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下馬評

 上質な紙のように白い繊手が緋に染まる。

「兄ちゃんにも意外な欠点があったんだな」

 火鉢の前を占拠して微動だにしない十握にバッカスが苦笑する。

「もっと温かくすることはできませんか?」

「おいおい、冒険者がそんな情けないざまでどうする」

「その冒険者が問題なんですよ」

 歓楽街は見栄で厚着を嫌う――体力を誇示すると前に書いたが見栄を張るのは冒険者も同じである。動きやすさが生存率に直結する稼業なので厚着を厭う傾向はより強いものがあった。

「禁止されていないことで文句いわれるのは心外ですよ」

「教会の窓を叩いてクソ神父の前で愛を誓うふたりの仲を裂くなとでもクレアにいわれたか?」

 バッカスの嘲弄に十握は憮然と、

「そんな手間のかかることはしません。ウィンクひとつですむことです」

「兄ちゃんがいうと冗談に聞こえないな」

「舐められるから着ぶくれはやめてくれ、と。で、構いませんよ、絡んできた低脳を倒れるまで殴って起きあがるまで蹴ればすむ話ですというと、今度はギルド長に懇願される始末で」

「ほう、喧嘩をとめるたあ、元は荒くれ冒険者も年食って丸くなったってことか」

「おれがぶん殴りたいのをずっと我慢してきた連中を、出会って三秒で殺られたら立つ瀬がないと」

「三つ子の魂百までってやつだな」

「うれしそうですね」

「二階あがりのホワイトカラーと一階の気質が色濃く残っているギルド長、どちらがいざって時に頼りになるとおもう?」

「叩き上げですね」

「上等な靴が災いして雨の日にすっ転ぶマヌケがソファーにふんぞりかえって指示したところで人は体を張らんよ」

 バッカスはわが意を得たりと満足げだ。

「――バッカスさんも元は冒険者ですか?」

「さてな。いえることは最初っから武具屋じゃねえってことだけだ」

 しみじみとつぶやくとバッカスは遠い目をする。

「興味がわいてきましたね」

「よせやい。色男にいわれると尻がむず痒くなる」

 十握は息を吐いた。

「仲よしこよし、みんなでお手々を繋いで徒競走をゴールしましょうっていうおためごかしでしたら無視するところですが、寝つきが悪くなるといわれると他人事とおもえなくて――」

 奇しくもギルド長は十握の不眠症を突いた形となった。

「で、ブラ裂きジャックの進展は?」

「それなのですがね」

 白皙の美貌に翳りが生じた。

「かんばしくないと?」

「ええ」

 雲を掴むような話である。目撃者がいないのだ。ゼロと一のデバ亀はまだ時期尚早である。絞れないから容疑者は文字通り五万といる。剣と魔法のファンタジー世界である。こちらの世界のことわざに「歩いて間に合わなければ飛べばいい」というのがある。飛ぶは極端にしても――飛行魔法の使い手は絶滅危惧種である――論理的思考を嘲笑う横紙破りはいくらもある。

 未知の魔法や神の恩寵(特殊スキル)の可能性もありえる。催眠術か洗脳かは定かではないが、なんらかの方法でみずからブラを裂くように仕向け、そのことに被害者が気づいていない場合だってあるのだ。そして、面倒なことは、希少な能力を持つ者は総じて爪を隠す傾向にある。

「噂はどうなってますか?」

「おお、無責任に盛りあがってるぜ」

 バッカスが白い歯を見せる。

「犯行動機はパットでかさましした胸に騙されたってのがおおかたの一致するところだが、そこから先はさまざまだ。ま、女の見てくれに騙されて落胆する経験は誰しもが通る道だしな」

「ですね」

 十握は頷く。

 蛍光色の法被を着た男が見せる写真につられて階段をおりたら、そこは人三化七の国であった。しかも、持ちかけられた金額の十倍ぽっきりを要求されて強面を脇侍にATMに向かうは元いた世界のベタな悲喜劇である。

「で、人物像は百花繚乱だ。こんな大それたことができるのはやんごとなきかたでお付きの連中がうまくもみけしてるからだ、いや、やっぱり貧乏人で食費を浮かせて捻出したなけなしの金を無駄にした悲しみと憤りに才能が開花しただの、こんだけ大騒ぎになってるのに見つからねえってことはよそ者で――莫迦は日頃の行いの悪さですぐに疑われるからな――船員あたりが寄港した時にしてるんじゃないかとか……どれも一理あるが決め手に欠ける。さすがに、腕のたつ暗殺者やスパイって説は荒唐無稽だがな。連中はプロだ。金にならんことで目立つことはすまい」

「――前途多難ということですか」

「挑戦し甲斐があるってことさ」

「元気の押し売り、ありがとうございます」

「これからどうする?」

「地道にやるだけです。被害者に事情を訊いてなにか得られればそれでよし、ないなら蛇がでることを願ってあちこち藪を突きます」

「一分一秒を争うことでもないしな」

 そういうとバッカスは窓に目をやる。

「だから、あいつらをからかってるんだろ?」

 少し離れた建物の影からふたり組がこちらの様子を窺っている。悪疫に罹患したみたいに震えている。今なら誰よりも器用にシェーカーが振れそうだ。街の住民が寒さをものともしないのは活発に動いているからであって、じっとしていれば底冷えするのが道理だ。ましてや、日陰である。

「同じ苦しみをわかちあおうって、か?」

「少しだけ借りがあるので、喉元すぎるまで大目に見るつもりです」

「おやさしいことで」

「風邪を甘く見ると命とりになりますよ」

 そういうと十握は裏口に向かった。

遅くなりました。

やっぱり、ダジャレ発進のおもいつきはよくないですね。どうすれば話がまとまるのかストーリーが浮かばなくて難渋してます。

やとがめちゃん観察日記3期を観ながら。

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