7頁目 非日常
━━━━━━━━━━━届いているでしょうか。
アステリアです。
私の蝶に記憶を乗せて届けています。
寿命は少し削れますが、それでも平気です。
精霊王様、私は元気です。
最初は2人だけの旅路だと思っていましたが、賑やかになってきています。
こんなに沢山の人達と過ごす機会は、きっと精霊王様のものでは得られなかったでしょう。
まだ少ししか期間が経っていませんが、私は楽しく過ごさせて頂いています。
だから、この思い出達を少しでも精霊王様にお伝えしたく。
……少しでも楽しんで欲しくて、この蝶を届けます。
身勝手ではありますが、動画見て、感じて、気を楽にして欲しいです。
精霊王様が気負う必要なんてないのですから。
「……。」
ひらりと舞う宝石のような蝶。
それが大きな木下で佇む彼女の前に漂う。
そっと、その蝶に触れた。
数刻、目を閉じた。
蝶はキラキラと砕け散る。
「そっかぁ。」
しおらしく、子供のような声を出す。
精霊王、どこかにいる世界を見守る者。
その存在すら知られていないが、偉大な存在である。
「私達の分まで楽しんで。」
近日の朝からの始まります。
寝る必要が無いのは精霊王様もご存知のはず。
だから、夜は空を眺めています。
みんなはすやすやと眠っています。
見張りの係だけは夜に起きていますが、だんだんと黒色の空が薄くなっていく頃に。
「おはようございます、リナリアさん。」
「はい、おはようございます。」
深々とおしとやかな礼をしてくれる。
ごく最近、一緒に旅をするようになったリナリアさん。
同じく一緒に旅をする仲間のライフィードさんのお世話係なんだとか。
キッチン……というには少々粗雑すぎますが、調理をする場所を確保させてもらい、私とリナリアさんで皆さんの生活をお手伝いさせていただくことになっています。
「……それ、本当にいいのでしょうか?」
私が指さすのは、高級そうなティーカップなどの食器。
屋敷生まれのライフィードさん。
その屋敷から持ってきたものだと言いますが。
「はい、一応私の私物ですのでお気にせず。」
そういいながら、飲み水用の樽から水を容器に入れた。
キッチンに置き、燃料代わりの木の枝に魔法で火を付ける。
少し古びた短い足の三脚台にそれを置く。
「本当に器用ですね、リナリアさん。」
「御屋敷の方ではみっちりと出来ないことはないように鍛えられましたので……。魔法から剣術、園芸、皆さんがやるような一般的な趣味一通りは。」
軽い笑みで話しかけてくる。
本当に憧れてしまう。
なんでも出来る方、というのはどうしてこうも魅力的なのでしょう。
「おはようございますジャン様、見張りのお仕事お疲れ様です。なにか飲み物は飲まれますか?」
「おっ、なんかあんのか?」
「はい、昨日停滞中に山菜を探していたところお茶に出来る植物を見つけまして。」
「へ〜!そりゃ是非頼むぜ〜!」
「承知しました。お待ちください。」
気遣いも出来る、本当に素晴らしい方で。
今までの御屋敷暮らしが染み付いているなと感じることもしばしば。
私もここら辺で、朝食作りのお手伝いをします。
本当にリナリアさんからは教えられるばかりで、たくさんの料理などを作れるようになりました。
……楪さんですが、昨日から深い眠りに入られて。
時々起きたような素振りをされますが、直ぐに寝てしまいます。
お疲れになっているようなので暫くはそっとしています。
朝食の時間帯。
普段はレンさん、ネモさん、ペルナさん、ライフィードさん、ライラさん、鈴蘭さん、ジャンさん、マスターさん、楪さん、ヴェンさんの順で起きてきます。
皆で朝食を食べ、片付けをし、レンさんが拠点を動かし一日が始まります。
レンさんは体の大きな種族で、3m、体付きもとても大きいので食事の量も多いのです。
マスターさんは
『こんな話もなんだが、金で見たら多々運ぶ馬より高ぇけどよ。こんなに言うこと聞いてくれるいい子は他に居ねぇな。』
との事です。
実際にレンさんは休みを食事と睡眠の時しか取らず、黙々と仕事をこなす凄い方です。
レンさんに聞いたところ、皆の役に立つのが夢、と仰っていたので本望なのでしょう。
感謝してもしきれない、ギルドの大黒柱のような存在です。
ガタンッ、と大きく拠点が揺れ動き始める。
私のお仕事はリナリアさんと当番制なので今日は自由です。
