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ガラスのハート

 白皙の美貌が上気するさまはなかなかに色気のあるものであった。事実、後ろで控えるメイドは恍惚と立ちつくしていた。主の前という緊張感がなければへたりこんだことであろう。

 優雅にステップを踏む足も、細い腰にまわした手もうっすらと汗ばんでいる。

 十握である。

 呼吸に意識を専念して副交感神経が優位に働くように長く息を吐くおかげでかろうじて平静を装っているが、それがなければロックの開祖のように震えだすところだ。

 心臓の鼓動が高鳴っている。

 動力源は羞恥心と悔恨の念であった。

 十握はこの世界で生きるにあたっていくつかの決め事を設けていた。そのうちのひとつが子どもとは距離をとるであった。

 ソフィーやバッカスが聞いたら一笑にふす、エイリアも小首を傾げるであろう奇矯な縛りではあるが本人はいたって真面目である。

 切った張ったの修羅の世界に身を置く者が子どもをだしにいい人アピールする話は食傷気味。熟練冒険者と子どものハートフルな日常風景は柄じゃない。人臣最高位の関白を凌ぐ準太上だいじょう天皇まで登りつめた古典スケコマシのような青田刈りは、なぜか階段のシーンがやたらと多い学園や小劇団などの狭い組織内でくっついたり離れたりする恋愛ドラマの次に苦手であった。

 カミーラやギルドの職員が天邪鬼と評したように十握は性格がひねくれている。

 郷里の幼なじみたちがくっついたり揉めたりする漫画をひょんなことから読んだ感想が、

「雛鳥の刷りこみみたいで気持ち悪い」

 であった。

 ただし、一週間後に三つ編みの女の子のイラストで有名なカップ麺を作る時に使う砂時計が税抜き百円で買った安物から島根の値の張るそれに変わってはいたが――。

まっとうな理由もある。

 そもそも子どもと関わったところで金になるわけではないし、むしろトラブルの元である。

 ろくでもない連中が意趣返しに子どもを攫うのは常套手段である。そうなったら身銭を切って取り返しに動かなければならない。

 それと子どもは正直だから下手に関わると素性が漏れるリスクがある。

 ――なのに、その禁を破ってしまった。正確を期すと破られてしまったである。

「どうかなさいました?」

 喜色満面の少女が上目遣いをする。

 純真な瞳。

 汚れっちまった十握には眩しかった。別に悲しくはないが。

会話率34%は意外でした。

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