3.
やっと、続きが出来ました。
天気が悪くて元気が出ません。お日様が恋しい……
季節が巡っても過ごし易い地域に移動できるマイラピ●タが欲しいです。でも高度が高いと紫外線が……
雲の上に住んでいる人?は紫外線対策はしてるんでしょうかね
皆さま御機嫌よう。 罪なき乙女の味方、名も無き愛の天使です。
もう! ですからわたくしはざまぁ天使なんかじゃありませんわ。
愛の天使所属、婚約破棄等防止及び、ざまぁ根絶係でしてよ。
確かに役職名にそのような文言は入っていますけれどその呼び方では、まるでわたくしがざまぁしているように聞こえますわ。
えっ、やっているですって? 婚約破棄などを未然に防いでいるだけですもの、そんなはずありませんわ。
ええ、気の所為でしてよ。
さて、お喋りはこのくらいにしてお仕事を始めなくてはね。
今日も下界を見守るための特別な鏡で、気にかかる縁がないか探します。
天使になると寿命がなくなる所為か時の流れがゆっくりに感じられます。
わたくしたちから見ると人の一生など一週間から十日ほどの感覚です。
ですから、この場所は特別に下界の時間と同じように感じられるようになっています。そうでないと、ちょっと他の事に気を取られているうちに、どんどん物事が進んでしまいますものね。
沢山の鏡が並んでいる私達のお仕事部屋のような場所ですのよ。
それにしても、わたくしが天使になってからいくつ国が斃れ、新しい国が興ったのでしょう。何時まで経っても争いがなくならないのはどうしてなのでしょう?
人の愚かさが哀れで悲しくなってしまいます。
そんな中、わたくしの前世の母国はまだ続いているようです。今は婚約者だった王子の子孫にあたる方が治めているようですわ。
ですがあの方のお相手だった女性は、どうやら王妃にはなれなかったようです。
在りもしない罪で、わたくしを遠ざけてまで結ばれようとした、あの方たちの「真実の愛」とやらはどこに消えてしまったのでしょうね。
わたくしがあんな目にあったのは、何のためだったのでしょうか?
虚しい気持ちになります。
その上、なんてことでしょう! あの時と同じような事があの国で再び起ころうとしています。
あの方の子孫である王子が真実の愛を口にして、罪なき乙女を陥れようとしているのです。
あの頃の辛かった気持ちがよみがえって胸が痛いです。
許せませんわ。真実の愛とやらは呪いですの?
あの王家は呪われているのですわ、きっと。
歴史は繰り返すと云われていますけれど、あのような愚行は二度とさせません。
ええ、このわたくしが!
湧きあがる怒りやら、やるせない思いにフルフル震えていると、先輩天使のソレイユ様が通りがかって声をかけてくださいました。
「どうしたの? 泣きそうな顔してるじゃない。まさか誰かに何か言われた? 」
握りしめていたわたくしの手を、そっと上から包み込んで顔を覗き込まれます。心配そうな緑の瞳の写るわたくしの顔は情けなくゆがんでいます。
大好きな先輩は、いつもわたくしに優しくしてくださって、だから甘えたくなってしまいました。
こみ上げる思いに涙ぐみながら訳を話すと、ソレイユ様は眉を顰めてわたくしの見ている鏡に目をやると、次第に険しいお顔になりました。
「うん、このお仕事は私も参加することにするわ。たぶんカレンちゃんも興味があると思うから声を掛けましょうか」
とても良い笑顔で仰るのだけど何故か急に寒くなった気がして、わたくしの涙も怒り昂った熱も引いてしまいました。
そうですわね、先輩たちが助力して下さるなら、わたくしも平常心でお仕事に臨めそうです。
わたくしは今、頼りになる先輩二人と共に、あの者たちの様子を眺めています。
「殿下、もう少しご自分の立場をお考え下さい。」
ブルネットの髪に翡翠色の瞳のほっそりした少女が思いつめた様子で、あの王子によく似た少年に苦言を呈しています。側にいる赤毛と茶髪の少年は側近なのでしょう。
「うるさい。王太子であるオレに口出しするな。お前こそ何様のつもりだ」
「尊い身であればこそ、尚更負う責も重くなるのですわ。責務を放り出して遊興にふけるのもたいがいになさいませんと」
「王になれば執務やら公務でに縛られるのだ。今のうちに自由を楽しんで何が悪い」
「その通り、殿下や我々が羽を伸ばせるのは、学生のうちだけなのだから無粋な事を言わないでくれないか」
苛立った声を上げる王子に追従した少年が、さげすむ様な視線を向けます。
格上のそれも令嬢に対する態度ではありません。
「学生のうちだから言うのですわ。言わば剣の修行と同じこと、鍛錬もせずに戦いには挑めません。ある程度執務に慣れていなければ後々こまることになるでしょう?」
「そのような差し出口は不要だ。婚約者だからといい気になるな」
正論を言われて益々いきり立っていますけれど、ご自分でも後ろめたいのでしょうね。まるで癇癪を起した子供に見えますよ、王子様。
「そうですよ。あなたが心配せずとも殿下なら卒業後は執務など立派にこなせますよ。余計なお世話というものですね」
「当たり前だ。そうだ、そこまで言うのなら、お前が代わりにやっておけ。
俺に小言を言うぐらい暇なのだろう?
