要らない記憶
閑話
━━━━━━━━━━━━ああ、きっと今夢を見ている。
たまにあるんだ、こういうの。
くだらなくて、つまらなくて、あたしのことなのにあんまり記憶が無い。
それなのに夢にはたくさん出てくる。
「おーい、楪〜〜!!」
「まってよーーー!!」
目の前を走る子供2人。
木刀みたいなものを持ってる。
信じたくないけど、女の方があたしの幼少期。
男の方はただの幼なじみ。
よく遊んでたんだろう場所。
崖が近くて、ちょっと危ない。
「お前らー、そろそろ戻ってこないと修行倍にするぞー。」
「ちぇっ、行こうぜ楪。」
「まだ遊びたいのにー。」
あれは師匠だ。
今よりはかなり若く見える。
とは言ってもおじいちゃんなのは変わらない。
今よりは確実に強いだろうね。
そして、生意気なガキんちょ共。
刀使いとしてまだ半人前。
持ち方、振り方すら危うい。
それでも、期待の新人だとは言われたりしたけど。
「うわっ、なんだっ!?」
大きく地面が揺れる。
そう、地震が起きたんだ。
「お前ら、危ないからこっちに寄れ。」
「うん。」
2人して、そばに寄ろうとした瞬間。
大爆発でも、起きたかのような揺れ。
幼なじみの方は男の子だったし、ちょっとは耐えられたらしいけどあたしはちゃんと女の子だった。
揺れに耐えられず、ふらふらとする。
崖から小さい石などが落ちてきているのを見て、何とか急いで師匠のところに行こうとしたんだっけな。
……何が起きたかわかるよね。
「きゃっ!?」
揺れのせいもあって転んでしまう。
それと同時に、崖崩れ。
いくつもの岩石が落下してくる。
「楪ッ!」
師匠が急いでこっちに来ようとするけど、既に遅かった。
嫌な夢だ。
「ああああああああああああッ!!!いだああああい!!!」
避けきれず、左腕が巻き込まれる。
あたしが隻腕になった理由。
なんてことは無い、事故。
揺れは収まった。
苦しむ子供のあたし。
……別に夢の中で助けたって何も変わりやしない。
師匠も幼なじみの子もよってくるけど、腕はその時点で潰れて使い物にならない。
師匠はあたしの口に布を噛ませた。
「……楪、お前の腕を切断するしかない。」
その時はただのあたし達を呼びに来ただけだから刀は持ってなかった。
あるのは護身用の匕首。
そんなんじゃ岩すら斬れない。
あたしも死にたくはなかったから、泣く泣く受け入れた。
左肩辺りを布で縛って、血を止めてから。
「ふぐうううぅぅぅうううう!!!!!」
綺麗にあたしの左腕が切断された。
体を押さえつけられ、素早く布を巻いて止血された。
その瞬間のことはかろうじて覚えてる。
本当に痛くて、熱くて、言葉にできないような感覚。
じたばたと悶えている。
そして次第に呼吸が浅くなる。
「楪、しっかりしろよ……!」
処置をしている師匠。
子供のあたしはもつ気を失う寸前。
━━━━━━━━━目が合った。
その目は酷くて、冷たくて、暗い。
人間のようには思えない目。
その目であたしを見つめた。
「━━━━━━━━」
子供のあたしが何かを喋ったが、聞こえなかった。
次第に夢も崩れていく。
自分のことなんて全く考えてなかったけどさ、そこからかい。
「……。」
目が覚める。
きっと、嫌な夢を見た。
寝起きが最悪だ。
空を見ると夜。
ビナーから出て、次の目的地に向かっている。
周りはみんな寝ている、アステリアとリナリア以外は。
どうやら、2人は仲良くなっているらしい。
……イマイチ気分が乗らない。
二度寝でもするか。
アステリアがこちらに気付いた。
話を済ませて、こちらに来る。
「おはようございます。」
「ん。夜だけどね。」
「もうじき日が登りますよ。……天気が悪いので太陽は拝めそうにありませんが。」
「何話してたの、リナリアと。」
知らないうちに仲良くなっちゃってまあ。
「はい!家事の話で盛り上がってしまいまして!朝食ですとか、お洗濯の…あ、ごめんなさい。」
「ふふ、楽しそうじゃん。」
「役割が同じだと話も弾んで楽しいです。」
「何よりだ。」
なんの夢だったのか、もう覚えてない。
ただ、何となく不快だ。
「楪さん。」
「んー?」
「……怖い目をしてます。」
「……悪い夢を見たからね。ごめんごめん、もう一回寝て治すよ。」
……何度も言われる、私の目。
それほどまでに、私の目は希望に溢れていないのかい。
「はい、おやすみなさい。無理はなさらないでくださいね。」
今だけは、アステリアの輝くような美しさが鬱陶しく感じた。
良くない。
……目を瞑る。
まあ、あたしが不快になる夢なんて、過去の事しかないだろうけど。
どうせ、あたしが変わっちゃった日の夢か、師匠に怒られてる夢かのどっちか。
……あたしは変わった。
単純に考えて、子供の頃と今のあたしじゃ別人過ぎるほどに変わった。
そりゃあ心の成長で変わるものはあるさ。
でもそうじゃない。
あたしの変わり具合は変。
蝶の幼虫が、蛹にならず蝶になるくらいには変。
あたしが変わった原因を、あたし自身知らない。
何が変わったかって思考と判断。
いつしかあたしの考えの中には殺し、だとか。
裏切る、だとか。
そういう非道なことを思い浮かぶようになった。
いつからなのかは分からない。
けど何となく検討はついてる。
どうせ、腕が無くなった日。
あの日から、腕と一緒に何かが欠けた。
人として大切な何かが。
いつも思う、あたしにはなにもない。
あるのは、刀の技術だけ。
涙を流すことも無くなって、愛想笑いするだけの人形のようなあたし。
本当に何も無い、あたしにはなにもない。
朽木 楪という人間には、何も無い。




