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我儘な願い

本拠点のギルドが設営し終わって、特にやることも無くなった。

ここに滞在するのは1ヶ月、とりあえずここで持ち主を探してやらなきゃね。


「楪、行きたいなら外出ていいぞ。ワシらはどうせ何も無い。」

「そうかい?ならお言葉に甘えて。」

「大事は起こすなよ、面倒だから。」

「はいよー。アステリア、行こうか。」

「分かりました。」


のんびり過ごすのも悪くは無いけど、頼まれたからにはしっかりとやるべき。


「…と言ってもねぇ。」

「手掛かりが0、ですね。」


分かっていることは何もない、ただここにいるかもしれないというあやふやなもの。

ま、適当なのはスパイスということで。

最初から分かってちゃ確かにつまらない。


「書斎に行ってみるのはどうでしょう。何かわかるかも知れません。」

「行ってみようか、…ただあたし文字読むの嫌いでね。眠くなっちゃうよ。」





〜ビナー大書斎〜


「いやぁ……圧巻。ここまで大きいとはね〜。」


しんと静まった空間。

書斎特有の独特な匂い、寒くもなく暑くもないちょうどいい温度感。

周囲には本を読む人達が少し見える。



「武器関連の本で調べてみましょう。ええと、あちらの棚ですね。」


颯爽と何倍もある大きな本棚に向かって歩いていくアステリア。


「ツキミ、あんた武器としての自分の名前とかないの?」

『覚えてないよそんなのー。』

「思えばそうだよ、あんたいつ産まれたのさ!」

『えー?2000年前とか?』

「はぁ!?……大きい声出しちゃった。そんなの見つかるわけないじゃないか!」

『いやいや、見つけて欲しいのは前の持ち主だから1000年とかだよ!』

「変わんないじゃないか!」

「ふふ、何を喧嘩してらっしゃるんですか?」


いくつかの本を手に取って戻ってきた。

分厚いほんから普通の物。

それを本当に読む気なの。


「ツキミに聞いたんだけど、持ち主は1000年前って!」

「……1000年…ですか。」


何やら神妙な顔をしている。


「なにか心当たりがあったり?」

「いえ、1000年前は世界樹が植えられたとされる時期です。……精霊王様がそれ持っていて、そしてそれを貴方に頼むのは何らかの理由があると思うのです。」


私に託した理由かぁ。

私でなきゃいけない、なんてことあるのかな?

確かに腕っ節は自信あるけど多分そういう話じゃないだろうし。


「…精霊王様より、ミナリ様…ええと、あの時いた白髪の背の低い女性のことです。あの方がより大事そうに抱えていたのを覚えています。」

『……あの子かー。あたしちゃんって言うよりは、あたしちゃんの元持ち主のことが大事そうに思えたね。…何故か同じく思い出せなかったみたいだけど。』

「思えば不思議です。精霊王様も何も分からないと言っていました。」

「ふーん、なら持ち主がいる…って言うんじゃなくてなにか鍵になるものがここにあるっていう捉え方の方がいい?」

「そうですね。」


誰も覚えていない、その人。

切り抜かれた本のページのように、確かにそこに存在したという事実だけがある。

その内容は誰も知らない。


「武器関連より、歴史に関しての書物などの方が良さそうです。手分けして探しましょう。」

「じゃああっちを探すよ。そっち側は頼んだ。」






周囲を探索中。

いやはや、書斎ってのはすごい。

為になりそうな本から何を言ってるのか分からない本。

何から何までたっくさんだ。

歴史の本となれば尚更訳が分からない。

…ふと、近くの扉が目に入る。

吸い込まれるように扉に手をかけた。

古びた扉のようで軋む音が聞こえた。

中は小部屋だった。

子供が喜ぶような小さい部屋。

1つの本棚と、誰かが使っていた痕跡のある机。

机の上に置き手紙のようなものがあった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

もし、ここに誰かが来たのなら。

僕はとても嬉しく思う、悲しくも思う。

男かな、女かな。

僕にはきっと分からないけど、分かるのは僕にはやるべき事が増えた事。

君のせいでは無いと言いきれないが、ここに君が来た時にはもう既に居ない。

僕は僕で、君は君できっとやることがある。

今、ただ一つだけ君に言えることは、心からの謝罪かな。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「なんだい、気持ち悪いなぁ。」

