1.
わたくしが雲の上から下界を見下ろしていると、いましたわ。悲しみに震えている乙女が!
早速現場に急行いたします。
あ、わたくしの姿は人の目には写りませんのよ。 ですからこっそりと助力するのです。
天使が大っぴらに動くことで、女神様は依怙贔屓だなんて思われた困りますもの。 あくまでもわたくし個人の介入なのです。
「全くしょうがないなマリアは」
「えへへ、だって難しいんだもの」
「何度でも教えてあげますよ。この辺りはややこしいですからね」
「ありがとう、オリヴァー」
「ホラ、一息入れろよ。頭使うと甘いもんが欲しくなるだろ?」
「わぁ、これ最近売り出したスイーツだよね。ワザワザ買ってきてくれたの?
うれしー。優しいのね。大好き」
「オイ、抜け駆けだぞ」 「そんなの知らないよ」
「もう、ケンカしないで一緒に食べようよ」
一人の少女を囲んで数人の殿方が騒いでいるようです。
学校のテラスでしょうか。テーブルがいくつか並んでいます。
カフェスペースも兼ねているのか、離れたところでお茶飲んでいる令嬢たちもいますわね。
彼女たちの方を見て眉をひそめています。
「なんでしょう、あんな大声をあげて、はしたない」
「それに殿方に近づきすぎですわ。あのように体を寄せて。
小さい子供でもないでしょうに」
「あら、子供ならよろしいけれど。まるで話に聞く闇夜の賢夫人のお作法みたいではありませんの」
「まあ、ミレーヌ様、淑女がそのような名前を口にしてはいけませんわ」
「ごめんあそばせ。だって我が家は四人も兄弟がいるのですもの。つい聞こえてしまうのです」
「殿方の特別講師ですわね。 内緒ですけど、わたくしたちも嫁ぐ前には御世話になるそうですわ。お姉様がおっしゃてました」
「まあ、そうですの」 「存じませんでしたわ」
「それより、あの方をこのままにして置いてよろしいのですか。庶民でもの知らずにしても少々目に余るのではありません? 」
「そうね、お相手のいる殿方もいらしゃるわね。エメリア様に申し上げて、一言おしゃっていただかなくては」
声を潜めて話しています。よくある場面ですね。
どうやら、ここでの悪役令嬢役は貴族としてのプライドが高い完璧な淑女で、王子の婚約者の公爵令嬢のようです。 乙女ゲームやラノベなら定番ですわね。
そして対するヒロインは庶民の特待生で、明るく元気で恋を夢見る少女。
差別によるいじめにも負けず健気に頑張る姿に、王子はもちろん側近達、しだいに周囲の人達にも認められていく。
そんなゲームのような流れが進んでいるようですけれど、わたくしは気に入りませんわ。
いいえ、同じ悪役令嬢だったから肩入れしているのではありません。
確かに彼女と私は似ているかもしれませんね。
彼女は真っ当な忠告しかしていませんし苛めには無関係です。
そして何より婚約者の王子を心から慕い、彼を支えるべく努力を重ねています。
彼女に比べればわたくしの彼の方への想いなど親愛の情に過ぎませんでした。今なら分かります。
それに対するヒロインの少女は、愛さえあれば何でも許されると信じているのでしょうね。 忠告を無視して自分のしたいことを優先し非難されても反省せずに、むしろ殿方に嘆いて見せて同情を買っています。
つまり、無自覚な玉の輿狙いの脳内お花畑タイプのヒロインです。
自分の欲望に忠実なだけで、悪意はないのがせめてもの幸いでしょうか。
一人なら兎も角、何人も侍らせて「身分の高い素敵な殿方とラブラブな私」とか思っている、おめでたいというか周囲がハタ迷惑な娘ですね。
何より困るのは、この脳内花畑はミントテロのように増殖するのです。
王子をはじめ次代を担う若者が、あんな恋愛脳になってしまったら国はおしまいですよ。
ゲームや小説ではエンディング後の事は語られていませんが現実だったら恐ろしい話です。
なんとしても防がなくてはなりません。