どうせ王妃教育などという名目で王宮に通って母上の機嫌をとっているんだ、丁度いいじゃないか」
「なっ、わたくしはそのようなことは…… 」
「殿下の御申しつけですよ。謹んで承るのが婚約者である貴方のお役目ではないのですか? 」
「そう言う事だ。任せたからな。行くぞ」
「お待ちください」
「殿下はお忙しいんだよ。これ以上引き留めるのは不敬じゃないか? 」
「そんな……」
嘲笑を残して三人のバカモ、失礼、若者は立ち去りました。王子も王子なら側近もダメダメですわね。他にまともな者はいなかったのでしょうか?
「うわっ、サボるだけでなく自分の仕事押し付けるのか…… 」
カレン様が銀色の髪を掻き揚げて呆れています。どこかの誰かよりも、よほど王子様に見える凛々しい先輩なのですけど、今は見開いた目と、ちょっぴり開いたお口が何だか可愛らしいです。
「ご自分が低能だから僻んでいるのかしら? イヤな男ですこと 」
ソレイユ様も顔を顰めます。
そのまま見ていますと、暫く俯いていた少女は諦めた様にため息をつくと、シャンと顔を上げて歩き始めました。
きっと、愚か者の執務を肩代わりするのでしょう。以前のわたくしのように…… 。
それでもまだ、わたくしには愛するお方の役に立っているという喜びがありました。
ですが彼女は王子を慕う気持ちはないようですから、ただ自分の役目として受け入れているのでしょうか。それはさぞや虚しく、心削られることでしょうね。彼女に同情してしまいます。
そして、あの三人はどうしたのかと思えば、何やら別の少女を取り囲んでいます。
「そんなことないですわ。わたくしなんか、お姉様の足元にも及ばないのですもの。いつも愚かな娘だって言われるのです。姉として恥ずかしい、公爵家にふさわしくないと…… 」
可憐な少女が悲しげに言うと手で顔を覆ってしまいました。何だか大げさで、わたくしにはわざとらしく感じられます。
「そんなひどいことを口にするのか? 」
「妹に対してなんてことを、可愛がるのが普通だろう」
可憐な少女が嘆くのを憤った殿方が慰めています。
「いいえ、お姉様の仰る通りなのです。わたくしなど何の役にも立たないのですもの。お叱りを受けるのも、ドレスが分不相応だから譲れと言われるのも仕方が無い事なのですわ」
「それは本当か、そのようなマネは許せん。それに、そなたが役に立たないなどありえないだろう。こうして俺を癒してくれているのに。それで十分じゃないか」
王子が少女の肩に手を置き顔を覗き込みます。 顔を上げた少女は金色の巻き毛を震わせてかぶりを振り、うるんだ目で見上げています。
いかにも守ってあげたくなるような少女ですわね。その口から出るのが姉を陥れる嘘ばかりでなければですが……
「でも…… 、でもそれだけではいけないのでしょう? わたくしがお姉様のように聡明でしたなら、殿下のお側にいることを許されたのではないですか?