それでも軽くお手伝いはしますが。
……そして、動き始めてからまず最初に見ることになるのが。
ネモさんとヴェンさんの鍛錬する姿です。
互いに強くなる、という目標を元に様々な事をやってらっしゃいます。
元々ヴェンさんは楪さんが面倒を見ていたのですが、そもそも面倒くさがっていたのでネモさんに押し付けてしまいました。
「よーっし!今日はなにやんだ!?」
「走り込みだ。夜までずっとな。」
「体力には自信あるぜ!最強だからな!」
「言うな、いくぞー。」
そう言って2人は元気に拠点の付近を走っては戻ってきてクールダウン。
走っては戻ってきてクールダウンの繰り返し。
凄いですね。
「水分取りなよ。…本当、朝から元気。」
若干うんざりして声を出すのは鈴蘭さん。
凛々しい女性の方で、皆をまとめるリーダーのような存在です。
普段は自分の使っている装備の手入れ、備品の確認。
そしてマスターさんの……しつけ?をしています。
かなりの苦労人ですが、全て込みで楽しそうに過ごしています。
その傍らで細目で微笑んでいる方がライラさん。
やんわりしていて、皆のおねえさんのような方。
皆さんの怪我の処置などを主にしてくれている欠かせない存在です。
ネモさんとは姉弟でいつも仲が良いです。
「気をつけてね〜。」
「おう〜!」
「当たり前だぜ〜!」
「……分かってるかなぁ。」
「うむ、男というものは全く理解できないな。」
……と、ライラさんの膝で寝ているのがペルナさん。
いつの間にか手懐けられていますが……。
たまたま縁があってこのギルドの仲間となりました。
猫の獣人でピンクの毛が特徴的です。
小柄で幼い見た目ではありますが、22歳と楪さんより歳上なんです。
「重りをつけず走ったとて何も変わらないぞ。」
「そこじゃないよペルナちゃん……。」
「む、違ったか。ニャ。」
時折忘れていたかのように語尾に『ニャ』と付けます。
本当に猫のような自由奔放な方です。
因みに、私自身は基本的にやることが無いもので。
今は楪さんが長く眠っているのもあり傍で座って様子を見ています。
早く良くなるといいのですが…。
「楪、まだ起きないのか?」
「ライフィードさん、おはようございます。…そうですね。起きたような素振りは時折見せるのですが。」
話かけてきてくれたのはライフィードさん。
ビナーの中でも有数の名家であるフェンスター家の元跡継ぎだそうです。
嫌になって抜け出した……と仰っていました。
人の事情なのでとやかく言えないのですが、本人の意思というのはやはり尊重した方が良いと思いますね。
「アステリアと楪は言わば伴侶のような関係だろう?」
「け、決して恋仲ではないですけどね。」
「そうか。まあ、良くなるといいな。」
ライフィードさんは普段何をしているかと言うと……。
「よし、ネモ、ヴェン。俺も混ぜてくれ!負けていられないからな。」
かなりの確率でネモさん達と一緒に鍛錬をなさっています。
仰っていた話では貴族のような生活に飽き飽きしたと。
恐らくですが、今はやること全てが楽しいのでしょうね。
掃除をしていたリナリアさんが、少し微笑んだ。
そしてジャンさんですが……。
小さい体型に長く高い鼻。
ゴブリンという過去に存在した種族の末裔らしいのです。
詳しくは聞いたことありませんが、書物で見たので言うとゴブリンという種族は身の回りにあるものなんでも使い生活する種族。
個体差が激しく、知能が低くて人間を襲い、食べ物などを奪うグループ。
ある程度の知能があり他種族と交流を図りやりくりする種族などもいました。
後者はどうやら暗い話ではありますが人攫いをしたゴブリンが子供を増やした結果らしいのです。
真偽は分かりませんが。
そして、その影響か分かりませんがガラクタ弄りというものをしています。
私にはよく分からないのですが、時折爆発したりするのでなにかを作る技術があるのはすごいことです。
黙々と集中して、失敗を繰り返しながら基本的には空を飛ぶ物を作っているそうです。
夢があり、それはいつか空にあるとされている浮島に自分で作った空飛ぶ船で行くという夢らしいのです。
なんともロマンのある夢で素晴らしいのでしょうか。
常に努力なさる姿は、私には格好よく見えます。
笑い方が一癖二癖あるのがちょっと面白いですが。
「ん、おーいレン。一旦止めてくれ〜!」
