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9頁目 無神

投稿強化月間

元から起きていたかのような目覚め。

朝の気だるさも全くない。

……と言っても空はまだ暗い。


「おはようございます、楪さん。」

「おはよ。」


いつも通り、挨拶。

違うのはあたしの心構えだけ。

今日あたしは、きっと人を殺す。

もちろん何かの間違いであって欲しいけどね。


「どうしたんですか、そんなに暗い顔をして。」

「色々考えてたのさー。これからの事とか。」


主にどうやって殺すかだけど。

1番いいのは寝てるとこ。

不意打ちは昔から暗殺に適してる。

気配を消すとかあんまり出来ないけどね。

殺し屋本業なわけじゃないし。

なんなら刀なんて使わない方がいい。

どうしても片腕だと抜刀する時に音が出てしまう。

匕首とかないものかね?


「……。」


ライラが起き上がった。

ありゃ寝てないね。

ま、当然だ。

あんなこと言ってしまった夜なんて寝れるはずもない。

やはり悲しそうな表情でネモを見つめていた。

全く、どんな親なんだか。










しばらくして日が昇る。

みんなもある程度起きて来た。

……そして、珍しくあたしに話しかけてきた人物がいる。


「少しいいか?ニャ。」

「なんだい?」

「やるんだろう?」

「ん。」


全て知ってるような言い草。

漏らしたつもりは無いんだけど。


「地獄耳だからな。聞きたくないことも聞こえてしまう。」

「やるなって?」

「いいや。これ使うか?」


渡されたのは何の変哲もない小刀。

触ってみても特段品質が良い訳でも悪い訳でもない。

至って普通の物。


「慣れてないからいいかな。」

「その大きな刀で殺ると?」

「何が起きるか分からないからねー。それじゃ心もとないさ。」

「あいわかった。では紹介料として。」

「金取るのかい!?」

「嘘だニャー。」


最後にふざけて帰っていく。

ペルナなりの心配だろうか。

にしてもいつ聞かれたのか。

あの夜、割と周囲の気配は何も感じなかったけどな。

まあいい。

できるだけ公平な視点で物事を捕えなくては。

どちらが正しくて、どちらが正しくないか。

どちらも正しくないのか、どちらも正しいのか。

その場合は、あたしはどうするのか。

いやまあ、子供捨てるのに正しいもクソもないけどさ。


「……。」


ぼーっとする。

ただ、空を見つめて。

誰かに話しかけられても、適当に返事。

空の色が変わっていくのを観察する。

黒から群青。

少しだけ朱に染まって、空の色に。

太陽は登って、頭の上を通る頃。


「またぼーっとしてるぞ。」

「いやいや、これは違うのさ。」

「違うのか?わかんねーなー。久しぶりに稽古つけてくれよ!」

「いいよー?負け惜しみはしない事だね。」


いつだって変わらないヴェン。

いつも強くなろうとし続けている。

普通の人と比べたらだいぶ強くなってると思うんだけど。

それでもなお、強くなるその試みを辞めない。


「はっ!とうっ!せええいっ!!!」


低空飛行、地面を蹴っての勢いが着くジャンプ。

連撃に蹴り。

様々な攻撃を混ぜて混ぜて、反撃の隙がない。

様子を見続ける。


「当たってないよ〜!?そんなんで最強なのかい!?」


あたしも、昔はそうだった。

特に何かある訳でもないのに刀を握り続けた。

どっちかというと止めてくれる人がいなかった、の方が正しいかな。


「そこだッーー!!」


一瞬の遅れ、ワンテンポ速い。

…等の攻撃のリズムを崩して防ぎにくくする戦法。

感覚で戦いをしているとまんまと騙される攻撃方法だ。

決まると思い、そのままパンチを勢いよく振りかぶるその拳を避ける。

見て避ければただの攻撃と変わらない。。

そして、当たったと思った攻撃を避けてしまうと誰だって困惑する。

何故?

どうして?

どこに?