『楪、ちょっといい?』

「んー?」

『私を握って。それで人の姿をイメージして欲しい。』

「…?いいけど…。」


言われた通り、刀を握る。

そして目を瞑って人の姿を頭の中にうかべる。

誰かではなく抽象的な人の形。

そうしていると、握っていた刀の感覚が無くなる。

不思議に思い目を開けると、目の前には長い銀髪の少女がいた。

輝くような美しさで、目が眩むほど。

服は着ておらず、かなり幼い。

ヴェンと同じくらいに見える。


「誰っ!?」

「大丈夫、ツキミだよ。」

「あんた人になれたのかい!?」

「まあ、少しだけだけどね。それよりもここ、分からないけど懐かしいの。私に関係があるかも。」


真剣な顔で本棚に手を出して、読み始めた。


「……無名の救世主。か弱き少女。悲劇の傍観者。……知ってる?」

「いや、知らないね。アステリアとかに聞かないと。」

「……世界樹の苗人に……慈悲なき天狗!」

「後者、もしかしたらうちの先祖かもね。どんな本なの?」

「本自体はただの物語。ただ、題名がない。」


いつもおちゃらけてるツキミがこんなに真面目。

…持ち主によって変わるって言ったっけ。

これが本当のツキミなのかな。


「そこの置き手紙、読んだ?」

「まだ。……。」


読み始めて、数秒。


「間違いない、コレ私を作った人だ。この部屋の感覚、きっとそう。魔法で作られた部屋。」

「そ、そうなのかい?」

「実際、作られた時の記憶も定かじゃないけど、絶対にそうって言える。」

「でも探してるのは前の持ち主だろう?」

「そうだね。……ちょっと待って。今ここで光で方向を示してみる。」


そう言って、月見の身体が光り始める。

光はどこを示すでもなく、漂い続ける。


「ここじゃダメかも。外に出よう。」

「わかった。……けど、元に戻ってね?流石に全裸はまずいよ?」

「あ、忘れてた。人の体は何せ初めてだから。っと!あたしちゃんの手を握って!」


今度は人になったツキミの手を握る。


「イメージするのは刀の形ね。」


思い浮かべて、数十秒。

手にはしっかりとした重さが現れる。


『よっし!刀に戻った!とりあえずはアステリアと合流しよう!何か知ってるかもしれないし。』

「そうだねー。」


扉をもう一度空けて部屋を出る。

閉めて振り返ると何故か扉は消えていた。


「……これも魔法ってことかい?」

『そ、記憶は定かじゃないけどあたしちゃん作った人、こういうのが得意だった気がする。』


と、ツキミと話しているとあたしを探しているアステリアが見えた。


「あっ、楪さん!どこに行ってたんですか…!」

「ごめんごめん、探させちゃったね。」

「なにか収穫はありましたか?」


先程あったことを淡々と述べた。

謎の部屋、本の内容、関連する人物。

そして、私達が知った単語についてこう答えた。


「……慈悲なき天狗がもし本当に楪さんの祖先だと言うのならかなり話が変わってきます。」


あたしらが持ってきた本と、アステリアの持っていた照らし合わせながら何かを考えていた。

そして解答が出たのか、こちらを見据えた。


「世界樹の苗人。これは私も知っています。あの大きくそびえ立つ世界樹の核となっているお方です。今もあの木の下で世界樹を支えています。」


やっぱり知ってるんだ。

少なくともあそこにいたから何かわかるんだろうなとは思ってたけど。


「無名の救世主、悲劇の傍観者に心当たりはありませんが……か弱き少女。これはミナリ様か、精霊王様のことを指しているかもしれません。この本を見るに、世界樹が植えられた、という物語を展開していますが、事実です。」

「ええっ!?あんたたちってそんな凄い存在だったのかい!?」

「私は立ち会っていないのですが、精霊王様たちは本当に凄い方達なんです。」


いつからあるのか分からないって言われている世界樹。

御伽噺にもなったりしている。

それが本当に植えられたって事実があるだけでびっくり。

あたしでさえ子供の頃にあの木が出来てから世界が生まれたーなんておとぎ話聞かされたし。


「世界樹が植えられたのは、世界が滅びかけたからだと聞いています。生き物すら1つ存在しないまでに滅びかけた世界に樹を植えて、再生させた。その前に何があったかは精霊王様は教えてくれませんでしたが…。」

