3頁目 1つ目の街 イェソド
少し遅れました
申し訳ないと思っていますがゲームが楽しいです
旅の始まりの日の朝は清々しい程に晴れていた。
動物たちの鳴き声、川のせせらぎ、風で擦れる葉の音。
全てが心地よい、とても素晴らしい朝。
「……ん、おっはよー。っと!」
目が覚めたので起き上がる。
木に腰掛けて寝ていたのでまあ体が凄いことになってるが少し動かせば問題なし。
ちょうど腰掛けていた木で太陽が隠れ、不快感のない朝だ。
眩しいと思いながら迎える朝はあまり好きじゃない。
「おはようございます楪さん。偶然バケツが捨てられていたので水を組んできました。」
「ありがとさん!支度したらすぐ出るよ。ちょいと待ちな。」
「分かりました。…寝起きは辛くないですか?私は苦手です。」
「そんなので辛かったら刀なんて握れやしない。刀使いは何があっても剣先だけは常に鈍らないのさ。」
一切眠そうな表情を見せない。
それどころかつい数秒前に起きたばかりのはずなのに、既に元気。
「にしてもこの辺り川があったんだ。音は聞こえなかったんだけどー。」
「いえ、私の蝶で川のあるところまで行ってもらいました。」
「ほー、便利だねぇ。」
そう言って服のように巻いていた包帯のサラシをおもむろに解き始める。
「な、何をしてるんですか…?」
「着替えだよ。ま、着替えるって言っても濡らして絞って再利用するだけだけどね。」
そう言って上裸になってしまう。
手には解いた包帯。
「そういうのは遠慮を持った方がいいのでは…。」
「そうかねぇ、男がいるなら気にもするが、女同士だよ?」
男勝りと言うべきか、そんな女のおの字もない様なことを言いながら包帯を水に浸し始めた。
「誰かいるかもしれないですから…。」
「いるなら出てこいってんだ!ま、こんな貧相な体見ても誰も得はしないよ。」
「楪さんはとても細身で綺麗だと思いますよ。」
「褒めても何も出ないよ。…っと、包帯絞ってくれる?家なら足使うんだけど流石に地面で抑えるのは汚いからさ。」
「分かりました……はい、どうぞ。巻くの手伝いましょうか。」
そっと両手で受け取り、難なく絞る。
その手が羨ましいかと言われればそうでも無い。
不便なだけ。
私はこれで生きてきたし、生きていく。
渡すと同時に言ってくる。
「あんがとさん。巻くのは自分でやるさ。」
片方の先端を脇で挟み、片手で胸を包帯で巻いていった。
途中で強く引っぱって締めては巻きを繰り返し、さっきと同じ形になった。
「何故服を着ないのです?」
「片腕専用の服がないから…なんて最もらしいような嘘は辞めるとして…。昔っからだね、服着るの面倒でさ。何も腕が無くなってからの話じゃない。この羽織りも村を出る時にもらったばかりさ。私にゃこれ羽織るだけで充分。」
「とても似合っていると思います。」
サラリと受け流す。
全くもって気になどしていないようだった。
彼女らしいと言うべきか、サッパリしすぎと言うべきか。
「そりゃどーも。さ、支度は出来たかい?」
「私はいつでも大丈夫です。」
「じゃ行こうか。」
羽織を背中から背負い、いつものように刀を肩に乗せて歩き始めた。
放浪人、女刀使楪、いざ参らん。
今度こそ本当に旅の始まり。
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向かう最中に、色々なものを見た。
狭い世界で生きてきた私には、同じ森でも違って見える。
見たことの無い動物も見た。
人は全く会わなかった。
まあ、そりゃ当たり前なんだけど。
歩けば歩くほど街の様子が見えてくるのには流石の私でも少し心躍る。
足を着けたことの無い土地。
嗅いだことの無い風の匂い。
聞いたことの無い音。
いやでも、一つだけ感じたことのある物はあったね。
なにかなんて書くまでもない。
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「本格的に見えてきました。」
遠くに見える大きな城のような建物。
そして手前に見える無限に拡がっているかのように見える街を囲む壁。
これが基礎の街、イェソド。
「ああ、人通りも多くなってきたね。」
その言葉にハッとしたのか浮いていたのをやめて地に足をつけた。
「どうしたんだい?」
「精霊というものは希少な存在、ましてや結晶病を患っている。それだと物好きの方に目をつけられてしまいますから、人間に偽装します。」
結晶で出来た羽はいつの間にか消え、昼間でさえ輝く宝石のような長い髪から飛び出るエルフのような耳は主張を辞め、隠れてしまった。
元々結晶だけで肌を隠していたアステリア。
どこからともなく白いワンピースが現れてそれを身に付けた。
全くの無地。
完全に結晶となっている右腕側に生地はなく肩紐は左側のみ。
ワンピースが風で靡く様は、まさにどこかの令嬢。
差し詰めあたしは用心棒ってところか?