その一瞬の隙が負けを呼ぶ。


「甘ちゃんだね。」

「ぐおおっ!?」


のしかかるようにして押し倒す。

あたしの下敷きになるヴェン。


「絶対に当たる攻撃はない。常にその先その先を見ることだね。」

「渾身の必殺技だったんだがな〜。」

「考えは悪くない。ただ、自分の命を考えない相手だったら死んでたかもね。」

「どういうことだ?」

「攻撃をくらっても後先考えずに武器を振るう狂戦士の事さ。そういうのには小賢しいと一蹴されちゃう。……んーそうだね。攻撃は避けられちゃダメだ。防御させるようにしてみよう。」

「防御……なんでだ?」


顎に手を当てて難しい顔で考え始める。

でも、簡単な話。


「あたしのパンチ、防いでみて?」

「んー?わかった。」


虫も死なないようなパンチをヴェンに当てる。

それを手でパシッと掴まれる。


「いいね。」

「よくねーよ!誰でもできるぞ?」


わかりやすい喜怒哀楽。

ふん、というような声が聞こえる感じでそっぽ向いた。


「あたしがこのパンチを本気でやってたら?」

「そりゃ手がとんでもない事にな……あっ!」

「そういうこと。防御はさせてる時点で有利なのさ。さっきのあたしも、ずーっと回避させ続けてたらいつか疲れて防御に回る。刀で防御したとしても、疲労があっていつかバランスを崩す。そこを狙うのさ。」

「楪を崩すって…何時間かかるんだよ!」

「2日?」

「む、無理に決まって……ンンっ!最強の俺ならできるな!」

「その意気さ。」


戦術指南することになるとはね。

あたしより適役が……いないか。

あたしの戦い方、あんまり良くないんだけどなー。

理論値を追求した極限の戦い方。

リスクを取り除いた安定の戦い方。

勝ちを視野に入れていない、最低の戦い方。

勝てたらラッキー、そんなあたし。


「みなさん、もう少しで着きますよ。」


ラクターが号令をかける。

その声であたしも気を入れ直す。

あの姉弟を見てみると、やっぱり気を張りつめていた。


「まずは両親にあって、真実を確かめるのさ。気が変わるかもしれないし、ね?」


軽く落ち着かせる。

効果があるかは分からないけど。

……さて、街の外周が見えてきた。

なんの変哲もない至って普通の小さな村のようだ。

物珍しそうにあたし達を見る人もいるけど、どちらかと言うとこんな何も無いところに大人数でくるあたしらの方が変。

それに見たところ教会のような大きな建物は見えないけど……。


「教会は?」

「街の外れにあります。ついてきてください。」


ラクターとナフィが先に歩いていく。

あたし達もそれに続いた。


「っと、ワシはええわ。拠点に残る組は他にいねぇか?」

「ペルナも興味が無い、教会でもの売れるなら別だが。ニャー。」

「ネモ達にゃ悪ぃけどオイラもあんまり興味ねーな!拠点も心配だしよ!」

「マスターとジャンじゃ心もとないな!俺も戻るぜ。なんせ最強だからな。」


ここで4人離脱。


「鈴蘭、これ。」

「ん!」


放り投げられたそれはお金が入った袋。


「宿とかとるんだったらそれ使え。ワシのだから気にすんな。」

「わかった、たまには気が利くね!」

「黙っとれー。」


3人の姿を見送る。

見えなくなって、再び歩き出す。

少し森の中に入っていき、数分。

森に隠れるようにその協会はあった。


「僕はここで待っていますので。用事が終わりましたらお伝えください。それと、何かあったら大声で。」

「教会だから出さないと思うけどね…?」

「ナフィも助けるよ!」

「はいはい、ありがとね!」


振り返ってみれば、もうなんか死にそうな勢いで気を張りつめていた。

意味無かった?

あれじゃまともに喋れるかどうか。

あたしが仕切ってあげるかー。


「よし、行くよ。」


少し重い大きな扉を片手で押す。

後から片側の扉もアステリアが押してくれた。

現れたのは、いかにもって感じの協会。

ちょっと手入れされてない部分も見える。

管理人数が少ないのかな。

扉を開けた音を聞きつけて、一人の男性が駆けつけた。


「これはこれは、大人数で。旅の方ですか?」

「どうも、人探ししててね。」


現れたのは牧師…かな?

そういう格好して、そういう雰囲気を漂わせてる。

茶髪で適当にポニーテールで髪を束ねている。

エルフの耳があり、少し神秘的な印象も感じる。


「お力になれるのでしたら是非。どんな方で?」


ネモに目を合わせた。

頷いて、喋り出す。


「紫苑って人はいるか?赤い髪の。」

「はい、僕達の仕事仲間ですね。」

「っ会わせてくれ!……探してたんだ。」


何か堪えたような、そんな感覚で喋る。


「分かりました、お呼びしますね。座ってお待ちください。」


教会によくある長い椅子に座った。

硬いけど、ないよりはマシって感じ。

しかし、教会の人間か。

本当にそんなことする人間が教会に居られるのか?

