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街の雑談 武具屋のバッカス編

 ほう、坊やは十握の兄ちゃんと縁があるのか。で、兄ちゃんのお膳だてでカミーラの指導をうけていると。ほほう、面倒くさがり屋の兄ちゃんらしくないな。さぞ、優秀なんだろう。はは、そう謙遜するなって。兄ちゃんはじぶんでいうほど非情じゃないが、打っても響かん相手は早々に手を引く口だ。今はともかく、将来性は見こまれてるんだろうよ。こりゃ、うちとしてもサービスせんといかんわな。

 改めて紹介するとおれの名はバッカスだ。スリーサイズと年齢は秘密ということで。よく疑われるがスキンヘッドにしてるのは散髪代の節約でハゲてきたわけじゃないから誤解しないでくれ。それと、結婚してるから姉を勧めるとかはなしだ。見ての通り、武具屋だ。武器ならなんでもござれ。他に冒険にまつわる小道具も扱ってるが、これはあると便利、なくても困らん品だから坊やには今のところは不要だろう。

 で、なにをお求めかい?

 剣が痛んだから替えがほしい、と。そうだな、坊やの身長から考えるとちょいと短めのほうが使い勝手がよさそうだからこの辺にあるのがいいだろう。

 予算は? おいおい、大金だな。なになに、魔法の触媒になるのがいい? 坊やは魔法が使えるのか。兄ちゃんが目をかけるわけだ。――これなんかどうだい? 予算オーバーは気にするな。たりないぶんはツケだ。坊やならすぐに払えるさ。ダメだったら兄ちゃんの針の代金に上乗せすりゃいいしな。

 とりあえず手にとって試してみろっていいたいところだが……そいつは後回しだ。妙に気負ったのが店先でうろちょろしてる。ほら、そこの窓から見える――そうそう、ニキビ面だ。娼館をうろついてる野郎みたいに顔が茹だってやがる。ようやくここにくる決心がついたようだ。一応、カウンターの裏に隠れてろ。はは、気持ちはうれしいが客の手を煩わせるわけにはいかねえよ。ほら、急いだ、急いだ。

 いらっしゃい、どんなものをお求めですか?

 いきなり剣を突きだしてきやがった。さては差別主義者だな、あんた。

 ん、なにいってる?

 状況が状況だから興奮するなとはいわねえが、少しは落ち着いてしゃべろや。先週、三件隣の薬屋に押しこんだ目出し帽のほうがよっぽど聞きとりやすかったぜ。

 ああ、金をよこせ、ね。

 場所を間違えてるぜ。金がほしいなら大店かギルドを狙うといい。なに、あっちは腕のたつ奴がいておっかない。それで、コツコツ稼ぐことにした、だ? 悪党の癖に堅実なこといいやがる。

 しょうがねえ。ほらよ。

 あいにく、うちは儲かってねえから、物納で勘弁してくれ。

 ギャースカ騒ぐな。こちとら、昨日の酒が残ってるんだ。

 おっと、その胸のナイフは抜くな。親の形見なみに後生大事に抱えてろ。太い血管を傷つけている。抜いたら出血して即死だ。おまえも悪党の端くれなら使い勝手のいい医者のひとりやふたり、知ってるだろう。そこで抜いてもらうんだな。

 ほら、行った。

 あ、転びやがった。ふー、危ねえ。店先で血の海は困る。

 もう、でてきていいぞ。

 まったく、季節の変わり目はそそっかしい野郎が湧いて困るぜ。

 うちは武具屋だぜ。冒険者や用心棒などの荒くれ野郎どもと丁々発止のやりとりをするおれが、昨日今日、尻の穴が排泄以外にも使い道があるとしったガキなんぞに後れをとるかくらい考えればすぐにわかりそうなものを。

 ま、チンピラ相手に腹たてても腹が減るだけだからこのくらいにしとくか。

 さて、本題にもどるか。

 その剣を振ってみてくれ。

 ほう、さまになってるな。すぐに手に馴染むようになるだろう。

 研ぎはじぶんでできるか?

 そりゃいい。兄ちゃんと違って坊やは優秀だ。

 ま、なんかあったら気がねなくうちに寄ってくれ。おれが退屈してる時は煮つまったコーヒーの一杯もサービスするからさ。――もっとも、ちょいと足を伸ばして兄ちゃんを訪ねて、器量よしの姉ちゃんふたりに囲まれてはねだしのスコーンと紅茶で優雅なひと時をすごすほうが有意義かもしれんが。

 おいおい、無理しておべっか使わなくてもいいぜ。

 ――あっちは緊張する?

 なるほど、それは一理ある。おれは人に安心感を与える顔だってよくいわれるからな。

 そうそう、坊やもそのうちダンジョンや警護の任をして武器を拾うことがあるだろう。売る売らないに関係なく、一応、うちに持ってこい。

 慣れるまではおれが鑑定したほうが安全だろう。

 たまに経験の浅い――耐性のない冒険者が引っかかるんだ。

 特に手にした時に妙な違和感があった時は注意したほうがいい。

 武器ってのは作り手や使い手の魂みたいなもんが宿ることが稀にあるのさ。

 呪いっていうほど大仰なもんじゃねえ。

 熟練はなんともないからな。未熟な者が感化されるのさ。

 これから話す例はおれの地元であったことだ。

 おれの故郷はラウドと較べるのはおこがましいが、それなりに開けた街だった。冒険者もわんさかいた。近くに物騒な森があったし、野盗が街道沿いに出没したんでな。馬車で移動中、用をたしたくてはいった草むらで見つけたんだから持ち主は野盗に殺られたんだろう。新入りが剣を拾ったのさ。小便ぶっかけるところを慌ててやめたっていうからつけねあたりに痛みがあったかもしれねえな。

