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隔界記~王崩の白銀姫~  作者: 曇天
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襲撃

 詞葉と蒼真は町で荷馬車を調達し、王宮のある王都への荷台に乗っていた。



「ねえ蒼真さん、この国はそんなに貧しいの?.......」


「......いいえ、国自体は豊かになっているのです......」 


「えっ、でも......」


「ええそうですね、前より貧しくなった者も多い......  国自体が豊かになっても、一部に富が集中すると、大多数の貧しい者達が生まれる、そういうことです......」   



 そう言うと蒼真は沈黙した。



(貧富の差か、まあわたし達の世界だって、変わらないものね、でも......)  



 詞葉がそう思っていると、馬の手綱を操りながら運転していたおじさんが、



「なあ、あんた達、ここから王都まではあと半日はかかる。

 あそこに物売りがいるから、買って飯でも食わないか?」  



 と話しかけてきた。    



 馬車が止まり、蒼真が降りると、おじさんの声が聞こえてきた。     



「おい、幾らなんでもこの値段はないだろ、相場の二倍はするじゃないか」



 詞葉と年が同じぐらいの物売りの少女は、



「当然だろ!魔精ましょうや野盗、猛獣が出るのを覚悟で売ってんだよ、   

 命張ってる分、高値なのは仕方ないさね、嫌なら他所で買いな」


「いや、それでもこの値段は......」


「いや買おう」  


 

 話にはいって蒼真はおじさんの分も買い取った。  



「悪いね」  



 おじさんはホクホク顔で馬車に乗った。



「毎度あり」



 そう言った少女に、蒼真は 、



「すまぬがなにかこの先、いつもと違うことは無かったか」


「うーん、そうさね、特には......いや、関所がいつもより時間がかかったかな」


「......そうかありがとう」    



 蒼真は馬車に戻ると詞葉に、笹のようなもので巻かれた包みと竹の水筒を渡しながら、  

 どうぞと言うと馬車のおじさんに何事か伝えた。    


 

 詞葉取り敢えず貰った笹の包みを広げた、中には二つおにぎりが入っており、食べて驚いた。  

 中には塩漬けにされた野菜の漬物が入っており、とても美味しかった。



(すごく美味しい、そうよね、この文化レベルだと、重工業なんてないし、環境も汚染されてないだろうから、美味しいのは、当たり前なのかな......)  



 詞葉はさっき見た子供達のことが頭にあり、食べる手が止まってしまった。



「お口に合いませんか......」  



 心配そうに蒼真が聞いてきたので、ううん美味しいよ、

 と笑顔を作りながら、口に頬張るとそれを見た蒼真は少し笑った。  



 詞葉と蒼真が荷馬車に揺られ、少し平らに舗装されたような土道を進んでいた時に詞葉は、つい気になったことを蒼真に聞いた。



「さっきの子が話してた、猛獣と野盗は分かったけど、ましょうって、まさか、化物とかなにか?」


「魔精というのは、前に話した深精が、この世界に現れたものです。    元々深精は、この世界には存在できません。

 それを契約者の精素しょうそという意思や感情のようなものを源に、この世界に形として顕現(けんげん)現れるのですが、

 人の悪意や憎悪等の精素が満ちると、自然に顕現するものがいます。  それが、魔精です」 


「それって人が産み出す化け物ってこと」


「ええ、ですから、戦争や飢饉、災害等が起こると大量に現れることがあります。

 人の悪意ですので、極めて狂暴で人を狙って襲うといわれていますが......」  



 蒼真が話していると、荷馬車は木々が生い茂る山道に差し掛かり、山の方へと方向を変えた。



「えっ、山道にいくの?」


「すみません詞葉様、どうやら王都への道に手がまわってるようです。  ですので、少し別の方法をとります」


「別の方法」  


「ええ、この先の戒興山かいこうざんと呼ばれる所に、かつて王に仕えた賢者、清瑛せいえいと言う方が隠居されています。

 その方に知恵を借りたいと思いますが、お身体は大丈夫でしょうか」  


「ええ、大丈夫だけど.......」



 詞葉がそう答えたその時、森の方からバキバキと木をへし折るような凄い音を響かせ、何かが近づいて荷馬車に追突した。



 ドガアアアアア !!



 その衝撃で荷馬車から飛ばされた詞葉を、蒼真が抱き止め着地し、



「詞葉様! お下がりください!」



 左手で詞葉を制し、腰に差していた日本刀のような片刃の剣を鞘からぬきかまえた。  



バタバタと足をバタつかせてる馬の奥の土煙の中に、大きな黒い影が見える。   

 それは馬の倍はあろうかという大きさの六足の猪のような獣だった。



「あれは! 猛獣! いや魔精なの!?」


「いいえ! すぐ襲ってこない! あれは深精!? 追っ手か!」  



 獣は鼻から炎を吹きながら、凄い勢いで突進してきた。



「来い!霧衣」  



 蒼真がそう言うと、一瞬で辺りに霧が立ち込める。  

 そして、詞葉の手をとりその場を離れようとした瞬間、炎が大きく燃え上がって霧を消し飛ばした。  

 身体に炎を纏った獣が、こちらを睨むと、



「行け! 朱血しゅけつ」    



 と少女の高い声が聴こえ、獣が炎を撒き散らせながら、こちらに突進してきた。



風踊ふよう!」



 蒼真が両手を会わせると、掌の間から風が吹き上がり、それが緑色の鳥になると、鳥の羽ばたきが炎の獣を押し戻し両方とも消えた。       



 そして、蒼真が霧衣と言うと、霧が集まり狼のような姿になり、詞葉を乗せると蒼真は自分も乗ろうとするが、 

 壊れた荷馬車から這い出てきた馬主に目をやると、先にいってくださいと詞葉に告げ、馬主に駆け寄った。



 蒼真が馬主に近付くと、荷馬車の影から短い槍が飛び出し、肩を掠めたが、剣で辛うじて受け流し後ろに飛び退くと、

 顔に包帯のような青い布を巻いた少女が槍を回し構えてた。



「さすがに、そう簡単には取らせてくれまいか、さすがは蒼真様」


「貴様! 玄蓬殿の手の者か! 詞葉様は王の座を望んでおられない! 恒幹様にそう言われるつもりゆえ、手を引くがよい!」 



 その問いには答えず、


「良いのか、この男を助けにきたのだろう」



 馬主の首に槍を突きつけた 。



「その者は、関係あるまい!」  


 

 血を流した左腕を抑えながら蒼真は言った。



二人が睨み合うと、そこに



「待って!」


「詞葉様! なぜ戻ってこられた!?」


「あなたの目的はわたしでしょう。

 その人と蒼真さんを無事逃がしてくれるなら、付いていきます」


「なりません!」     



 蒼真が言うと、



「蒼真!」    



 と詞葉は一喝し、



「わたしのせいで、他人を巻き込んで逃げるわけにはいかない...... わたしの言う通りにしなさい」



 詞葉がこう言ったのは、そうしないと蒼真が従うと思えないからだった。



「分かりました詞葉様、ではこちらに......」



 青い包帯の少女が呼ぶと、



「いいえ、蒼真とおじさんが先です」



 と毅然と言いはなつと



(こいつ......)



「ではさっさと行くんだな」  


 

 槍を引きそう蒼真に告げた。



「すみません、詞葉様......」



 蒼真は唇をかみながら、馬主に肩を貸すと馬に乗り走り出し、視界から消えていった、詞葉はその姿を確認すると空をみた。



 もう空は日が落ちようとしていた。

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