号令をかけるのは、このギルドのマスター、ヤナギさん。
ご老体ではありますが、その身のこなしはネモさんに負けず劣らず。
むしろ勝る、達人のような方。
「一旦休憩だ。ちょっと車輪の様子がおかしい。」
そう言って、マスターさんがいつも晩酌しているカウンターの席から工具を持ち出す。
「ジャン、手伝えー。」
「あいよぅ!」
一時停止して、2人が拠点後方左側に移動した。
「あー、単純にガタが来ちまってるな。ヒビ入ってやがる。」
「木製だといつかはこうなっちまうからな〜!オイラ今から作れるけどどうするよマスター!」
「頼むわ。何分ありゃ行ける?」
「30分だな!」
ジャンさんはギルドの腕と言っても差し支えない、私達の生活を豊かに過ごしやすくしてくれます。
家具作り、物の修理など。
ジャンさんもまた居なくてはならない存在です。
……と、こんな調子で。
移動中の私たちは常にこのような感じで過ごしています。
夜で言えば私が目立ってしまいますしね。
他はあまり変わらないです。
「綺麗な蝶、何をしていたの?」
「鈴蘭さん。」
精霊王様へ送る蝶を創っていた所を話しかけられた。
「手紙のようなものです。記憶……というか、情報を載せることが出来ます。」
「魔法って凄い。……ほら、私は盾と剣しか使えないからさ。そういうの憧れる。」
何気ない会話をしていると、天気が悪くなってくる。
拠点には天井なんかない。
雨が降ったらどうするのだろうか。
「マスター、少しよろしいでしょうか。」
「なんじゃ。」
「恐らく雨が降ります。その間はどうするのでしょうか。」
「おーマジか。」
空を見て、寝そべっていたマスターは跳ねるように起き上がった。
「お前らー、雨降るっぽいわ。荷物集めろー。」
各々が返事をし、荷物を1箇所に集めた。
私の記憶が確かなら、私達がギルドに入ってからは初めての雨。
「屋根なんてねぇからな。これ屋根替わりにするんだわ。」
そう言って取り出したのは大きなシートのようなもの。
確かに、雨宿り位は出来そうですね。
「ネモ、樽持ってこい。」
「了解ー。」
樽が多く積まれた荷物台部分にある空の樽を持ち出した。
基本は飲み水と、生活用の水用の物。
「いちいち川に行って水汲むのも面倒だからな。こういうのもしねぇと。」
みんなで拠点の一番高い部分から紐でシートを括り付け、簡易的な屋根の完成。
「雨が酷かったら一旦止まる。レン、悪ぃが頑張れよ。」
「……。」
「━━━━━━━━━━━━━ん。」
体にひとつ、冷たい雫。
空を見ると天気が悪い。
雨か。
「楪さん……起きたんですね。」
「あれ、寝てた?」
「はい、心配するくらいには長く。揺さぶっても起きず。」
「そっか、迷惑かけたね。」
まあ、何となく原因はわかる。
ポツポツと、雨が降ってきた。
「楪さんもこちらへ、風邪ひいちゃいますよ。」
よく見たら屋根みたいなのが出来てる。
雨宿り用かな。
「お、起きたか楪。ヴェンが心配してたぞ。」
「そ、そりゃあ俺の次に強えやつだからな!心配くらいしてやるぜ!」
「ごめんごめんー。」
「……ぱっとしねぇ顔だな?」
「そう見えるかい?」
「おう。」
会話は途切れる。
皆が1箇所に集まって休んでるのを見ると少し気分が上がりもするが……。
あたし自身、ちょーっと緩みすぎかな。
そんなことを思ってたら、急に強い雨が降り出す。
「おーおーおーおー。レン、出来るだけ雨が当たらないような場所で止めてくれ。お前も休め。」
結構強めの雨。
少し移動速度が早くなり、木陰になるようなところで停止した。
「足止めだな。飯は持つか?」
「はい、食材は余分に調達してあります。1週間程度なら伸びても問題は無いかと。」
リナリアがすぐに返答。
そうか、アステリアと一緒にやってるんだ。
街を出てからあまり記憶が無い。
段々と地面に雨が打ち付ける音が強くなる。
「マスター、何時までとまる?」
「止むまでだな。」
「少し外に出ていいかい?」
「いいけどよ……雨の中何すんだ。」
「気合い入れ直すのさ。鍛練という鍛練もして無かったし。元々雨が降る日にやることがあるんだ。」
よく、村にいた頃はやった。
ごうごうと雨の降る中で刀振って鍛えて。
刀使いとしては何があっても剣先が鈍らないのが1番。
当然、風邪引いてたって振るう時は振るわないと行けないだろう?