「へぇ、怪しいのはその精霊王さんじゃないのかい?」

「私は…なにも言えません。」

『ごめん、アステリアと面と向かって話したい。また戻るよ。』


そう言って今度は何もしないでも人の形を取った。

それを見たアステリアはかなり驚いていた。


「…と。この姿では初めまして、アステリア。私がツキミ。いや、本当の名前はもう消えたけど今はそう。ねえ、私を見て何か感じることはある?」


ツキミの真剣な眼差し。


「……いえ、何も。美しい姿だと思いはしますが。」


数秒考えて答えた。

この2人は特に何も関連は無いのかな。


「そっかー。…一応ね?1000年前の記憶あるの。貴方の好きな精霊王がまだ未熟な頃。木が植えられた頃。私は持ち主のいない剣としてあの場に捨てられた。何故かその前の全く記憶が無い。そこだけがない。」

「ふーん。」

「興味なさげだね。……覚えてるのは、ルドベキアという名前だけ。正直な話すると見当は付いてるんだ。」

「というと?」


以外にもあっさりと言い放った。

どういうことか聞かなきゃね。


「か弱き少女、これは楪も出会ったミナリって吸血鬼。世界樹の苗人はアステリアが言った通り。……それで、慈悲なき天狗。これはきっと、漆という……まあ、楪の先祖様だ。」

「何となく知ってるね。」

「ただ問題はそこじゃない。傍観者とやらについても見当はついてるけど、持ち主じゃない。……確実にこの私の記憶にない無名の救世主。それがきっと私の持ち主だと見た。」

「なにか確固たる証拠があるのでしょうか。」

「うん、この物語は全部真実が書いてあるからだよ。」

「ぜ、全部!?」


思わず声を荒らげてしまった。

何度目だ。


「物語として表現が変えられている部分もあるが大凡が同じなんだ。ただ、この物語が本当だとするとおかしい部分も出てくる。それがさっき言った救世主。私にそれの記憶が無い。……そうだ、なぜ今まで私は気が付かなかった?……きっとあそこにいたミナリもそうだっ。この世界を救った肝心な何かが…私たちから抜け落ちてるッ!」


唐突に頭を抱え始めた。

苦しむように必死に思い出そうとしている。


「お、落ち着いて。」

「どういうことなんだ!?記憶が……そこだけの記憶が一切思い出せないッ。……精霊王だ。彼女に聞かなければ。私の記憶を紐解くことが出来れば、持ち主にも繋がる。…精霊王に会いにいこう。」


あの綺麗なお嬢さんに、ねえ。


「待ってください。……今すぐ世界樹の下に向かうことは出来ません。現在は精霊王様の魔法によってあの空間が隔離されています。」

「なんでだい?あたし入れたじゃないか。」

「それは楪さんを迎えるためだったはずです。」

「じゃあどうするって言うんだ!私の…っ、私の主はっ。」

「落ち着いてください。方法はしっかりあります。入るためには、そこにいく専門の精霊がいますので、その方に頼めば大丈夫です。…が、時間がかかると思うのです。会って話をしてから少なくとも半年かと。」


……その時に行くのはあたしとツキミだけだ。

ギルドのみんなに迷惑はかけられないし。

半年経ってしまえば、きっとアステリアはもう居ないはず。

半年か。


「ツキミ。」

「……分かってる。我慢はできる。少し熱くなった。……でも、それだけ私の主は……大切だった……気が…。…クソっ。……ごめんねアステリア。頭を冷やすよ。」


そう言い、また私の手に収まった。

気の所為かもしれないが、本当に熱くなってるような。


「いえ、お気になさらず。焦る気持ちもよく分かります。」


大切な人を思い出せない気持ち、私には分かりえないけどとても辛いだろうな。


「それよりも、精霊に会わないといけませんね。その精霊は廃国ダアト周辺の森にいます。イェソドに戻りさらに南ですね。」

「それじゃマスターに聞きに行こうか。」


















「……見えた。やっと見えた。不確定で、何もわからなかった。けどようやく鮮明に。」


精霊王と呼ばれた彼女。

ただ、大きな樹木の下で黄昏れる。


「……うん。でも、謝らなくちゃならないのは貴方だけじゃないよ。私も悪いし。」


そこいるのは寝息を立てている少女の他には誰もいないのに、あたかも誰かと会話するような独り言。


「こんな私でも見えない未来があるのは不思議。…それだけあの子は…特異なのかな。」


そっと、寝ている少女の額に触れた。


「少し、行ってくるね。」















「マーーースターーーーー!!!たっだいまーーーーー!!」

「おう、遅かったな。なんか見つかったかよ。」


本拠地に入ると既にみんな夕食を食べていた。

今から加わるのもなんだか癪な気もしなくもないかもしれない…?

