はないわ、あなただってわたしの痛みを知らないでしょう」    



 そう言うと詞葉を見ることもなく、焔紗は  



「......そうですね......」  



 そう答えた声に感情はこもってはいなかった。



 王宮につくと、詞葉はお香の焚かれた大きな浴場に入るよう言われ、出ると侍女達に何枚もの着物を着させられる。  

 その後、紅や、白粉(おしろい)を付けられ眉も揃えられた。

 そして、化粧が終わり鏡の前に立った姿を見ると、

 その変わりように自分でも驚いた。  

 


 詞葉は、境遇もあるのだろうが、ファッションにあまり興味がなかった。

 皆がメイクや服や髪型にこだわる理由が分からなかったのだ。  友達は自分を表現するため等と言っていたが、市販品を身に付けるだけで表現なんて、声の大きな人に従ってるだけなんじゃないかと、思っていた。  

 ただ、今こうやって化粧をした自分を見ると、確かに自分が変わったように思えた。



「よく、お似合いですよ」



 振り返ると、そこに白髪の男が立っていた。



「誰!」  

 

 

 つい驚いて、声が出てしまった。



「失礼、わたくしは、恒枝様の補佐をしています将軍の玄蓬と申します。お声がけしたのですが、なにぶん鏡の自分に見とれていらしたのか、反応が無いもので部屋に入らせていただいた次第」



 胸に手を当て頭を下げた玄蓬に言われて、恥ずかしさを隠すため、



「あの、わたしは、蒼真さんが無事なのを確認したら帰りたいんですけど......」    



 そう言うと、



「ええ、蒼真様なら明日の昼には来るはずです。

 その前に恒枝様がお会いになりたいそうなので、お迎えに参りました、さあこちらへ」  



 玄蓬はそう言って、詞葉を玉座の間に招いた。  



 詞葉が、玉座の間に入ると大きな椅子に座る人物が、こちらに気付き、


「おお!詞葉か、よく来てくれた! よく顔を見せてくれぬか」    



 手招きしおずおず近づいた詞葉の顔を見ると、



「うむ、やはり兄上に似ておるな、美しく育って」  



 うんうんと頷くとその柔和な顔に満面の笑みを見せた。



(この人が、伯父さん、太ってはいるけど......

 確かにどことなくお父さんに似てる) 



 詞葉がそう思っていると、恒枝は哀しそうな顔で、



「すまなった......父君も母君も亡くなっておったのだな、兄上の意思に反する為、下界に干渉せなんだばかりに、辛かったであろう......」


「いえ、父と母からは、愛情をもらいましたので、平気です」


「そうか、そうか、それはなにより、どうじゃなもう下界に戻らずここに暮らしては」


「ありがとうございます......でも、私がここに残ると、変に勘ぐられて政治的な争いが起こるかもしれません。  

 ですので、帰りたいと思います」


「うむ......そうか......残念だのう、では明日にでも病に伏せる王に、会ってみてはくれぬか、王もお喜びになろう」


「分かりました。

 私もお会いしたいので」  



 詞葉がそう言うと、恒枝は満足そうに頷くと、

 今日は疲れただろう、明日話したいことがたくさんあるからと詞葉を  寝所に連れて行くように侍女たちに命じた。



(とても、優しい人......会って良かった。  

 最初から連れてこられてれば、蒼真さんに怪我させることも無かったのにな。  

 それと、明日、あの町のあの子達の話しも聞いてくれるかも......)      



 そう思いながら詞葉は、寝所の大きなベッドに入ると、疲れていたのかすぐ眠りについた。


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