帰還
結局、命を助けることとなった。
リーダー格は後ろからとぼとぼとついてきている。両手を縛られて荷馬車と繋がっている。折れた足はカミーラが応急処置を施した。街までもどれれば充分なのでおざなりである。一歩一歩踏みだすたびに土まみれの顔がゆがむのはご愛敬である。
リーダー格の命乞いが心に響いたからでは、無論、違う。
カミーラの提案である。
悪即斬もいいが、懸賞金を受けとった後に処刑を見物したほうがお得という判断である。
盗賊の幹部ならそこそこの金になる。
懸賞金は山分けである。
カミーラは全額プラス謝礼を払うといったが、面倒な手続きをしてもらうということで押し切った。仲間と装備品を失ったのである。役得は喉から手がでるほど欲しいはずだ。
道すがら彼女が手綱を握る側で十握は今いる場所についてあれこれと尋ねる。
カミーラは頬を緋に染め、緊張でたどたどしく時間はかかったが街につくまでの間にはひと通りの情報は得られた。
神が選んだだけのことはある。彼女はモンスター退治とアルコールで日がな一日を終える口ではなく、売れっ子ホステスが起業家の歓心を買うために経済誌に目を通すように、向学心が旺盛で社会情勢や慣習に長けていた。
ここはハルコン王国というらしい。
ハルコンは初代の名である。
御名を冠したハルコン通りやハルコン湾があると知って、護衛艦に旧国名をつける国出身の十握は気恥ずかしさをおぼえる。
人口は綿密な戸籍台帳などあるはずもないから不明。仮にあったとしても秘中の秘であろう。人口は国力を推しはかる目安になる。
主な勢力は以下の通り。
王家。練度の高い軍隊と貨幣鋳造権、裁判権を有する。だが、先の国を放伐にあたり、各地の有力者の協力を仰がなければならなかった関係上、絶対的な力の差はないらしい。法で縛られてもいる。弱小貴族の妻女を召しあげて玩弄するような専横はできないとのこと。
大貴族。王家に各個撃破されてはかなわないと協力関係にある。
無論、一枚岩ではない。商業でよくバッティングする。法に従ったコップの中の戦争はままあるとのこと。戦費調達に苦肉の策で貨幣を偽造した不心得者もいたらしい。
それとギルド。
モンスター退治もさることながら輸送業務の警護と小口の銀行業ですこぶる権威がある。
銀行業は元いた世界でいうところの郵貯や信金みたいなものか。馬小屋暮らしの駆け出し冒険者や小口の商売人らがなけなしの金を託すのであろう。塵も積もれば山となる。
輸送業は圧倒的だ。
ギルドに頼らなければなりたたない。
辺境はモンスターや野盗が高確率で出没する。自衛のための人員は必須である。
自前の兵隊ですべて賄えるのはひと握りの大貴族くらいである。が、彼らも見栄を張る時は――儀式などで頭数が必要な時はギルドに依頼するそうだ。領民を動員するより安くつくからである。江戸時代の大名や大身の旗本が渡り中間を雇うのと似た構図か。
お約束の教会はさほどではないらしい。勢力が分散していて共喰いに精をだしている。
だいたいこんなところである。
時間が余ると雑念が浮かぶ。
どうでもいいことばかり浮かぶ。パソコンの隠しフォルダは大丈夫かとか、死んですぐ転移(?)するのなら法難〇百年記念だの塀の修繕だのわらわらいる子どもの得度式だのなんだのでオリンピックより短いスパンで金をせびる売僧に文句いって縁を切ればよかった。なにが極楽だ。頭の固い親戚連中の顔を立てて損したとか、最後の晩餐が――正確を期すと最後の昼食だが――コンビニの総菜パンは味気ない。こんなことならケチらずに弁当を買えばよかったなど。
ストレス回避に脳があえて楽しかった思い出、未練の募る記憶を避けている。
やはり、カミーラは幸運の持ち主である。
ひとくさり愚痴を終えたところで街が見えてきた。これで死の再現から免れた。
読んでくださってありがとうございます。
なにげに苦労した回でした。近々に読んだ本に影響されて文体がブレブレで(笑)。
細かく書いたらテンポが悪くなるし、書くのも面倒だし、どうせ斜め読みされるのがオチだと数値はやめました。「あなたの敗因はレベルの差です」ではハードボイルドっぽくないですし。
ざっくりと世界観を把握していただけたら充分です。
次回、またお会いしましょう。「やとがめちゃん観察日記」を観ながら。