たとえどんなにお慕いしたとしても、取るに足りないわたくしでは殿下の唯一になりたいなど夢見る事さえ畏れ多いことですもの」
「そ、そうか、そなたがそれほどまで思ってくれるのなら俺が何とかする。
王になる俺を支え安らぐ場所を与えてくれるのが王妃の一番の使命なのだ。それができるのはそなただけだ」
「本当に? 殿下、嬉しい」
髪を優しくすきながら王子が甘ったるい声で囁くと、少女は恥じらうように頬を染め胸に寄り添って…… 。
まぁ、お二人とも近づきすぎですわよ。
「俺達の真実の愛は誰にも邪魔させはしない」
「私達も協力します。なぁ? 」
「ああ、もちろんだとも」
涙にぬれる少女を抱きしめている王子と、感動しているような側近たち。自分たちの世界に酔っているようです。
それに対してわたくしたちの周りには白けた空気が漂っています。当然です。
「まるでお芝居のようですわね」 ため息が出ます。
「そうだな。つまらん筋書きだが、あの娘はなかなかの役者だな」
「ええ、アレは男を手玉に取るタイプですわね。ウソもお上手ですこと。さてどうしてやろうかしら」
先輩たちの彼らを見る目がチョット怖い気がします。内緒ですけど。
今回わたくしが救うべき乙女は公爵家の美しい少女です。 真面目で思慮深く花にたとえるなら一輪の白百合ですわね。
そして不幸にもあの愚かな王子の婚約者です。つまり悪役令嬢ポジションです。
わたくしは認めたくないのですけど、彼女の妹がヒロイン役らしいですわ。
被害妄想があるのか、姉の言動を悉く悪意に捉え大袈裟に騒ぎ立てています。金髪碧眼の一見儚げな少女に見えるのも周りが騙される原因ですわね。
姉である彼女が恥ずかしい行いだと諫めているのは、夫でも婚約者でもない男にすり寄ったり、場にそぐわない衣装を着る事でしょう?
それが、どうしてあのように変換されるのです?
普通の会話も理解できないのでしょうか、残念な方です。
姉の婚約者に横恋慕しているようで、王子の略奪を望んでいます。
その王子といえば、彼女が王妃教育を一生懸命受けているというのに他の女性、それも彼女の実妹にうつつを抜かし自分の側近共々遊び暮らしています。
自分の公務さえ彼女に押し付けているのですから呆れてしまいます。
周りの方も止めないのですから、どうかしています。おそらく、うまく誤魔化しているのでしょうね。
その上、妹に惑わされて彼女との婚約を破棄しようと企んでいるのです。ええ、ありもしない罪をかぶせて。
「それではあの方たちにどんな祝福を差し上げましょうか? 」
「あの馬鹿者たちもそうだが、先ずはあの娘からだな。あれが元凶だ」
「わたくし不思議なのですけれど、公爵家に生まれた令嬢ともあろう方が、なぜあのような振舞なのでしょうか?