そんなことを思っていると、現れた。

ああ、思った以上に綺麗な赤色の髪だ。

見た目は少しだけ歳を食っているが、おしとやかな女性と言った印象。


「……ッああ!ライラ!?ネモ!?無事だったのねッ!?」

「うおおっ!?な、なんだ…っ!?」


急に飛びついたかと思えば、泣き出してネモを抱きしめた。

ライラもネモも、何が何だかといった様子。

そして、母親とおもしき人物は顔を上げた。


「ごめんなさい2人ともっ……。私……貴方たちを捨ててしまってッ……。」


おや、訳ありだった?


「ま、待て待て。どういうことだ!?あんたは俺達を捨てて…。」

「……ええ。捨てました。くだらない理由で貴方たちを捨てた。間違いだったのです。……あの後、私は後悔しました。どれだけ罪深いことをしたか…貴方たちを傷つけてしまったか……思い知りました。本当に……本当にごめんなさい。」


挟まる余地も無い程に、謝り続ける。

これは……分からないな。


「待ってください。……落ち着かせてください。こんなの……急に受け止めきれない。」

「そうよね……ええ。私にできる償いなら何でもさせてもらうわ。……本当にごめんなさい。」


家族の事は家族同士でやってもらうとして。

ずっと見てるあの牧師。

話しかけてみる。


「ねえ、本当にああいう人?」

「ええ、ここ来た時にはそうでした。以前は知らないので。」


あっさり突き放す。

何よりも気になるのが、この男の底知れなさ。

ただの杞憂だといいんだけど。

あたしの考え嫌だといってる。


「うん……わかった。話し合おう。全部聞かせて。」

「ありがとう……2人とも。」

「悪い皆、1日時間をくれ。」


話が着いたのか、これからなのか。

3人でどこかへ行ってしまった。

……。


『え、あのままでいいの?流石にあたしちゃん怪しすぎて見逃せないけど?』

「逃がすわけないさ。依頼は続いてる。殺す殺さないは、見張る。」

『ならいいけど……。』


さて、尾行かな。

あたしはあの流れを見てうんうんよかったねぇ、といえる人間では無い。


「鈴蘭、みんなで宿取って休んでていいよ。あたしの分はいい!」

「分かったけど……何処に行くの?」

「ここで神様に祈るのさ、あの子たちがいい関係を築けますようにって。」

「わかった。私こういうキリッとしたところあまり好きじゃないからみんなで先行ってるね。」

「はいなー。じゃね!……アステリアも行ってていい。」

「分かりました。お気をつけて!」


皆が外に出ていく。

教会内にはあたしとさっきの牧師のみ。


「……で、結局のところどうなの?」

「どうと申されましてもねぇ。」

「あたしの感が言ってるんだ。あんたはダメな方の人間だって。」

「困ったものです、私は至って常に真面目なのですが……。」


適当にカマかけて何か本性を表さないか。

普通の人間とは何かが違う。

()()()()()()()()()()()()

類は友を呼ぶ。

危ないヤツは危ないヤツ同士で集まる。


「……ッ!?」


気付かなかった。

後ろにいつの間にか誰かがいる。

こめかみに武器のような物を当てられる。


「問う。神は信じるか?」


返答を間違えたら確実に死ぬのは分かってる。

不意打ち?

強引に抜け出す?

……いや。


「神がいるならあたしの腕はこうはなってないよ。」

「……失礼した、私はラル。シスターだ。」


シスターだと言うのに、ガラの悪い女。

服はシスターの服だが頭に付けてるアレもないし、髪は首くらいまでのボブ。

インナーカラーで金に染めてる。

目元はクマがあって、赤と青のオッドアイ。

耳を見ればピアス。

武器は……なんだ?

見たことがない。

鉄の塊……トンファー?

いや、指をかける場所と穴が空いてる。

ボウガン?