「……どうしました?」
「気をつけな?あたしは面食いさね。」
「お褒め頂き恐縮です。」
「あたしは本気だよ?」
「…へ?」
「さ、中に入ろうか。」
「ちょ、ちょっと真意を…!」
適当におちょくって中に入ろうとした。
「失礼お姉さん、ちょっといいかな?」
「あたし?」
門番が話しかけてきた。
「そうです。武器を所持してる方はこちらで手続きを。 そちらのお嬢さんの護衛なのは分かるのですが形式上仕方ないので…。」
どうやら本当に用心棒に見えたらしい。
「護衛という形なのでこちらに貴方のお名前を。」
朽木 楪…と。
「次はお嬢さん、こちらにお名前を。」
「はい、失礼します。」
置いてあった羽根ペンを魔法で浮かせて紙に書き記した。
「うおっ…と…。アステリア様…。こちらは家名ですか?」
「……ええと…すみません。こちらで。」
そう言って追加でアステリアの後にローリエと付け足した。
「アステリア・ローリエ様ですね。…あまり聞かない名ですがどちらから?」
「ティファレイトからです。」
「…言われてみれば納得の美しさです。お時間を取らせてしまい申し訳ありません。最後に身分がわかるものを。」
そう言われた途端あたしとアステリアどちらも同じタイミングで目が合ってしまう。
全部嘘だからねぇ。
とりあえずウィンクで返した。
納得したのかしてないのか分からないが小さく頷き喋りだした。
「実ははあまり公には言いたくないのです。これで身分とさせて貰えないでしょうか。」
そう言って空けた手のひらから美しい宝石が。
きっと体の結晶のものだろう。
「私の体からしか取れませんので、印にはなると思います。」
「はっはい!ご貴重なものをっ!通っていいですよっ!」
見るからに突然慌てだした。
普通の人は宝石なんか手にしないからねぇ。
アレ売ったらいくらになるんだろう。
そんなことを考えながら門をくぐった。
「変な顔をしていますよ。何を考えたんですか。」
「それ、売ったらいくらかと思ってね!」
「そういったことには使いませんよ。」
「残念!」
さて、街中を見渡すと盛大に賑わっている。
食べ物、織物、趣向品、遊び場から居酒屋まで。
基本的にレンガ造りで趣を感じる。
人も沢山。
何かを運んでいる人、普通に歩いている人、遊んでいる人、困っている人。
いやぁ〜いいね。
あんな窮屈な村じゃ見られない光景だ。
まずは軽く楽しんでいこうじゃないの!