師匠はずっとそう言ってたから、腕に重りつけたり、怪我してたり、雨降ったり雪降ったり、眠かったりしても動けるようにと。
していた鍛練。
「目に見えるところでやってくれよ、探しに行くのも面倒だ。」
「あいよ。」
羽織を脱ぎ、拠点から出る。
ツキミを抜き、制止する。
「……大丈夫?風邪引かない?」
呟くような小さい声。
鈴蘭が気にしてくれる。
「馬鹿は風邪をひかないって言うだろ?」
「き、きこえるんだ。」
「あたしは地獄耳だよ〜?」
━━━━━━━━━━━━━━━さて。
そんな冗談は置いておき、刀を構える。
体に当たり続ける雨の雫。
感覚を研ぎ澄ます。
周囲の音から始まる。
風、雨、話し声。
目を閉じ、見ずともそれを把握する。
次に体に当たるもの。
雨1粒1粒を認識する。
何千、何万と当たるであろう雨の雫を肌で感じ取る。
濡れた体が、風で冷える。
恐らく、普通なら寒さで体が震えるはず。
寒くなった時は誰でもそう。
でも、それを留める。
震えずに、指先すら動かさない。
忍耐?根性?
それもあるかもだけど、これで鍛えるのは思考の排除。
余計なことを考えるなってよく言われることあると思う。
刀についても同じだ。
邪念は捨てること。
夏の暑さ、冬の寒さ。
虫の不快さ、人の心地良さ。
痛み、妬み、憎しみ、恨み。
人間的思考は全て刀がブレる原因。
高熱出しても、すこぶる体調が良くてもダメ。
今一度、自分を見つめ直す。
━━構え続けて数分後、体に寒さを覚える。
絶対に寒さで震えず、1寸も動かない。
これを雨が止むまでやる。
やってることは滝行と同じさね。
師匠から教わったわけじゃない。
私なりに強くなる方法を模索してこうなった。
腕を失ったばかりのあたしは、どうにかして他の人より秀でたかった。
別に片腕でも刀を振ることは出来る。
それで刀使いとして生きていけるかと言われたら、答えはいいえ。
だからあたしはまず、精神を鍛えた。
何にも刀を揺さぶられないように。
刀使いの世界は一瞬の油断が死を招く。
一切動じない心を得る為に色んな事をした。
その最初がこれだった。
……良いことより、良くないことの方が多いけど。
寒さ、暑さ、痛み。
これ全部無視し続けたら、いつか死ぬ。
危険だから何とかしろーって脳から言われてるのにそれを無視するんだから。
特に痛みはね。
気付いたら血だらけで倒れたことだってある。
痛みに気付かない訳じゃない。
痛いという感覚もある。
忘れるんだ、すぐ。
そういう意味では、仲間は必要だったのかもね。
こうして何もせずただじっとしている時、何を考えるか。
何も考えない……っていうのは寝てるのと同じだと思う。
というか無理。
あたしはそこまで完璧じゃない。
よくイメージトレーニングって奴をする。
今この瞬間、襲われたら。
背後から来たら?
前に倒れるように姿勢を落として基本的な攻撃を回避、遠心力で斬る。
前は?
攻撃を見て、受けて戦況を見直す。
2人だったら?
……みたいな感じで。
ま、あたしは飽き性だから直ぐにそんなのやめちゃうけど。
「……ん。」
体に当たる雨が少なくなってきた。
そろそろ晴れてきたかな?