「……強い……のか?うーん。」

「開始早々それか。私らに何か用があったんじゃないのか?」

「失礼失礼、あんたのとこの紫苑って赤い髪の女いるだろ?」

「それは誰だ?……おいイレン。」

「だから私は何もしてませんってば。接点はありますが、ただ話を聞いてあげただけですよ。」


そう言われたラルの顔は分かりやすく呆れて嫌そうな顔をしていた。


「何かあったのかは知らないがきっとこいつが関係してる。悪いな、聞かせてくれ。」

「お、お〜……。わかった。ギルドやってるんだけどね?」


タバコに火をつけて、あたしの隣に座った。

軽く事情を説明すると、こう述べた。


「ゲプラーか。悪いが私達はそこに接点はない。やらかしたのは本人の意思だろうが……その変わりようってのもおかしいな。おい、あんただろ、言えよゴミクズが。」

「私がしたことと言えばカウンセリングくらいですけど。」

「それだよ。チッ……詫びはする。何処にいる。」

「殺しはあたしがやる。ただ真実が知りたくてさ。アレが本心なのかどうか。」


話のわかる人たちなのか、そうじゃないのかは判断つかないけど。

とりあえず今は信じても良さそう?


「このクソ野郎が関わった人間は全員ゴミクズになる。社会的に死ぬ、奴隷に成り下がる、精神がおかしくなる、人間じゃなくなる。」

「お、おー。フルコースだぁ。」

「酷いなぁ。もっと事実確認をだね━━━━━━」

「二度と口を開くな外道が。話がややこしくなる。」


持っていた武器をイレンと呼ばれた者に向けて脅している。

使い方から見るに弓のような武器なんだろう。


「とにかく、猫かぶってる可能性の方が高い。関与しなくていいならしないが、見張った方がいいだろうな。」

「ん、助かったよ。ありがとねー。」


今から行った方がいいかな。

いや、もし何かを起こすというのならネモがいる。

毒殺か、寝てるところをぐさりとやるか。


「ラルって言ったっけ?この辺で毒物とかある?」

「ない、断言する。あるとするならこのカスが知ってるはずだが。」

「毒はあんまり好きじゃないから取り入れたりはしてないよ。恨みがあるなら刺し殺すんじゃない?知らないけど。」


恨み…か?

どちらかと言うと起こったのは切り捨てだ。

……ま、大事があったらいけない。

ずっと尾行しておくか。


「タダでは帰さない。」


弓のような武器が2つ、あたしに向けられた。

顔を見た。

あれは何も信じてない。

今までずっとひとりで戦ってきたような目。

信じられるのは、自分だけって感じの。


「何、戦う?」

「……あんたの目、私は好きだ。」


どうやら、あたしの怖ーい目は不良さん達に大人気みたい。


「そっちの左右で違う目も素敵だよ?」

「紫苑とやらの動向の観察は私の部下にさせる。だから私の言うことを1つ聞け。」


何を言い出すのか、じっと待つ。

数秒の沈黙、口を開けたのはあたし。


「何しろって?」

()()()()()()?本音で話せ。」

「さっきも言ったけど、信じてないよ。」

「……ならいい。」

「えー、何さ何さ。戦えると思ってワクワクしてたのに。」


ラルはこっちによって来た。

タバコの煙をしてフゥっと吐く。


「得意じゃない。……ここは無神教会。神の存在を信じない者達が集まる無法の場所。」

「変なの、何が目的なの?」

「信者を全員殺す事だ。」

「わあ。」


全員ろくでなしだった。

さっさと帰りたいな〜。


「私は何人も嘘をつく人間を見てきたが、あんた程初見で信用できる人間はいない。」

「ええ?あたしのこと何も知らないのに?」

「その目だけで十分だ。」


流石にそこまでずっと言われ続けると気になっちゃうんだけど。

……なに?

あたしの目ってそんなに悪ウケするの?