「さー!アステリア!どこ回る!?」
「えっ。」
「なんだい。」
「ツキミさんの持ち主を探すのでは…。」
「後だよ後!今は楽しまなくちゃ!」
『そうだそうだ!遊んでなんぼだよアスちゃん!』
「ツキミも、そうだそうだ!遊んでなんぼだよアスちゃん!…だってさ。」
「アスちゃん…?」
「ほらほら、パッと見て気になるところ!」
「えぇと……。あっ。」
目線の先には帽子屋。
様々な形の帽子。
色々沢山で見てるだけで楽しい。
「遠慮はなし〜行くよっ!」
「ちょ、ちょっとまってっ。」
「おー色々あるねぇ。」
見渡す限り帽子だけ。
まあ帽子屋と銘打ってるからそりゃそうなんだけど。
紳士サマが被るようなやつから子供っぽいのまで十人十色。
「いらっしゃいネェちゃん!なんだい、片腕の刀使いかぁ?とんでもねぇな!ウチは帽子屋だが笠は売ってねぇぞ!」
「あたしじゃないさ、コッチ。」
「こんにちは。」
小さくお辞儀をする。
人と合うのはきっと数少ないだろうに作法はしっかりしている。
一体どこでそんなに作法が身に付くのかね。
「……こりゃまたすげぇべっぴんさんだな。」
そんな言葉も聞こえず、こんなに輝いているアステリアが更に目を輝かせて品揃えを見ている。
「悪ぃが貴族さんが被るような帽子はねぇんだ。」
「いえ、大丈夫です。…すごい。本で見たのが沢山。」
…どうやら全部の知識は本で集まっていそうだ。
そんなアステリアが一際目を輝かせて見ていたのが…。
「これ…被ってみてもいいですか。」
「んぁ?構わねぇけどよ。」
青いリボンで巻かれて蝶結び。
つばが広く、波うっている麦わら帽子。
それを被った瞬間、店主のおっちゃんとあたしが声を揃えて叫んでしまった。
「こりゃえれぇことになったぞ!」
「似合うったらありゃしないね!」
「…う。」
流石のアステリアも恥ずかしいのか少し狼狽えてしまう。
「おっちゃん!これ買うよ!」
「んや!タダで持ってけ!」
「そ、そんな。お金は払わないと…!」
「お金よりいいもんが見れた!それにうちの帽子被って歩こうもんなら実質広告できるみたいなもんだ!だから持ってけ!」
「楪さん…いいのでしょうか…。」
「貰えるもんは貰っときな!」
「…は、はい。」
「毎度あり!外のお客さんだろ!?ゆっくりしていってくれやー!」
「ありがとねおっちゃーん!」
「いやー得したねぇ!」
「…はい!」
余程嬉しいのか左腕で常に帽子を弄っている。
いやしかし、あまりにも似合ってる。
これじゃお姫様まであるよ。
「さて、腹が減ってきた。どこかで飯でも食うか!」
「はい、見て回りましょう!」
どうやら楽しんでいる様子だ。
あたしもあたしでこういうんのは初めてだし、味わっておきたいねぇ。
「待ちやがれェ!クソガキィー!!!!!」
「誰が捕まるかよッ!人間が追いつくわけnどわぁあああああ!?!?」
「おっと済まないね少年、急ぎの用かい?」
「……ヤッべェ。一般人巻き込んじまった。」
「クソガキ、その角高く売れんだよ。尻尾もな?大人しく捕まれ。」
ガラの悪い太った盗賊がでてきた。
なるほど、どんな街にも悪党はいるんだねぇ。
村は身内だけだから無かったけど。
「誰だか知んねぇがそこの姉ちゃんちょっと手を」
「少年、首を飛ばされたくなかったら少し下がりなね。」
「へ?」
「んだテメェ。片腕の女ぁ?男に叶うわけねぇだろうが!」
見事にイキッちゃってまあ。
「兄貴ー!あっちから金目のもんぶんどってきやした!」
次から次へと。
いかにもチンピラって感じだ。
ちょいとキツいお灸を据えてやるかね。
「おう、丁度いい、この女シメるぞ。ドラゴンのクソガキを売り飛ばす。」
「了解っす!」
「楪さん…!」
心配そうにアステリアがこっちを見る。
大丈夫サ、お姫様は守らなきゃね。
「おおっ!!?全身宝石の女!?ぜってぇ高ぇ!やるぞ!」
「手ェ出したら許さないよ。」
「ふん、片腕だけで何ができるってんだ。」
「舐められたもんだね。そっちこそその短いナイフで何ができるんだい?」
「ケッ、やれっ!」
両サイドから走って切り付けて来ようとする。
「危ねぇッ!」
少年が心配する。
左、右、どちらも上から振りかぶる剣撃。
盗賊だからか短剣。
剣の道をかじってすらない素人の攻撃なんて痒くもない。
攻撃を刀で受けたあと、振り払って仰け反らせる。
「ぐおっ!?」
「うわっ!」
そのまま背後に音速で回る。
手がない分、足の速さは自慢できる。
「あいつどこいった!逃げたのk」
がら空きの背中を蹴り倒してそのまま踏む。
「ぐほぉ!?」
「それ以上動いたらこいつ刺しちまうよ。」
「…ヘッ!甘く見たな!仲間なんかどうでもいい!俺が儲かりゃいいのさ!」
「ふーん。ほらっ。」
ツキミをちょうど相手の手元目掛けてゆっくり投げた。
「使いな?それなら仲間を助けられるんじゃない?」
「おいおい、馬鹿にも程があるな?イキりすぎだぜあんた。おらああああああああぁぁぁっ!」
力任せに振りかぶる。
刀は力技じゃないんだよねぇ〜。
さ、あたしが刀だけじゃないってとこ見せてやるか。
「ほっ。」
どこを狙うか見え見えの振りかぶり、その上速くない攻撃はなんてことなく避けられる。
なんなら子供でも避けれる。
縦に記録とする動きなら直ぐに横に歩くだけで避けられる。
そこで足を引っ掛けて転ばせてやる。
「いでっ!テメェ!」
急いで起き上がって体制を建て直した。
だがしかし、その暇があるということはあたしにはもっと暇がある。
「おはよう!」
と、言葉を投げかけ、腹に拳を押し込む。
「な、なんだよっ!」
「我流、無進。」
どこかの拳法家がやってた動かない打撃。
我流でやった。
あたしはやっぱり速さに自信がある。
あたしはただすんごい速さで拳を押し込む!
