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見せ物

 勇者。

 ハルコン王国でもっとも風変わりな存在のひとりである。

 勇者は勇者である。

 事故や老衰で亡くなると、その翌日に生まれた子に魂が移転する。せわしない話である。だから、通夜など後回し。国中、総出で転生者探しに奔走する。

 ――輪廻転生し続ける。元いた世界で聖人の生まれ変わりを自称する新興宗教の教祖が捜査員に取り押さえられる映像を見ると、深い業が災いして解脱できなかったのだと得心する十握は、じぶんの内面と対話など気持ち悪くてできるかと座禅や瞑想を一蹴する恥の多い生涯を送ってきた男である。

 おそらく、勇者は地蔵菩薩のような慈愛で解脱を拒んでいるのであろう。罰ゲームではないが、横着な神に押しつけられたという可能性もあるが……。

 ただ、十握と異なり、転生にあたって前世の記憶は失われるらしい。

 細かいことが気になる性分の十握としては、尻の穴を排泄専門と信じて疑わない幼児期や、小便にえらい時間がかかる老年期に未曾有の危機があったらどう対処するのか気にかかるが、なんらかの紳士協定があるのかもしれない。

 王の直臣である。

 太平の世にあっては、グロッグのいう金のかかるチンドン屋が正鵠を射っていた。裕福な領土を巡って歓待を受ける。つまり、領主に余計な出費を強いる。元いた世界の足利義教や織田信長が臣下を訪問したように――は、大袈裟か――さしずめ日光例幣使が大名にたかるくらいか。ライバルの芽を摘む方策のひとつである。つかず離れずスパイも同行する。その理屈からするとラウドに寄る必要性はないのだが、そこはハルコン王国一の商都、どさ回りの疲れを雅な文化で癒したいのだ。

 序列は男爵から侯爵に相当する。幅があるのは出自による。いくら勇者とはいえ、封建社会の枷はある。どこの馬の骨ともわからぬ平民ばらと下から数えたほうが早かろうと貴族では儀礼で差をつけるのが貴人の嗜みである。

 そして、王の直臣であるが、養育はスク養成学校が受け持つ。

 貴族の臣下を一人前の戦士に鍛える育成機関がスクである。腕に覚えのある一匹狼も所属する。太平の世だが、人の行いに争いは絶えない。たいがいが暗殺にとどまるが、稀に戦争に発展することがある。コップのなかの戦争である。平和にあぐらをかいた惰弱な家臣では物の役にたたず、スクに依頼することになる。元いた世界の傭兵学校や民間軍事会社に近い。

 ハルコン王国以前の慣習である。

 わかっているだけで五百年の重みがあると覆すのは骨が折れる。

 スクに任せるあたり、知恵ある者がいたようだ。

 思想信条と無縁の実務的な組織で幸いである。

 もし、これがかつらを被って歓楽街にいり浸る売僧あたりに任せていたら、勇者の権威をいいことに好き勝手やって、王をも凌ぐ力で人々に塗炭の苦しみを強いたに違いない。元いた世界でも、約十一年の長きにわたる応仁の乱で武家勢力が疲弊するなか、勢力を伸ばした宗教勢力は神人や僧兵を使って蝋燭や紙のパテント料を払えと恫喝したり、敵対組織を焼き討ちしたり、勝手に設置した関所で関銭を徴収したりと、さながら武闘派ヤクザのような振る舞いで人々の心胆を寒からしめていた。


 裂帛の気合いが室内に木霊こだまする。

 試合である。

 実戦を想定している。だから、木剣ぼっけんのぶつかる音は少なかった。

 本物の剣と見たてればそうなる。

 安易にキンキンキンと斬り結んでいたらすぐに刃こぼれする。剣が歪む。最悪は折れる。魔法の補強は限度がある。実戦で一対一は稀である。乱戦のさなか、武器を失えば命が危うい。敵の武器を拾えばいいという発想は間違ってないが、すぐ手の届く範囲にあるとは限らない。剣の損傷を最小限に効率よく敵を切り伏せる技術が求められる。