「複雑な気分。結局あたしに何して欲しいのさ?」

「来い。」


こっちを見ずに、どこかへ行ってしまった。

なんか面白そうだし行ってみるかー。


「余程ですよ?あの人が人を信用するなんて。」

「あんたみたいな変なのの塊に言われても何も信用出来ないけどね。」

「貴方まで言うんですか……!」








何やら地下にまで連れられた。

教会とは思えない程に整備されていない。

捕虜でも捕まえておくような、牢屋のような地下。


「……ん。」

「どうした。」

「いや、なんかえらい強い気配を感じるなと思って。」

「……どっちかは知らないがいるぞ。もう少しで見える。」


地下室の更に地下。

薄暗い明かりしかない道を行く。

地面はほぼ岩。

そうして、なにやら頑丈な扉が見えてきた。

そしてその傍に……。


「いやぁ……これまた驚いた。本当に神様がいるとは……。」

「……ぶな……。」


そこにいたのは、息が止まってしまうほとに美しい女性だった。

純白の翼、美しい白くて長い髪。

白いドレスと鎧の組合わせたような服。

神と呼ぶにふさわしい見た目をしている。

この気配の正体はこれかぁ。


「神と……呼ぶなァァァァッ!!!!」


いきなり激怒して、あたしの方に向かってくる。

教会を具現化したような十字架の剣を振り下ろす。


「重ッ……速ッ……!こんなに早くあたしより強そうなの見つけるとは思わなかったッ!ハハッ!いいね上がるッ。」


全力をぶつけられる、ぶつけても死ななさそう。

その後あたし生きてるかな?

勝てるかな?

勝つとしたらどのくらい怪我してるかな。

……そんな色々な思考を巡らせつつ、それを払い除ける。

体勢が崩れた。

まずは翼から。


「秘技━━━━━━━━━━━」

「止めな。」


と、いい所だったのにラルに止められる。


「紹介する、私達の仲間。ウルゴア・サイサリスだ。」

「……失礼しました。ご客人ですか?」


先程とは打って変わって、優しい表情を見せる。

これはなかなか……。


「あたしは楪。あんた強いね。」

「いえ、貴方もなかなかでした。私の攻撃を片手で受けるなんて。……となると、ラル。もしかしてこの方なの?」

「できるかもしれないのはな。」


急に2人で話し始める。

呼ばれた割には扱い雑なんですけどー。


「話見えないけど……何?」

「……この先に私の妹がいるのです。神によって、化け物に変わり果てた私の妹が。」

「へえ。」


悲しげで、怒りも見える表情をしていた。

なるほど、無神教会ってのはそういう意味か。

なんかしらの理由で、神を忌み嫌う集団。


「殺して、救って欲しい。」

「━━━━━━━なるほど。」


殺して救って欲しい……ねえ。

どれくらい悲惨なことになってるのか。

そんなにも神は卑劣で残酷なのか。


「妹は……エリカは近づくと改造された翼の古代兵装が襲ってきます。白い翼は自意識で動きますが…黒い翼は誰彼構わず襲います。姉の私であってもそうでした。石ころでさえ、近づくのを許されないのです。」

「要は化け物退治ってことかい?あたしにできるかなぁ……無理だったら引かせてもらうよ?自分の命は流石に惜しいし。」

「ああ、できる所までで良い。」


ラルは鍵を開けた。

2人して、その扉を開けてくれる。

中はかなり薄暗かった。

松明が部屋の四隅に置かれてるだけで、ほかは無い。

そして、見えてきたのは。


「……。」

「これ、全部神様がやったっての?」

「はい。」


ウルゴア同様、白い髪だったが手入れされておらず汚れが目立つ。

見たことも無い装備で目元を隠されて、足枷も着いている。

距離を保ちながら背中に回ると、腕が固定されていた。

しかも串刺しにされて、全く動かせない状況。

自由なのは、口だけだが。


「……ぅ……あ。」


なんというか、知性がない。

獣のような自意識。

ただ、生きている人間。


「思った以上に酷い。」


徐々に近づいていく。

怪我も酷いが、きっと処置すら出来ないんだろうを

10m、8m、5m。

おおよそ人間とは思えない。

体も、顔も、人間そのものなのに。

3m、1m。


「それ以上は危険だ。気を引き締めてくれ。」


その言葉を聞き、ツバキをそっと近づける。

分からないけど、ゆっくりと。

絶対バレてる気がするけど、バレないように。

やがて刀は。

()()()()()()()()()