「━━━━━ッオオオオオ!?」
物凄い勢いで飛んでいってしまう。
勢いは止まらずに直線上にあった果物屋までいって商品を巻き込んでやっと停止。
「きゃあああ!?」
「ごめーーん!それあたしのせいだわ!後で手伝いに行くよ!」
うん!
初の試みではあったけど、なかなかいいんじゃないかな?
「ふざけ……やがってっ!」
刀を思い切り投げてきた。
「いいのかーーい?返しちゃって。鬼に金棒所じゃないんだよー?」
「黙れッ!ここで死ねえええ!」
腰からまた短剣を取り出して地面から立った。
どうやらまだやる気のよう。
じゃ、もう終わらせるか。
「ん。」
「カッ…ぁ…いつの間…に…。」
このバカの場所へ一瞬で移動。
喉仏あたりに刀の先を本当に当てる。
1ミリでも押し込めば皮膚を貫く位置まで。
「ひとつ聞くよ、死ぬかい?」
「ヒィッ。」
「死にたくないなら跪きな。」
「ゴメンなさああああいっ!」
あたしの速さより速く土下座しちゃった。
「おばさーん。こいつらって懸賞金とかかかってる?」
「ええ…分からないけど…ギルドとかに行けば分かるんじゃないかしら…。」
「わかった!荒らしてごめんね!」
「…流石ですね、楪さん。」
「ま、朝飯前さね。とりあえず、金にもなるしこいつらギルドに突き飛ばすよー。ほら!歩きな!」
「ぐ…くそっ…。」
「兄貴ぃ…。」
盗人なんてやってるからだ。
「あの姉ちゃん……すげぇ…ッ!」
〜大きな酒場〜
割と賑わってそうな酒場に来た。
ここはギルドとかいう場所と合併してるらしい。
「アステリア、ギルドって何?」
「はい、ギルドは多くの国に存在します。魔物の討伐や人探し、護衛から子守りまで報酬があるなら仕事をこなす何でも屋です。」
「へ〜。」
「ようこそ、『ウォッカズ』へ。加入の手続きですか?」
受付のお姉さんが話しかけてきた。
「ああ違くて、盗人がいたもんでとっ捕まえたけど懸賞金かかってるかいこいつら。」
そう言って首根っこを掴んで前にグイッと押し出した。
顔を見て直ぐに手元の大きな本をペラペラとめくりだし、止めた。
「ええ、こちらの方達ですね。常習犯で手馴れのようです。懸賞金は3000ポトスです。」
「おお、しばらくの食費にはなるねぇ!」
「ご協力ありがとうございます。貴方も手馴れのようですのでギルドに加入してみてはどうでしょう。ある程度の支援が受けられますよ?」
「考えとくよ、ありがとさん!」
「またお待ちしております。」
〜外〜
「いやあ、3000ポトスも手に入っちゃったよ。」
「良かったですね。」
飯1ヶ月分はくだらないね!
さて、食前の運動もした事だし、飯屋でも探すか!