のでとりあえずマスターの隣の席へ。


「次の目的地は見つかったかよー!」

「真似すんな。で、何処だ?」

「ダアト…だっけ?」

「そりゃまた辺鄙(へんぴ)な場所にいくなぁ。いいけどよ、あの国は荒れてあまり整ってねえからな。それだけは注意しろよ…つってもあんた程の奴が死ぬとは思えねぇけど。じゃ、出発は3週間後にしとく。それまで金稼ぐなりなんなり好きにしろ。」

「はーーーい。」


酒をついでもらい、グラス片手に外を出る。

夜の風と景色が良いので酒も進む。


『楪。』

「んー?」

『楪は家族が死んだ時、どう思った?』

「悲しかったよ。」


そりゃ悲しかった、子供ながらになんでこんな目にって思った。


『……聞く相手間違えた。』

「なんでさ!少なくとも子供の頃は本当に純粋だったんだよ!?」

『私は親じゃないけどさ、持ち主がずーっと変わってきてる。だから覚えてることも少なからずある。』

「へー。例えば?」

『最初の持ち主は小さな男の子で、直ぐに両親に咎められて捨てられたし。初めての女性の持ち主はとっても心が強かった。割と色んなことを覚えてる。』

「でも何故か前の持ち主だけ覚えてない。」

『うん……ほんと心苦しくてさー。』


私の脳に聞こえる声はやはりどこか悲しそうだった。

物とはいえど、こんな風に感情を見せられたらちょっと振りにくいや。


『本当なら今すぐ抜け出してダアトに行きたい。』

「どうする?私はいいよ。目的は元々それだし、お金稼いでさっさと抜けてもいい。」

『楪は……それでいいの?』

「そりゃあね。あたしに課せられたのはツキミの持ち主を探すこと。家族ごっこじゃないよ。」

『だったら……速く行きたい。出来るだけ早く真実を知りたい。』

「そうするか!明日から稼ぐぞ〜。」

『ありがとう。』


ツキミらしくない、なんて野暮な事は言わないでおいた。

誰しも素でいたい時はある。

ツキミはツキミとして生きているけど、元を辿ればきっと本当の人格がある。

それが一番過ごしやすいなんて誰でもそう。

からん、と鈴が鳴り扉の開く音がした。


「月見酒、風情がありますね。」


出てきたのはアステリア。

私と共に月を見上げる。


「中にいなくてよかったのかい?」

「気になって様子を見に来ました。それに今日は良い月です。」


三日月、誰かが食べてしまったように欠けた月。

何故月が欠けるのかさえ知らないけど、誰が見たって綺麗だと思う。


「ツキミが…っとややこし。刀の方ね?速く真相を知りたいって言うから、とりあえず明日からお金を稼ごうと思って!」

「分かりました、その時がきたら別行動を取るってことですね?」

「うん、物分りが良くて助かるよ。」

「マスターには言いましたか?」

「いや、まだだね。」

「では伝えてきます。良い夜を。」


再び中に入っていく。

一瞬だけ、隣に居た。

その一瞬でさえ、夜に見るアステリアは美しかった。

星の精霊の名は伊達じゃないね。


「……ん?」


夜空を眺めていると、流れ星のような輝く光が見えた。

よく見ると、それは明らかにこちらに向かってきていた。

それは、天使のように舞い降りた。


「こんばんは、楪。」

「おお、精霊王サマじゃないか!」


精霊王本人だった。

それは、あまりにも美しすぎた。

月女神と言われている所以、この目で理解出来た。

この輝き、ほのかに感じる慈悲のようなもの。

そりゃあ、アステリアも慕うよね。


『ち、ちょっと楪!いい!?』


私の答えを聞く前にまた人の姿に。


「ちょっと待ってね。今アステリアもきっと来るよ。」


そのすぐ後に、いかにも走ってきたような忙しなさで扉を勢いよく開けた。


「せ、精霊王様ッ!?」

「集まったね。時間が無いから要件だけ伝えるよ。無名の救世主の事は教えることが出来ないの。」

「なんでッ!きっとその人が私の持ち主ッ。」

「理由は無名の救世主は禁忌の存在、知ること自体が罪だから。知ってしまったら最期。幽閉されて何も出来なくなってしまう。それでは辿り着けない。」

「……貴方は知ってるんじゃないの。私の持ち主を。教えて。」

「うん、ルドベキアの推察はあってるよ。無名の救世主がきっと持ち主。」


ルドベキア、前の名前だったかな?


