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対面

「パーティーメンバーは慎重に選ぶべきです」

 十握は瓦礫をまたいだ。

「命を預ける相手の素行が悪いと連座でとばっちりをうけることになりかねない」

 事実、ポウルが逃げろといわなかったら見捨てていた。

 ポウルは舞いあがる埃に咳きこみながら、

「同じ村の出身なんです。ぼくは冒険者に興味はなかったのですが、ショボい魔法でも使えるなら役にたつだろうって強引に……」

 さもありなん。

 猿山の大将が都会でも優越感を保ちたくて手下を引きつれてきたということか。

「冒険者は引退ですか?」

「難しいですね」

「と、いいますと?」

「村にもどっても実家は兄が継いでいて仕事がありません。なにか違うことを始めるには先だつものがいる。しばらくはあのふたりと会わないようにして薬草採集でもしますよ」

「本調子になるまでは、逆にあちらが接触を避けますよ」

 怪我が治るまで時間がある。

 高価な治療薬や高位の治癒魔法をおいそれと使える立場ではなかった。

 下位ランクの宿命である。

 十握は足早に移動する。

 ポウルはついていくのがやっとだ。

 一瞬の迷いもない。

 ありえない速さであった。

 罠や敵をまったく意に介していない。

 蹴散らせばいいとおもっている。

 実際、そうしてきた。

 あからさまに疑わしい鎧の前を闊歩して降り降ろされた剣を両手で受けとめる。

「一度、試してみたかったんですよね」

 真剣白刃とりに気をよくする。

 モンスターは出会って四秒で斬る。

 十握は軽く考えている。

 気分は物見遊山である。

 試験用のダンジョンと高をくくって方眼紙に白い小石、パンくずをさぼったツケはすぐにきた。

 案の定、道に迷った。

 元よりだまし絵のなかにいるのである。

 細心の注意を払っても危ういのに適当に歩き回ればそうなるに決まってる。

 壁に手を添えて進めばどうにかなる建物ではないのだ。

「さて、どうしたものか」

 十握は頬に手を添えると思案する。

 物憂げな表情。気品があった。

 これで背もたれのない椅子に腰かけて右足を左の腿に乗せていたら、五十六億七千万年後の出番に肩を温める補欠のようである。

「ポウルさん、なにか腹案はありますか?」

「い、いえ」

「では、横紙破りといきましょう」

 十握は壁の前にたった。

 手のひらに忽然と針があらわれた。

 中指ほどの長さのそれを頭と腰の高さに打ちこんだ。

 ポウルは目を見開いた。

 壁に針を刺すなど、力自慢でも容易くできることではない。

 カラーボックスの合板に画鋲をさすのとはわけが違う。

 ましてや、特異な力が働くダンジョンのそれである。

 だが、美と造形の女神の合作であれば。

 十握に力をこめた風はなかった。

 ああ、それなのに、さしたる抵抗もなく針は易々と潜ったではないか。

「念のため、離れてください」

 窓からさしこむ陽光を浴びて鈍く光るそれの中間を打診をするかのように指の腹が触れた次の刹那、一条の亀裂が縦に奔った。そして、一拍置いて壁は崩れ落ちた。

 埃が十握を避けて室内に広がった。

「さ、行きますよ」

 髪が白くなっていることに気づかず、茫漠と立ちつくすポウルに声をかける。

 その部屋は珍しく清潔であった。

 ささいなことを針小棒大に騒ぎたてる姑が脂っ気のない指であちこちなぞろうと塵ひとつつくことはあるまい。

 はいって正面の壁に肖像画がかかっている。

 女性である。若い。二十代前半くらいであろうか。豪奢なドレス姿である。これでもかと盛られた前髪に船の模型が載っている。悪ふざけではない。ファッションは突き詰めるとやせ我慢である。だから、コンクリートに薄く張った氷をハイヒールで踏み割る猛者があらわれる。コルセットの締めつけで脂汗を流すくらいではものたりなくなったのであろう。厚く塗られた絵の具はひび割れて判然としない箇所も多いが、それでも美しいことが明瞭な容姿であった。

「建築基準法を無視した増改築でここをダンジョンにしたのは女性でしたか?」

「――建築なんとかというのはわかりませんが……たしか、男だったような」

 ポウルが遠い目をする。

「おもい人なのでしょうね」

 ここが例外なのはそうとしか考えられない。

 感傷に浸る間はなかった。

 不意に気温がさがった。

 風船が破裂するような音。ラップ音である。

 もし、電磁波計がここにあれば針は激しく揺れたに相違ない。

 わかりやすい前兆であった。

 肖像画の前でつむじ風が発生した。

 そのつむじ風は白かった。

 最初は十センチほどの小さなそれは次第に人の背丈ほどの大きさとなる。

「ついにわたしも霊体験ですか」

 やや声が沈んでいるのは十握が元は幽霊否定派だったからである。正確を期すといてほしくないとおもっていた。十握は夜が好きだ。どうせ眠れないのだからと近くの漫画喫茶で映画を一本観て、帰りに水腹をさすりながら空を眺めることが多かった。とりわけ、肌寒さに身をこごめながら見るオリオン座がお気にいりであった。もし、恨みがましく魂魄この世にとどまる輩と出遭ってしまえばそのささやかな楽しみは奪われる。

 こちらの世界にきて受けいれざるをえなくなったが、できれば幽霊は会いたくない。

 なんとなく倒せそうな気もするが、染みついた価値観は強固だ。

 贅言だが、河童と天狗とチュパカブラと宇宙人はいてもいいとおもっている。

 身近にいないからだ。河童は沼や川の上流に、天狗は深山幽谷に、チュパカブラは……どこだかわかりかねるが藍色の空の下はそぐわない。最後の宇宙人だが、ピザ屋のデリバリーでさえ時間がかかるのである。

「ベントラ、ベントラ」

 呼ばれたくらいで顔をだすなど酔狂がすぎる。

 もし、宇宙人がすでに大挙して地球に押し寄せてきていたのだとしたら、それこそ、インカを征服したピサロのような苛斂誅求な簒奪が始まっているはずである。

 遠路はるばるやってくるのだ。牛の臓物などで満足はしまい。

 閑話休題。

 白い靄はやや太った男の姿となる。エクトプラズムである。

 幽霊らしく陰鬱な相貌である。

 半ズボンにストッキングが目を引く。

 館の主であろう。

手直しが多くて投稿が遅くなってしまいました。

追伸 いい子との会話は普通で盛り上がりに欠けますね。

他のかたの作品を渉猟して気づいたのですが、例えや引用ってあまりやらないのですね。

翻訳ものみたいなひねくれた表現好きなんですが、ま、その一文のために筆が止まることはよくあるので敬遠する人は多いのかもしれません。

それではまた次回にお会いしましょう。「ジョンウィック」を観ながら。

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