「おーーーい!」
どこかからか誰かを呼ぶ声がする。
なんだか気になって周りに目を向けるなんだか見覚えのある姿。
えーと…赤い髪で角と翼と尻尾…。
首に巻き付くタイプのタンクトップに土っぽい色の短パン…。
「あ、さっきの少年か。」
「こちらに向かってきていませんか?」
なんて静観してたら本当にあたしのほうに寄ってきた。
「探したぜっ!…っはー。弟子にしてくれっ!」
「へ?」
「弟子だ!弟子にしてくれ!」
なるほどねぇ。
いや、なるほどじゃないんだけど。
「急だね。なんであたし?」
「強えから!」
すっごい単純。
「ごめんだかど、あたし刀にしか脳が無いんだよ。」
「それでもいい!あんたの弟子になりたいッ!」
「なんだってそんなあたしの弟子になりたいってんだい?」
「最強になるためだ!…俺はそもそも最強だが…あんたみたいな強えやつ初めて見た!俺は最強ではあるが学ぶことをやめたつもりはない!だから弟子にして欲しい!」
こっれまたすごい子に絡まれたね…。
なんというか、子供なのかバカなのか分からない。
「お願いだっ!……あんたの弟子になるならあんたみたいに腕を失ったっていいっ!」
「……ほー。」
失ったっていい…ね。
軽くいってくれるよ全く。
まぁ…本来のあたしなら拒否するけど師匠に広めて来いって言われてるし…ま、ここは1つとって見るのもいいかも。
悪い気はしないしね。
「いいだろう!このあたし、…えーと、朽木流…?朽木 楪の弟子にしてやろーう!」
「マジかッ!いいのかっ!」
「言ったのはあんたさ。後で泣いて辞めたいって言っても辞めさせてあげないからね。」
「押忍!名前、言ってなかった!俺はヴェンタス・ヴェーハ・ペイン。俺のことはみんな口を揃えてこういうのさ!最強の男ってな!」
まあでも、見るに程よく着いた筋肉。
ドラゴンと人間のハーフ…なのかな?
肉体的にもかなり頑丈そう。
「じゃあ、手合わせと行こうか。まずは実力を見させてもらうよ。どこか広いとこないかい?」
「おう!それなら俺の住んでる酒場があるぜ!」
「……トントン拍子で話が進んでいますが会話が成立しているのが不思議でなりません。」
『あたしちゃんもそう思うな〜』
「いいんだよそんなことは!この世はノリさ!」
〜酒場「落とし穴」〜
「戻った!聞いてくれ!俺にもついに師匠が出来たんだ!」
「おお、ヴェンか。そいつァきっと余程の物好きなんだな?ガッハッハ!」
つるっパゲで上裸のおっさんが最初に話しかけてきた。
どうも見渡す限りむさ苦しい…のかと思ったけど、別に女子供もいる。
どっちかと言うと酒場より大家族みたいだ。
「見ててくれっ!今から手合わせするんだ!」
「ヴェン、暴れるのは構わないけど壊したものは自分で直しなよ。」
「分かってるって!」
カウンター席でしっとり飲んでいる女性。
店主かな?
多分ここの酒場は皆が皆が身内みたいなもんなんだろうね。
いい雰囲気。
「師匠ッ!よろしく頼むぜ!」
「楪でいいよ。…んーそうだね。じゃ、私を押し倒してみな。あたしは全力で抵抗する。何でもしていいよ?殴る、蹴る、刺す、騙す、降参する。さ、来な!」
「行くぜッ!」
話したことを多分聞いてない。
そんな顔をしている。
ただ、その顔は好きだ。
何かひとつを求めて輝いている瞳は良い。
「うおおおおおっ!!!」
空を飛ぶのかと思ったけど、ドタドタ走ってきた。
「失格!」
「ごふぁああああ!?!?」
すぐさま止めるためにチョップ。
割と軽めにやった気がしたけどどうやらやりすぎた。
床に穴作っちゃった。
「あー…、失礼!」
「ん、いいよ。ヴェンにやらせとく。」
店主らしき人物はあたしらを酒の肴に、頬杖を着きながら見ていた。
他の客達は歓声を上げたり、笑ったりしてる。
「お、おいっ!なにが失格なんだよ!」
「あんた本当に最強かい?」
「はははっ!だよな?コイツいっつも自分を最強だといって効かねぇんだ。そこら辺の冒険者と何ら変わりねぇのによ。」
どうやら、最強というのは目指す道だったようだ。
歳も歳、そう言いたくなるのは理解出来ないでもない。
「そうだね、勢いをつけるなら翼使いな?速さは力にもなる。飛べるでしょ?」
「…!!確かにな!分かったぜ!」
初めて気付いたと言わんばかりの顔をしてる。
いわゆる脳筋さんだな?