 ニキビ面の放った突きは巻きあげられた。

 無防備となった顔面に木剣が迫る。

 寸止めである。

 ニキビ面は顔面蒼白だ。木剣とはいえ、まともに喰らっていたら、昨晩、ベッドを共にした女性でもそうとわからぬ容貌に堕ちていたであろう。

「そこまで」

 審判役の師範代にいわれて、のっぺりとした顔の男が一礼する。

 次の試合が始まる。

「まさか、トリを十握さんにもってかれるとはおもいませんでした」

 もうひとりの師範代であるピラトが試合の妨げになってはならないと御簾ごしに観戦している十握に声をかける。

「それについてはもうしわけないとしか」

「お気になさらずに」

 ピラトがカラカラと笑う。

「第一道場との試合は今に始まったことではないので」

 第一道場と第三道場の因縁は根深い。

 第一道場は戦士や騎士など純粋に武の高みを目指す者が入門するのに対して、第三道場は護身や体力増強を求める魔法職が多い。

 技量のレベルは明白である

 必然的に第一道場の門下生は第三道場を下に見ることになる。

 だが、その優越感を打ち砕くものがある。

 生活レベルである。

 トップこそ高ランク冒険者を輩出した第一道場にぶがあるが、平均と中央値は第三道場に大きく水を開けられている。

 魔法は潰しが利く。

 女子どもの――こう、書くと時世的に怒られそうだがウーマンリブなどしったこっちゃない封建社会ということで――棒切れ遊びと軽侮する対象がソムリエの勧めるままに酒を注文する。かたや、じぶんたちはギルドで舐めるように安酒を飲っているのだ。鬱屈がおりのように溜まる。溜まりに溜まった不満が間欠泉のように噴出する。

 試合はガス抜きである。

 双方の経営陣は住みわけができているので遺恨はない。刃傷沙汰を防ぐための工夫である。第一道場の道場生にとって、憎っくき青瓢箪を叩くと同時に顔を売るまたとない機会になっていた。

「失礼なことを訊きますが――試合になるのですか?」

 試合は身体能力の強化などの補助を除いて魔法は禁止されている。

 第一道場に出向いたことがないのでなんともいいがたいが、眼前で繰り広げられている試合を見ると疑念が湧く。

「なんとかなるんじゃないですか」

 もし、この場に第一道場の者がいたら生徒が生徒なら指導者も指導者だと軽薄な口調に冷笑を浮かべたことであろう。

「総力戦ならいかんともしがたいですが、選抜ですからね。それなりに見せ場は作れるとおもいますよ」

「ならいいのですが」

「ま、見せ場なんかあろうとなかろうと観客は気にもしないでしょうが」

 しょせんは前座ですからね、とピラトは身も蓋もないことをいってのける。

「ただ、今回はいやに不満が溜まるのが早かったような」

「重ねてもうしわけないとしか」

 女性向けのヨガ教室は予想されるトラブルの多さに断念した。かといって、なにもしないのも業腹であると――屋形船の建造や先の豆乳の一件で散財している――貴族や裕福な商人の病気ではないが虚弱体質の子の健康増進を目的の教室を開いた。目が飛びでるような束脩ではない。一般道場生よりいくらか高いていどなので庶民でも通える。ただ、封建社会は初物は上流階級を先にしておかないと彼らがヘソを曲げる。元気になった子の姿を見て感涙にむせぶ親が十握に謝礼を払おうとして断られ、それならばと道場に寄進する。道具は最上の物に新調されて、福利厚生と置き薬が配置される。時折、弁当の差しいれがある。十握に配慮してカジノが利用する仕出し屋だ。祝いの席には上等な酒がつく。ますます広がる格差に試合が前倒しになったのは想像にかたくなかった。

ファンタジーらしいのと軽い気持ちで勇者をだしてみたはいいものの、いかんせん、どう扱っていいかわからない。

呻吟した結果、輪廻転生に落ち着きました。

もし、勇者が由緒正しい血筋だった場合、見切り発車で書いたお供のジョーが不釣り合いになってきますが、平民出身ならありえるかなと。選抜方式は少年という設定が足かせになります。いくらファンタジーの世界でも、大事な勇者を決める試験ともなれば年齢制限はあるでしょう。

序列は年齢によっても変わるとおもいます。成長して知恵と礼法を身につけた勇者を影で平民ばらと嘲笑うのはともかく、面と向かって冷遇は怖いですからね

感想とブックマークよろしくお願いします。

この後書きのコメントでもいいですよ。 「ゆるキャン△2」を観ながら。



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