「嘘…ッ。何故……?」

「エリカが攻撃をしない……だと?」

「これ、普通じゃないんだね?」


反応からするに、普通はこうじゃない。

刀を近づけていた辺りで黒い翼があたしを攻撃しているのだろう。

刀を納刀、自分の手でその体に触れる。


「……?」


別に怯えるわけでもない、何かが当たったというだけの反応。

手を握る。

まともなものを食べられていないからか、細い。

腕、肩を伝って首。

今だ拒否反応はない。

顎、頬。

さすってみても、何も無い。

最後に頭。


「何も起きない、ね。」


とりあえず頭を撫でてみた。

その瞬間、ペタンと地面に座ってしまった。

あたしを攻撃してくる素振りすらない。

そのままよしよしと撫で続ける。


「……うぅ…あ。」


もっと撫でてと言わんばかりに頭をこちらに寄せてくる。


「……殺すのかい?」

「止めて。……殺さないで。……どうして?」


いやまあ、こっちがどうしてなんだけど。

見ての通り、普通に撫でれた。

攻撃もされなかった。


「今までは姉の私は愚か、布、石すら1m以内に入ると即攻撃されたんです。食事は水だけで。……それなのにあなたは何故……?」

「何かで判定しているのは間違いないんだろうな。危険性か?」

「いや、それは絶対おかしいでしょ。殺すつもりで刀握って近寄ったんだよ?」


不思議だ、少なくどあたしはなんかの基準を満たしてるから何もされなかったってことだろうけど。

実の姉ですらダメだったのに赤の他人のあたしがいい。


「ツキミ。」

『ごめんけど、あたしちゃんは分からないよ。』


あたしにしかない何かがある?

……冗談はよしてよ、あたしほど()()()()()()()()()


「……()()()()()()()?だとしたら酷いよ、全く。」


誰にも聞こえないような声で呟く。


「……あの、お名前は……!」

「楪。ただの刀使いさ。」

「……宜しければ……エリカに食べ物を……っ。」


土下座でもしてしまうような勢いだった。

確実にウルゴアにはまだ残っているものがある。

それこそ妹。

ラルには野望が。

証拠としては薄いけど、それしか分からないね。


「体も拭いてあげてください……ッ何でも…しますからッ……!」

「落ち着きなって、外道じゃないんだから。」

「……持ってくる。」


ラルも気持ちを察するかのように部屋を出ていった。


「これくらいならいくらでもしてあげるさ。」

「ありがとう……ございます。」


こんなにいい子が、神を憎んでいた。

いるのか分からない物を。

一体神様ってのはなんなんだ━━━━━━━━━━。











「よーし、いい子いい子〜痛くないよ〜。」


濡れたタオルで、体を拭き取る。

こんな汚いところで閉じ込められてるんだ。

ウルゴアとしても辛いものはあったろうけど、それでも何も出来なかった。

気になることばかりだね。


「う、えあ。」

「……喋れないのは神様とやらのせいなのかい?」

「様なんて付けないで。……こんなことをできるのは神しか居ないでしょう。」


なんというか、信じる側も信じない側も得体の知れないものに神をあてがうのは一緒なのかね。


「不思議に思うだろうが、私らシスターは確実に神の声を聞いたことがある。」

「へえ、ラルもかい?」

「ああ。だが、今は全世界で聞こえないんだ。」

「それまたなんで?」

()()()()()()()。」

「…………ええっ!?」


なんてことないように、その事実を告げられた。


「嘘ではありません。2年前、神の声を聞くシスター達全て。神の声を聞けなくなりました。」

「私が空に向かってコイツを撃った日だ。」


さっき持っていた銃を見せびらかす。


「古代兵装、ウロボロスとニーズヘッグ。神殺しの遺品……私はそう読んでいる。」

「これまたすごい話を聞いたなぁ。世界はこうも常識が塗り替えられていくもんかね?」

「関わる人間が異端なだけだ。」

「違いない。」


エリカの髪も軽く水で洗う。

手入れをしていなかったからか、酷く荒れている。

仕方ないか、今まで誰も触れられなかったんだから。


「どのくらいこうだったんだい?」

「1年半は。……自分でさせようにも、知性を奪われていますから。」

「そっか。辛かったねーあんた。」


ぽんぽんと軽く頭を揺らす。

目すら隠されているから表情は分からない。

喜んでくれているといいんだけど。


「正直、羨ましいです。エリカに触れられるなんて。」

「赤の他人で申し訳ないね。」

「いえ、いいのです。……あの、良ければこれからも━━━━」

「はちょっと厳しい!こっちも事情があるからねぇ。」

「……何とかならないか?」


ラルまで頼み込んできた。


「意外だね。なんか他人のことはどうでも良い!みたいな人だと思ってたけど。」

「神を殺したせいでこうなったかもしれないんだ。その場合は責任は私にある。家族を失痛くない気持ちは、分かる。これでも元シスターだ。」


今は違う、と言いきってしまうのは彼女らしいけど。

どうにか出来ないか…ねぇ〜。


「あたしさ、ギルドにいるんだ。そっち来てくれるなら面倒みれるけど……。」

「それだとウルゴアも動けないな……。ウルゴアは表ではちゃんとしたシスターで通ってる。私の為に動いてくれているんだ。……わかった。私が楪について行く。エリカに何かあったらコイツを打ち上げる。遠いところでもウルゴアなら感じられるだろう?」