「でもある程度わかった。よし、力比べと行こう。相撲って奴だ!」
「分かったぜ!」
あたしが右手を出すと直ぐに左手を組んできた。
「両手使いな?無理だよそれじゃ。」
「…いくらなんでもそれは俺をなめすぎじゃないか?」
「ふーん、そういうこと言うん…だッ!」
1回踏ん張って前に押し出してやるとすぐに理解したようだ。
「ほれほれ、どうした?あたしは手を前に出してるだけだよ?」
「……おお…。この姉ちゃん…もしかしたらマジで強えんじゃねえか…。」
少しだけ周りざわめき始めるが気にせず少しずつ歩く。
ま、力自慢は男にでも負けるつもりは無いね。
「よーし、あたしがこのまま動かしてカウンター席まで行ったら奢ってもらうよー。」
「なっ!?卑怯だッ!俺は今金欠なんだ…ぞっ!」
力がより強くなった。
が、あたしにゃ当然及ばない。
死ぬまでやりそうな雰囲気だったしさっさとカウンターまで押し込んで移動する。
「クソオオオオッ!か、金がっ……」
「あっははは!嘘だよ嘘。アステリア、ちょっといいかい?」
「はい、なんでしょう。」
店内をずっとキョロキョロ見渡しながら子供達にたかられて遊んでいたアステリアを呼びつけた。
「体はどのくらい重い?」
「恐らく65kg。私の宝石はかなり重いので…。」
「なら丁度いい!べべ!腕立て伏せ100回だ!」
「べべってなんだよ…。100回だな?それなら日課だ。」
「このアステリア背中に乗せてね。」
「えっ。」
野太い声が聞こえた。
「最強ならこれくらいしてもらわないと教えられないね!」
「わ、分かったぜ!最強だからな!こなしてやるぜ!」
そうこうして酒場はもっと盛り上がっていった。
「隣いいかい?」
「マスターのあたしをご指名かい?…なんて、ヴェンのことでしょ。」
「もっと広くさ。ここはどんなとこ?」
「酒場落とし穴。落ちこぼれ共が必然的にやって来る酒場。出禁の大酒飲み、暴漢、盗み常連。打って変わって馬鹿や貧乏、家族の以内子供。色んな野郎共が来るのさ。子供は親がいないのを預かってる子達もいる。ヴェンもさ。」
「へぇ〜。」
「奢り。」
そう一言いって何か調理された串に刺さった肉をさしだされた。
食べかけだけど。
「あんがとさん。ヴェンタスがあそこまで強さに執着するのは何?」
「分からない。ただヴェンも孤児だ。路地裏で独りのとこを保護した。強くなりたいって思うような事があったんでしょう。」
「へー。過去ねぇ。」
かなり元気そうに振舞っているヴェンタスでも、それ相応の過去がある。
人間ってのはてんで見掛けだけじゃ分からないね。
…魔族か。
ま、大してどっちも変わりゃしない。
「そういうあんたは?腕、ないけど。」
「あぁ、あたしは大層なことがあった訳じゃないさ。元々辺境に住んでてね、崖近くでいわなだれに出くわしてでかい岩にやられたのさ。守りたい人を守って無くなったとかじゃない。」
「そ。」
聞いてきたのに塩対応〜。
…でも、目を見れば分かる。
大抵の人間はそう。
目は感情を隠せない。
この人は優しい。
多分塩対応なんじゃなくて、深く踏み入れないだけ。
助けを求めたら、きっと親身になってくれる。
そんな人。
「楪って言ったっけ?…私は色んな人間を見てきたけど…貴方ほど見て何も分からない人は初めて。」
「そう?結構わかりやすいと思うけど。飛びっきり自由なのさ!」
「そう…。本当かしらね。」
「あっ、目的を忘れるとこだった。ツキミ!」
『あいよ!』
「ちょっとあの剣に戻って!」
一声で刀を象っていたツキミは前の姿に戻る。
いつ見ても美しい剣。
「…誰に話しかけてる?」
「この剣さ!…コレの持ち主を探してるんだけど見た事ない?」
「あいにくここは落ちこぼれしか来ない。そんな大層な剣を持った人間は来ないよ。」
「そっか、分かった。」