礼儀作法は姉妹同じ様に学ぶはず。殿方にむやみやたらとすり寄って、はしたないと思いませんか? 」
「まぁ、うふふ。そうね。あの上目遣いで、腕にしがみつくのは男をたぶらかす定番の仕草だものね 」
「そうだな。その時に男の腕に胸を押し当てるのがお約束らしい。私の時もあの女がよくやっていて、アイツが鼻の下を伸ばしていたな」
「ああ、わたくしも見たことがあります。そうなのですね。では、いつも涙目なのも、何かと震えたりビクつくのもワザとなのですね」
「そういうことよ。
じゃあ彼女には、いつも涙目で困っているようだから、涙の分泌が少なくなる祝福と、上目遣いが楽にできる様に眼球の可動域を広げて動きも良くなる祝福を贈るわね」
「私からは、しがみ付かなくても当たるよう、もっと胸が豊かになる様な祝福を上げようかな。姉の方には別の良い縁ができる様、祝福するよ」
「ではわたくしは、あの方たちに注目が集まるようにしますわね。
両陛下には将来起こり得る国の危機についての夢を贈って注意喚起しておきましょう。周りの方たちの愛国心も上げることにします。自分たちの国ですのに見て見ぬふりは許されませんもの。
それから頑張っている彼女には安眠と安らぎの祝福と幸運を贈ります」
それでどうなったかといいますと……
結論から申し上げますと、無事に罪なき乙女を救うことが出来ました。
冤罪にかけられるのを未然に防げましたし、王子との婚約も白紙に戻すことになりましたのよ。本当に良かったです。
そして妹ばかりを偏愛する両親の元を離れて隣国へ留学することになりました。王妃様の後押しで本人の希望が叶ったのです。
真面目に王妃教育に励んでいたのを、ちゃんと見ていて下さったのですね。彼女を評価し認めてくれる人がいてくれたのが、なんだか嬉しいです。
方やあの妹といえば、以前と変わらず被害者ぶって嘆いて見せていますが学業成績も振るわず礼儀作法も拙いまま。それでいて公爵家の名にかさに着たふるまいで、「愚か者」と言われても、その通りなのだから仕方ないと周りが相手にしなくなりましたのよ。当り前ですわね。
それに先輩たちの祝福で、ウルウルお目目の子ウサギポーズとやらも、目は乾き気味で充血しているうえに、上目遣いにすると所謂白目を向いてしまう恐ろしい有様です。
おまけに、お胸はさらに豊かになりましたが、脂肪という物は一所に収まらないものですから、後はねえ、お判りでしょう?
人から避けられるようになりました。もちろん王子たちもですよ。
あらまあ、思いもしない効果にびっくりです。流石先輩たちですわね。
それから王子たちですが、祝福により衆目を集めるようになったので言動や不都合の誤魔化しが露見しました。
婚約者への態度も含めた素行不良が問題とされ、婚約解消と王太子内定取り消しになったのです。
今は再教育の真っ最中です。両陛下に送った夢も効果があったみたいですわね。
後は、彼女に送った祝福が良縁を運んできてくれるのを願うだけです。わたくしたちのできることはここまでですから。
彼女なら、きっと大丈夫ですわね。
さて、ここで少しばかり裏事情をお聞かせしますね。
わたくしたち天使は、女神様のお創りになられたこの世界の維持管理を任されていますが、それぞれの誓約に関わる事案にのみ介入が許されています。
わたくしが天使となった誓約は「罪なき乙女を救う」というものです。理由は先にお話ししましたわね。
そしてソレイユ様の誓約は「家族の中で虐げられる者を救う」です。
カレン様はソレイユ様と同じころに天使になった方で「悪縁から解放する」という誓約をお持ちです。
今回お二人がわたくしのお仕事をお手伝いして下さったのは、彼女が家庭内で冷遇されていること。そして実妹がヒロイン役で彼らの間に因縁あるからでした。
そして思いがけない事実も明らかになりましたの。
なんとあの妹は私の前世の不幸の原因になった女性の魂が生まれ変わった人間だったのです。わたくしも驚きましたわ。
あの王家は本当に呪いとまでは行かずとも狙われていたのですね。
前回は何かあって王妃になれず、バッドエンド?だったのでリベンジしようと思ったのでしょうか。すごい執念ですわね。
同じ人と結ばれたいという理由ならわかる気がしますが、そうではなく生まれ変わってまで王妃の地位に固執するなんて…… 。
わたくし馬鹿馬鹿しくなってしまって、恨む気持ちも消えてしまいましたわ。
手に取った好きなお菓子を奪われたからといって、何時までも怒っていられないでしょう? 相手が道理も解らない幼子のような人なのですから。
そんな心境なのです。
わたくし自身が手を下したわけではありませんが、図らずも今回ばかりはざまぁしたことになるのでしょうか。
辛かった日々の記憶はまだ残っていますが、一つ余計なものを整理できた気がします。
あの魂も今世で別の幸せを見つけて地位への妄執が浄化されるといいのですけれど。
それより気がかりなのが、先輩たちがわたくしを「ざまぁちゃん」と呼ぶようになったことです。イヤですわ。やめてくださいまし。
早急に、名前を頂かなくては! 女神様、何処にいらっしゃいますか?
どうか、わたくしに素敵な名前を下さいませ。
目標まであと一話! 忘れた頃にまた投稿すると思います。
読んで下さって有り難うございました。