目を開けて見ると、既に夜だった。
暗くて見えにくい。
拠点内には1つの焚き火と、本当に輝いてるアステリア。
「ふー。こんなもんかな。」
「楪さん。お疲れ様?……です。」
「何時間くらいやってたかな、あたし。」
時間の感覚すら忘れてしまう。
こんなのずっとやってたら頭おかしくなっちゃうから、雨の降る時だけやる。
それも気が向いたら。
「お昼頃から、現在深夜です。皆さんはもう既にお休みしていますよ。」
「分かった、悪いんだけどご飯ある?」
「はい、残してありますよ。準備しますか?」
「いただこうかね。」
楪が準備してる間に、あたしも着替えなきゃ。
こんなにびちょびちょだし。
風邪ひいて鼻水ズビズビの刀使いなんて恥ずかしいったらありゃしない。
晒しは巻き直せばいいだけだから、下。
脱いで、絞る。
「うわー、通りで重かった訳だ。」
スポンジかって言うくらいには水を吸っていた。
片手だから上手く絞れないけど、それでもかなり水が出る。
「……楪さん、だからあれほど言ったじゃないですか。着替えは誰にも見えないところで……。」
ちらっとこっちを見て、溜め息を着くような動作。
呆れつつ、優しい声で叱られる。
「ごめんごめん。」
「あ、手伝いますよ。」
包帯を取り出していたあたしを見るなり、すぐ来た。
嬉しいには嬉しいけどなんかヘンな気分。
数回手伝ってもらったことがあるけど、直ぐにあたしと同じ巻き方を覚えちゃって。
しかも速いし丁寧だし、崩れにくいし。
覚えが速いね、ほんと。
「悪いね、至れり尽くせりで。」
「いえいえ、今の私はこれがお仕事ですから。」
ぐるぐるとあたしの体を巻いてる最中。
「体、冷たいです。暖かくして寝てくださいね。」
どこから持ってきたのか分からない毛皮の布団を渡される。
ああ、ライフィードのか。
彼も布団掛けられてるし。
「もちろんさ。風邪引くのは嫌いだからね。」
羽織をちゃんと着て、体を温める。
実際のところ風邪は嫌いでね。
咳とかくしゃみって我慢出来ないからね。
出る時は出ちゃう。
「……はい、暖かいスープです。」
野菜多め、栄養がありそーって感じのスープ。
とりあえず1啜り。
「ん〜あったまるぅ〜。」
「おかわりもありますよ。」
「ん、ゆっくり頂くよ。」
故郷にいた頃にも、楪がいたらなぁ。
食生活なんてズボラだったからあるもの食って生きてたし。
ちゃんとした料理食べてると……なんかこう。
生きてる〜って感じする。
「少しお聞きしたいのですが……お体は本当に大丈夫なんですか?」
「わかんない。」
「ええっ。」
「こういうのやり続けてわからないようになっちゃった。」
本当に、ちょっと後悔してるところもある。
「でも、アステリアがいる。」
「……もう。」
「あたしが馬鹿しないようにちゃんと見てておくれよ?」
「ええ、もちろんです。」
美しい笑顔。
少し、心配させすぎちゃった。
明日からはいつも通り行こう。
いつも通り話して、動いて、振舞って。
今はそれがいい。
誰にも迷惑をかけない。
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目が覚めてすぐ鍛錬したから、特に何か書くことは無い。
食べた夕餉が、なにかと心を揺さぶった気がする。
いいのか悪いのか。
あたしには分からない。
実戦 無し
鍛錬 精神統一
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思えば、あたしには何も無い訳でもないかもしれない。
自らなにかと遠ざけてきた。
だからなんにも無かったのであって、見つければ全然あるのかも。
ただ、本当に心の拠り所になるのか。
……それで振るう刀は強いのか。
あたしはそんなことは無いと思う。
だからこういうの修行をしてきた。
いっそ刀使いなんて辞めてしまえば、楽になれるのかもしれない。
━━━━━━できない。
あたしはそういう人だから。
1度信じた道を振り返って戻るなんて、無理だ。
だってそんなことしたら。
いよいよ本当に何も無い。
以下いつもの
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「うちもおでんとかやる?」
「楪さんにしてはいい案ですね。こんばんは、コンビニです。」
『今日のお客さんはだれじゃーーーい!』
「……ライフィードだ。」
「リナリアです。」
『金持ちがァッーーー!!!』
「うるさいうるさい、あんた金持ちになんの恨みがあるんだい。」
『金の恨みは何よりも深いぞッーー!!覚えとけ金持ちのボンボンが!』
「いいのか、これで。」
「無視して行きましょう。ね、リナリアさん。」
「は、はい……。」
「好きな物は?」
「意外と思われるかもしれないが、屋台とかで出る焼きそばが好きだ。」
「あの国屋台とかあったの?」
「たまに祭りがあるらしいぞ。」
『なんで疑問形?』
「そりゃお前、あっちの俺じゃないからだろう。」
「リナリアさんは?」
「悪魔は食事を必要としないので……ですが、甘いものは気分が良くなります。ワッフルとか。」
「リナリアさんらしいですね。」
『金持ちだ!好きな物も金持ち!!!!店の物全部買ってけや!!!』
「……金持ちは金を持ってるから金持ちなのでは無いそぞ。使い所を弁えるから金持ちなんだ。」
『キイイィーーーーッ!てめ━━━━━━』
「あ、マイク途切れた。」
「……まあ……なんだ。後で詫びの品でも持ってくるよ。」
「わお、対応も金持ち!また今度ねー!」
「またのご来店お待ちしております。」
「アステリア……恐らくですけど貴方もそちら側に慣れてしまっていませんか。」
「えっ。」