「楪…っ限界だぜ…っ。」
今にも息絶えそうな感じでくたばってるヴェンタス。
ま、そりゃそうか。
あたし用のトレーニングって感じだし。
「何回だった?」
「20回です。私、相応重いですしさすがに辛いのではないかと…。」
「ハッハッハ〜。もっと鍛えなね。教えるのはそれからさ。」
「そういう楪は出来んのかよ!」
「当たり前さ、アステリア!」
「は、はい…。」
仰向けになって背中に座ってもらう。
宝石のせいで見かけよりやっぱり重い。
「ッ!…ほっ…っ。」
「はっ…速ェ…。」
「……ん、どんちゃん騒ぎしてたらもう夜か。」
ノリで酒場の人と話してたらいつの間にか窓から見える外は暗くなっていた。
街灯が暗闇を照らしている。
「あっ!しまった宿を忘れてた…。」
「泊まっていきな。」
「いいのかい?」
「話聞いてたけど旅してるんでしょ?…きっとヴェンもついて行くって言う。あんたもきっと良いって言う。泊まる場所位はタダでいい。……ヴェンはずっと貴方みたいな人を待ってただろうし。」
「そこまで期待されちゃーしっかりとシゴいてやらないとね。」
旅は賑やかな方がいい。
人数が多い方がアステリアも楽しめるだろうし。
「1ついい事を教えられる。今日、丁度とある無名のギルドがここに来た。」
「……ギルドが来る…ですか?」
「そ、世にも珍しい移動式ギルド。何かあるって訳じゃないけど、全部の国を回るって話。そこに所属すれば旅費はかなり浮くんじゃない?」
「ほぉ!なかなか美味しい話を聞いたね!」
「それに腐ってもギルド。色んな話は聞けるはずだし、金も自分で得られる。…っと。これイェソドの地図。ここが私の酒場。ここ、かなり大きい広場があるでしょ、ここに停滞してるらしい。明日行ってみるといい。」
「行ってみる、情報ありがとね。」
「ん、そこのソファ使って寝ていい。残念だけど部屋は子供達に使わせてるからね。」
「寝そべられるだけマシさ。野営の方が100倍キツいね。」
いやぁ〜寝床があるって素晴らしい!
「マスターは寝ないのでしょうか。」
「私は夜行性でね。」
「……!」
「どうしたんだいアステリア?」
「この方…魔族です!」
気付けば悪魔っぽい小さな羽と細長い尻尾が現れていた。
えっと、なんだっけこんな特徴の魔族…。
「意外と反応薄いね。私は夢魔の魔族。別に取って食おうって訳じゃないから安心して。」
「でも夢魔ってのはそういうことするんじゃないの?」
「ゆ、楪さんっ!」
それなりに恥じらいながら引き止められた。
知識はあるんだね〜ふぅん〜…。
「夢魔が皆変なことするわけじゃないよ。私は寝てる時に見てる夢をこっそり頂いて知らん顔するだけ。」
「そうなんだ。…でも悪かったね、あたしは本当に夢を見ないんだ。」
「そ、残念。…さーて、鍛錬しなきゃねー。」
「鍛錬…?してるの?」
「ああ、気にしないでね。別に面白いものでもないよ。…先に日記書いちゃおーっと。」
「ま、いいけど荒らさないでね。今度こそ何かやったら自分で修理してもらうから」
「そりゃもちろんさ。」
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仲間ができた。
と言うより弟子が出来た。
どちらにせよ同じではある。
とてもいい子だ。
だからこそ、厳しくしてやるつもりだ。
酒場で騒いだ。
愉快な人ばかりだった。
剣に関しては進歩はないがきっといつかは辿り着くだろう。
ただ、この得も言われぬ感情。
いつもそうだ。
…ま、関係ないけどね。
あたしの感情はきっと道端の石ころくらいどうでもいい。
必要なのは結末。
アステリアに海、見せてやりたいな。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いつものあとがきは次回!