「教えてよッ!?私だけでもッ!別にどうなったっていいからッ!」

「ダメ。名前を聞いても、思い出を聞いても思い出せないよ。…だから貴方に伝えに来たの。貴方のすべき事。全て終わった後に…アステリアが生を終えるその時になったら、世界樹に来て。何があっても、その道しかない。」


傍で、なんとも言えない顔をするアステリア。


「もう少しオブラートに包めやしないのかい?アステリアの気持ちとか考えたことある?」

「申し訳ないと思うけど、そうじゃないと、私の持ち主を見つけてあげてというお願いは達成できないから。」

「……考えたらおかしい話だ。なんで持ち主を知ってるのに自分で渡さなかった?」


私の話を無視して、アステリアの方へ向かった。


「ごめんね、アステリア。もう、海は見た?」

「……い、いえ。ですが私は精霊王様の為ならなんでもっ。」


震えた声で、答える。

それを見て、精霊王は優しく抱きしめた。

包み込むように、受け止めるように。


「じゃあ、海を見ておいで。とっても綺麗だから。私に引けを取らないくらいに、ね。」

「ちょっとー。あたしからの信頼度はかなり低いよ〜。」

「楪、貴方とは剣を交えた方が速いんじゃないかな。」

「なんだい、意外と乗り気だね。」

「私は未来を見ることが出来る。でもね。貴方だけ。貴方だけは何も見ることが出来なかったの。」


じっと、淡く月のように光る瞳で見つめられた。

恐ろしさがある訳でもないのに、体が硬くなる。


「気分屋だからね。」

「ふふ、案外そういう話なのかもしれないね。」


体も鈍っていた所、本気をぶつける相手もいなかったけどこれなら思う存分技を振るえる。


「いいかい、ツキミ。」

「使って。」


私の手に再び戻る、ただ命を奪う武器として。


「虚、美枝無。」


鞘を置き去りにする抜刀。

抜刀をしたということすら悟られずに、一瞬で相手を切り抜ける。


「似てる。」

「……あらー。」


かすり傷1つ着いていない。

なら、攻撃を緩めずに。


「燼。」


接近、間合いを見極めて下からの斬撃3連続。

次第に刀は炎を帯び始める。


「……漆にはなかった技術。」


また先祖の名前。

何か知ってることは明らかだね。


「宵月。」


炎を帯び始めた刀で、緩急のある突きと斬撃の組み合わせ。

あたしの技全て、使うのは初めてだからぎこちなさはあるかもだけど、それでも全て避けられた。

出来うる限り、あたしは殺す勢いでやってる。


「……見られて良かった。」

「ちょっとちょっと、あたしの技は見世物じゃないんですけど!」


最初から分かってた。

絶対に叶わないって分かってた。

けど、好奇心っていうのは止められない。

あたしの斬撃は当たっている筈なのに、切れた感触はなく、避けている素振りもない。


「……楪さん。無駄なんです。夜の精霊王様には何をしても攻撃は当たりすらしないんです。」

「んなインチキな!?」


いや…きっと昼でも結果は変わらないだろうけどね。

あたしの攻撃、ちゃんと目で追われてた。

人間には到達しえない領域のモノ。


「未来が見えないだけで、ほんの少し先なら誰でも見える。だから、ごめんだけど私には叶わないかな。」

「やれやれ、負け戦は好きじゃない。」

「ねえ、私を信じられないかな。」


私の目をじっと見つめる。

吸い込まれるほど綺麗で、何か見透かされているようで。


「まあ、信じられないに決まってるよ。」

「それについては、私から。」


アステリアが横から割り込んできた。


「精霊はその生を終える時、意識は消えますが何らかの形で世界に残ります。……私はきっと、体の結晶が残るでしょう。」


自分の右腕を伸ばし、じっと見ていた。


「その遺物には、必ず力が宿るでしょう。きっとツキミさんの持ち主を探す鍵になるんです。」

「気付いてたんだね、アステリア。」

「じゃあなんだい、アステリアは死ぬ事に意味がある。だから私と共に旅をさせてるって訳?」

「言ってしまえばそう。……だからこそ。私はアステリアに色んな景色を見て欲しかった。何も出来ない私がしてやれるのは送り出すことだけだった。」


なんとも言えない。

綺麗事で済ませようとしてるけど結局は罪を犯した囚人に最後の晩餐を選ばせてあげるようなもの。


「アステリアに自由がないじゃない。」

「楪さん、いいんです。私という精霊はそういう運命だったんです。」

「…ん。じゃあ今こそ問うべきだよ。ツキミにも。その持ち主を見つけてなんになる?」


あたしもただ従ってるだけじゃない。

別にそれでもいいけど、1人の自由が奪われてる。

あたしのこの行動に意味があるのか。

もう一度問いたださねばならない。


「私の大事な人。…大事な方を、救うため。私のわがままだよ。全部押付けだけど、全部投げやりだけど。私は何も出来ないけれど、それでも救ってあげたい人がいる。頼れるのは、楪と、アステリアだけだった。」


