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冒険嫌いの冒険者

 ギルドに着いた。

 街の中心地にある。

 元は違ったがギルドの恩恵を得ようと商人が近くで店を開いた結果である。

 巨大な建物であった。三階建てである。平屋が多いこちらの世界では高層階の部類にはいる。

 銀行の本店のような威圧感があった。

 一階は酒場と併用でまだ陽が落ちる前だというのに人でごったがえしていてかまびすしい。

 なぜ、窓口と酒場が併用なのか? 昔は酒場で仕事を斡旋した名残にしてもこれだけの巨大組織になったのならわけてしかるべきではという素朴な疑問は簡単に解けた。百聞は一見にしかずである。酒の値段がかなり低く抑えてある。福利厚生の名のもとに力持ちの酒乱という厄種を隔離している。

 十握の登場で喧騒はやんでいる。

 唾を飲みこむ音も躊躇われる静けさである。

 ある者は酒をじぶんの膝にかけ続け、好色漢の冒険者に尻を撫でられたウエイトレスはその不埒な手をへし折るのを忘れ、取っ組みあいの喧嘩をしていたふたりはまるでカップルのようにくっついて十握に見蕩れている。

 意外と女性冒険者が多かった。

 こちらの世界の男女の体力差はそれほど大きなものではないのかもしれない。

 登録は二階なので階段をあがる。

 カミーラの手引きで登録をする。

 担当の男は腰が低かった。

 だが、柔和な笑みを浮かべる相貌に反して目の奥は峻烈な光を湛えている。

 十握は元いた世界の、親しげな口調で傷口に塩をすりこんでくる交通課を想起した。

 警戒している。場所柄、好ましくない者と対峙することが多いのであろう。

 初対面の、腕っぷしだけが取り柄の者など警戒してしたりないということはない。

 だが、心は身構えていようと体は正直だ。頬はうっすらと上気していた。

 手続きは簡単であった。書類に名前を記入して血判をして銅貨十枚を払う、それだけである。視力検査もない。自動車免許の更新よりあっさりしている。実力は課題をこなして証明しろという方針のようだ。ファンタジーものの定番の鏡だとか水晶で能力をはかるギミックがあったら、異様な数値がでて目立つのを危惧していた十握は安堵に胸を撫でおろした。

 十分少々で冒険者の身分証――ステータスプレートを受けとると一階へもどって拿捕した盗賊の幹部の懸賞金を受けとる手続きをする。

 金貨十枚――百万相当というから破格である。ジュネーブ条約も基本的人権も関係ない世界で人命は安い。それでこの値である。悪名を轟かせていたようだ。

 こちらは時間がかかった。

 金を払う時はスムーズで受けとる時は手間がかかるのはどこの世界も共通している。

「助かりました」

 十握はカミーラに礼をいう。

 カミーラの口利きで冒険者の主だった面々と顔あわせができた。

 これで無用なトラブルを回避できる。

 荒くれどもの巣窟である。

「活きのいい魚がやってきたぜ。おい、坊や、今夜は寝かせねえぜ」

 とか、

「さあこい、さあこい、やってこい」

 とか、

「新参舞をしんしゃいな」

 とテーブルをスプーンで叩いて難癖をつけてくる輩をちぎっては投げ、ちぎっては投げをくり返して修羅の道を邁進するものだと覚悟していた十握はクライムものと時代活劇のファンである。

「この後の予定は?」

 カミーラがもじもじしながら訊く。お食事でもという言葉は消えいりそうであった。

「申し出はありがたいのですが、あいにくと先約がありまして。武具屋の主人――バッカスさんでしたか、そのかたの紹介でパン屋のエイリアさんと会うことになっています」

 落胆、嫉妬、羨望、納得、複雑な感情のないまざった深いため息が建物を席巻した。




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