そう言って銃を見せた。

発煙筒みたいな使い方するんだね、宝の持ち腐れって言うんだっけ?


「お願いします……!」

「そう簡単に頭下げないの!もちろん、それくらいならしてあげるさ!まあ、あたしの用事終わってからだね、ギルドの加入関連は。」

「紫苑の殺害か?」

「殺害というか、見極める。まだ分からないからさ。」

「……イレンに関しては、申し訳ない。いないから言うが……彼奴は本当にクズだ。生きているだけで無害の人間を壊す。そういう人間だ。」


なんか病原菌みたいな言い方。

何があってそんなにクズって言われてるんだ?

いや、何となくわかるけどさ。


「あれはあれで、普通に生きているつもりなんだ。人と価値観がズレている。……でも私の望みを叶えるには必要な人材だった。申し訳ない。」


ラルの望みもなんだかんだで分からない。

信者を全員殺すって……何か変わる訳じゃない。

何かまだほかにあると見たけど……。

今はまだ聞ける風でもないか。


「……私からも言っておきますが、イレンは絶対に信用してはなりません。隙を見せたら最期、彼の人間性に惹かれて、人格を失う、奴隷のようになる、もしくは……。」

「あーーあーー!いいよ聞きたくないから!最悪殺すし!!」

「……気持ちは分かるが峰打ちで頼む。」

「志は同じなのが、ちょっと。踏ん張りがつかないというか。」


優しい感じだと思ったら結構言うこと言うのね。

なんだかんだで重要な人だと言うのは分かるけど。

鍵みたいな人間ってことだ。

鍵穴を開けるのには鍵が必要だけど、別に他の方法もある。

壊したり、ピッキング。

でも、開けるのは鍵があればとってもらく。

そういう人材なんだろうね。

話聞いてるとあたしはゴメンだけど。


「…う。ああ。」


エリカが寄り添ってきた。

撫でられたいのかな?

なにか伝えたい?


「どう思う?」

「良ければ……撫でてあげてください。」

「うん。」


弱々しい腕だけど、強い力。

の体を掴んだ。

何かを探すようにあたしの体を触る。


「…ぅあ……?」


腕の切断面に触れた。

探してるのかなもうひとつの腕。


「ごめんねー、両手では撫でてやれないよ。その時は、お姉ちゃんに両手で撫でてもらいな!それまであたしで我慢!」

「…ぅあ……う。」


きっと聞こえてるけど、言葉は理解できない。

ずっと探り続けて、諦めた。

なんだか、明らかにしなくちゃいけないものが一つ増えてしまった。

とにかく、全てネモとライラを救ってから。


「じゃ、紫苑とやらを見てくる。」

「私も同行する。せめてもの礼だ。ウルゴアは教会を頼む。」

「任せて、行ってらっしゃい。」


ラルを連れて、教会から出る。

さ、どうなるかな。

ネモ達の親は白か黒か。

そうなった場合、彼らはどうするか。

心配だが……予感的には、ラルが何とかしてしまうだろうな。

こういうタイプは、殺すことに疑問を感じない。

あまり酒も飲めない年齢の子達に殺しは見せてやりたくないんだけどな。

ネモやライラが、あたしやラルみたいに殺しをしても、何も思わなければそれでいい。

人としては破綻するが、生きるだけなら大丈夫。

……でも当然そんな人間にはなって欲しくない。

いや、そもそも殺しが起きるような現場に出くわしませんようにって祈ろう。

なんせ、シスターがいるからね!

以下いつもの

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━








コンビニはお休みを貰っています。

またのお越しを。

早く開店して欲しかったらタバコよこせ。

金も倍払え。

出来ないならあーだこーだいうな。

店長 ラル━━━━━━━━━━━━━

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