アステリアはきっとそれが私の生き方と答えるだろう。

だから、もう1人に。


「ツキミ、あんたはどうしたい?」


しばらくの沈黙。

嫌に明るいこの場所。

口を開いた。


「消えた私の前の持ち主。……絶対忘れちゃいけない気がしてる。それなのに記憶が無い。だから私は真実が知りたい。私自身の真実を。アステリアが犠牲になっても、楪が犠牲になっても、知りたい。それくらい、大事な記憶な筈なんだ。」


意思は変わらないみたい。

じゃああたしは?

これだけ疑って、あたしはどう?

決まってる。


「なら話は速い!精霊王サマもあたしはそんなに信じてないけど2人がそう言うなら、あたしも従うさ。」


あたしの言葉を聞いて、1番安心していたのは精霊王だった。


「ありがとう…。本当にありがとう。」

「……最後に2つ聞かせてよ。まず、私を信用出来なかったの ?」

「うううん。やってくれるって信じてたよ。……でも私はほら。……未来が見えるのが普通になって、貴方という不安要素が出来て。今もそう、ずっと先が見えなくて心配なの。だから、その言葉を聞いて安心した。」


笑顔を見せた。

その笑顔はどうしてか、幼く見えた。


「もひとつ。あたしの先祖ってどんなの?」


少し意地悪な笑みを浮かべて聞いた。


「……そうだね。誰よりも優しくて、誰よりも慈悲がなくて。そして…誰よりも努力家だったよ。」

「……そっかー。」


似てるなー。

優しいってとこ以外は?

なーんて。


「そろそろ時間。…未来を見る私の原則は、その未来を変えないこと。……これまでの旅も、これからの旅も。貴方達だけの宝物だよ。じゃあ、今度は世界樹で会おうね。楪。」

「そん時にゃ全部話してもらうよ?」

「うん。」

「さようなら、精霊王様。」

「アステリア、これだけは聞いて。」

「…はい。」

「貴方が逃げたって、誰も怒らない。悪いのは私だから。」


アステリアが何かを伝えようとする前に、光の粉になって消えてしまった。


「あたしも同じ意見だ。何も従わなくていい。方法は探せばきっとある。」

「分かっています。……でも私はこれが良いのです。」


全く、精霊王サマが大好きだね。


「ひとつだけ、我儘を言っていいでしょうか。」

「いいよ〜。言ってみな?」

「できるだけ速く、私が元気なうちに海へ行ってみたいです。」

「ん、皆で行こう。」













我儘。

人の事を考えずに好き勝手やることの事。

精霊にも、偉いやつにも、剣にも、人間にもきっとひとつくらい我儘はある。

……あたしは一体何があるのかね。

人形ですら、きっと我儘ひとつあるだろうに。

あたしには何も無い。

欲も、願望も、目指す先も。

ああ、今日ももう終いだ。

これ以上は何も無い。













()()()()()()()()()()()()()。』


頭の中で反響する。

ああ、私の未来が見えないと言うけれど。

そんな事言わないでよ。

以下いつもの

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「コンビニ!」

「アステリアはお休みで〜?人形態のあたしちゃんが現れた!」

「なーんかシリアスっぽーーーい雰囲気〜。大変そ〜。」

「シーっ!そういうこと言わないの!」

「好きな物は?」

「ないよ!」

「嫌いな物は?」

「ないよ!」

「なんであんたの回あるの?絶対ぺるにゃーちゃんに回した方が良かったじゃん。」

「ほら、あたしちゃんって見た目が絶望的にびしょうしじゃん?黙ればクソ美人じゃん?」

「自分で言っちゃダメでしょ、美人なのは認める。顔付きとか思いっきり凛々しいお嬢様系の顔してるのに喋るとおしゃべり小僧になるもんね。」

「そのギャップにしばかれろオタク共!あたしちゃんの下敷き買え!」

「そんなものは無い!次はペルナが来るよ!」

「ありがとうございました〜!」

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