そこでわたくしの出番ですわ。
要するにこの娘は無知で自分の立場が分かっていないのです。だったら学ばせればよいのです。
まずわたくしは、学園の教師たちのヒロインに対する好感度を上げました。
えっ、妨害になっていない? わたくしは愛の天使ですのよ、正義の天使や、審判の天使と違って祝福することしかできないのです。
その結果、
「次の問いは君に答えてもらおうか? 」
「ええっ、ハイそれは…… 」
授業中によく当てられるようになり勉強に手を抜けなくなりました。元から特待生ですから頭自体は悪くないのです。 遊びまわって勉強をサボらなければ…… 。
「丁度良かった。昼休みに少し手伝いをしてくれないか? 」
「ええと、ハイ…… 」
休み時間に教師に頼まれごとをされて、特待生なので断れず、他のクラスまで会いに行く事が少なくなりましたわ。
「あなたのマナーはなってないわね。特別に補習してあげるから放課後残りなさい」
「あの、でも私…… 」
「庶民と言えどもこの学園の生徒、最低限のものは身につけなくてはね」
「はぁ…… 」
「そうそう、ダンスのハリエット先生も、あなたの事を気にしてたから三日に一度はダンスの補習をしてもらいましょうかね」
放課後が先生方のご好意による補習でつぶれてしまいました。
そして、
「なんだ君、今日も補習があるのかい。それじゃあカフェには行けないな」
「評判の新作スイーツを、あなたにも食べさせたかったのですが…… 」
「補習ならしょうがないね。あきらめるか」
「残念だが次の機会にするとしよう」
「おう、また今度な」
殿方とキャッキャウフフする時間が取れなくなりました。 流石に彼らも補習の邪魔はできませんからね。
週末はといえば、
「きゃあ、うそ。今何時なの。もう夕方じゃない。どうしよう約束すっぽかしちゃった。 うぇーん、私のバカ、バカ。何で寝坊なんかしちゃたの?
久しぶりの休日デートだったのにィ」
日頃の疲れが取れる様に安眠の祝福を与えておいたので、ヒロインは夕方近くまで目が覚めませんでした。
あら、意地悪じゃないですよ。 きっと学業でお疲れなのです。うふふ。
安眠と言えば、わたくし夢の祝福も送りました。
殿方とその婚約者たちには、仲睦まじく過ごしている少し未来の夢を見せました。 意外とロマンチストが多いですからね、お互いを意識し合うようになり雰囲気が良くなりましたのよ。
そしてヒロインには厳しい王妃教育を受けている夢や、貴族夫人となってパーティで嘲笑されたり、嫁いびりをされている夢を毎晩みてもらったのです。
悪夢は祝福じゃない? いいえ、起こりうる不幸を避けるために予知夢を見せるのは立派な祝福です。
二月過ぎるころには、ヒロインも彼らに近づかなくなりました。 貴族に対するマナーが身についたのか、夢による睡眠学習で自分の立場を理解したのか、目に余る行動は無くなりました。
周りにいた殿方の興味も移ったというか元に戻ったようですし、騒動の芽は無事に取り除けたようです。 喜ばしい事ですわ。
何より、悪役令嬢役の彼女が婚約破棄などされずに、お相手に寄り添って幸せそうに笑っているのを見て、自分の事のように嬉しかったのです。
そしてヒロインも、優秀な成績と身についたマナーで卒業後は王宮に職を得る事になりました。
もしかしたら、そこで出会いがあるかもしれません。
例え貴族に嫁入りするにしても、以前のように殿方をたぶらかして妻となるよりは、よほど真っ当な結婚生活が送れると思います。
わたくし、良い仕事をしたのではないかしら、ねえ、そう思いませんか?
ちなみに、天使仲間から「婚約破棄等防止及び、ざまぁ根絶係」略して「ざまぁ天使」と呼ばれるようになったのですけど、ちょっとイヤですわ。
気に入らないので改名を申請中です。
読んで下さってありがとうございます。 次回は書けたらなので未定です。