 かなりの値うちものだったらしいぜ。当然、じぶんのもんにする。

 部屋にもどってためすつがめつしてたら暖炉にあたった時みたいに頭がぼーっとしてきて、気づいたらしらない家の前にいたらしい。

 察しのいい坊やのことだからわかってるとおもうが、そこは剣の持ち主の家だ。その新入りは察しが悪いからそういうことに気づかずにおろおろしてると――わからなきゃ、夢遊病かと焦るわな――子どもの泣き声が聞こえる。それも、尋常じゃない。衝動的に飛びこんだら女の子が泣いてやがる。剣の持ち主の妻は男とくっついてたのさ。ま、それ自体はとやかくいうことじゃねえ。死人に義理だてしたところで金になるわけでも、突っこんでもらえるわけでもねえしな。

 だが、その男が娘を折檻してるとなると問題だ。

 青あざができてるってのに、妻は薄ら笑い浮かべて静観してやがる。

 クズがじぶんのできの悪さを棚にあげてうさ晴らしに年端のいかない少女をいたぶるのを惚れた男の喜ぶ顔見たさに妻は黙認――じゃねえな、いっしょになって罵ってやがったんだ。

 ひどい話だ。

 坊やがその場にいあわせたらどうする?

 肋骨の十本もへし折るときたか。兄ちゃんの薫陶をうけて情熱的だ。

 普通はそこらで手を打つわな。

 ふたりぶんの怒りで頭に血がのぼってる新入りは妻の首を一刀で斬り落とすと返す刀で男の鼻を削いで、それから利き手を斬って放置した。男はあっさり死なせるより生かしたほうが苦しみが勝ると判断したんだろう。スケコマシが唯一の武器の面を失ったら貧窮はオリハルコンより硬い。

 で、われにかえった新入りは泡食って逃げた。

 クズを殺って死刑は割にあわない。強制労働だって嫌だ。

 金があればうまくたちまわれるんだろうが、あいにく、明日の昼食代にも困る新入りだ。裏から手をまわしてくれる権力者の友人なんかいっこねえ。

 魔が差したといえばその通りなんだが、剣に唆されたなんていったところで誰も聞き耳を持っちゃくれまい。おれだって、女房以外の者がいってるのならしらじらしいと鼻で笑ってる。

 ――これらのことは後でわかったことだ。

 どこにでも好事家はいる。猟奇事件が三度の飯より好物だって野郎が凄腕の魔術師を連れて降霊術だか残留思念を読みとったか、なんかしてつまびらかにしたことだ。

 あの時に捕まってたら十三階段のぼってたはずだ。

 あそこの役人は日頃は怠慢のくせに、悪人に金を使うのはもったいないとおざなりの裁判でさっさと死刑にして浮いた金で酒を飲むのが習い性になってやがるからな。

 だから、坊やも気をつけろ。――ま、坊やの場合はその新入りと違って面倒見のいい兄ちゃんがいるからなんとかなるかもしれないが、なんとかなったにしろ、人相の悪い連中と狭い部屋で雑魚寝はしないにこしたことがない経験だ。

 ――ん、女の子はどうなった?

 それが妙な話でな。新入りといっしょに逃げたのさ。救ってくれたとはいえ、母親を殺った野郎だぜ。孤児院や遠縁に預けられるのを嫌ったにしろ――変態野郎に売り飛ばされたり人体実験に使われるってのはままある話だ――普通はついてかんだろう。剣にこめられた魂が宿っていたからかもしれないな。父親が新入りの体を借りて助けにきたとおもえば頷ける。

 今ごろはどうしてるんだろうな。

 吹きだまるならってことで都市に行ったとおもうが――少女と七歳違うだけの若造がふたりぶんの金を稼ぐのはさぞ難儀したことだろう。だが、父親の加護つきの上等な剣が味方してるんだ。ガキだと甘く見て上前をはねようとした羽虫どもに悩まされることはなかっただろうぜ。

 ――見てきたような科白だって?

 おいおい、そいつは下衆の勘ぐりってもんだ。おれはしゃべりがうまいのさ。どこぞの神にえこひいきされまくった色男みたいに面にかまけて無口で通すってわけにもいかなくてな。

 おれも勝手に女が群がってくる気分ってのを一度は味わってみたいもんだ。――おっと、こんなこと聞かれたら女房にぶん殴られる。

 これでも昔は顔のよさとしゃべりで吟遊詩人を志したこともある。今度、暇な時に一曲披露するよ。その時に女房がいたらうまいコーヒーつきだ。ただし、若くてきれいだからっておだてるのはよしとくれ。調子にのられて結婚のなれそめを披露されたらかなわん。なるべくなら秘密にしておきたい話ってのもあるのさ。坊やも年とったらわかる。若気のいたりってのは背伸びして買った礼服についた油汚れみたいになかなか厄介なもんだぜ。

 

 

 


ちょっとした箸休め回です。

よくありがちな、別人の視点で同じことをなぞるのは性に合わないので――新鮮味がなく、ただのページ稼ぎにしかおもえないので、このような形式をとらせていただきました。

次回はどんな話にしましょう? 近頃は減ってきてるので、またぞろ、十握に赤面してもらうのもいいかもしれません。

追伸 一応、野暮を承知で補足すると――聡明なみなさんのことですからなにをいわんやでしょうが――聞き役はポウルです。

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