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誰もが秘密を抱えている



「そうでしたか」

「驚かれないのですね」

「勝手が狂いますか?」

「ええ」

 秘中の秘をまるで時候の挨拶のような反応では張り合いがないというものだ。

「今日一日でなりすましは慣れました」

 歓心を得るために嘘で塗り固めた睦言を囁くスケコマシに、情状酌量を狙って妻帯者を装う顎尖り、名古屋人もかくやの縦ロールで下級貴族に扮して敵情視察の同業者。そして、そのさいたる者が十握である。

「スライムではありませんが」

「お嬢さま」

 トールが会話に割ってはいった。

「みだりに秘事をあかすのは」

 セシルは艶然と微笑んだ。

「十握さんなら大丈夫ですよ。天邪鬼的なところがあって扱いにくいが、懐に飛びこんだ窮鳥は殺さないどころか自腹を切ってでも助ける人だとカミーラさんやギルドの窓口のかたが太鼓判押してますし、そもそもなにも話さないで解放していただくわけにもいかないでしょう」

 セシルはここでひと区切りして、

「三百年以上前になりましょうか、ご先祖さまが風変わりなかたで人の姿で諸国を放浪していたことがり、旅先で出会った冒険者と意気投合していわゆる魔王と呼ばれる存在を退治したことで――実態は見掛け倒しだったそうですが、ご先祖さまの評価ですから人の手に余る存在だったのかもしれません――貴族にとりあげられたのが始まりです」

 それから魑魅魍魎の跋扈する貴族社会をうまく渡り歩き、有力な家のひとつにすぎなかったハルコンが王家に反旗を翻した時はいち早く馳せ参じて、

「当家は全軍をもってハルコン殿のお味方をしたいと存じます。つきましては手薄になったわが城の管理をお頼み申す」

 と、家の存続を第一義に保険をかける者が多いなか――長男は王家、次男はハルコン。あるいは、本家は王家、分家はハルコンなど――ハルコン側に全賭け《オールイン》して利益を最大限にしたとのこと。

 文字通り人知を超えた能力で勝敗が見えていたのかもしれない。

「よく、三百年もばれなかったものです」

 十握が感嘆を漏らす。

「そのための家訓です」

「なるほど」

 冒険者になるのは先祖の追体験であると同時に人の姿で荒事に対処する、あるいはやり過ごす術を学ぶためであったということか。――もっとも、三河以来に相当する名家をモンスター呼ばわりして耳を傾ける者など皆無に違いないが。

「ここで冒険者をするのは?」

「領内だとギルドの上の人に顔をしられています」

「なるほど」

「ただし、場所は間違えたかもしれません」

「かもしれませんね」

 野盗に強いモンスターが頻出する辺境に較べればぬるま湯で張り合いがないか。

「十握さんの存在が強すぎてこの街の人たちは感覚が麻痺しています。仮にわたしがひと蹴りで図書館の塀を飛び越える跳躍力を見せたところで、美しければこれくらいのことはできておかしくないと人々は深く考えずに納得して終わりです」

「それは――申し訳ないとしか」

 外出する時にサングラスをかけるようになった今なお看板や柱に衝突して頭を押さえる通行人はひきもきらない。浅黄裏の通過儀礼になっている。

 十握は常軌を逸した存在である。

 街の誰しもが十握の素性を――特に美の秘訣をしりたいと希求して、そして、叶わずにいる。

 冒険者の素性をさぐるのはご法度である。

 返り討ちに遭っても文句はいえない。

 初期にただの色男と侮って誘拐をたくらんだゴロツキどもが四肢の関節を増やし、雇い主が日がな一日、部屋の隅で体育座りをして小言を呟いているとしれば詮索魔も二の足を踏む。

 流言飛語が飛び交っている。

 これだけ美しければ神も寵愛するだろう。いや、神が贔屓したから美しいのかもしれない。

 悪魔の仕業という線もある。

 神がここまでえこ贔屓するものか?

 もし、そうだとしたら万民をこよなく愛するという教会の教えが詐欺になる。

 きっと悪魔と契約したに違いない。

 魂と引き換えに……いや、待てよ、禁呪で忌わしいものの召喚ですら大量の贄が必要とされるのである。これほどの美の対価となるとなにをもってすれば足りるというのだ。

 わからない。重ねてわからない。

 十握が赤子の手を捻るように柄の悪い冒険者連中を叩きのめした。

 わからないが、窈窕たる美丈夫なら凡夫にはできない芸当も可能なのではないか。

 単独で高難易度の魔物を倒した。

 あれだけ美しければ――。

 貴族や役人をまったく怖れない。

 美しいんだもの。有力な後ろ盾だってあるに違いないだろうし、あの容姿ならどこでだって暮らしていけるからしがらみなど気にもしないのだろうよ。

 画期的な商品を売りだした。

 ああ、美しいからね。

 くすぶりだったアーチーがいつの間にかひとかどの親分になったのは十握の薫陶らしい。

 別に普通さ、美しいのだから。

 浮いた話がまったく聞こえない。

 凡夫には考えられないもったいない話だが、あれだけ美しければ娼館一の美姫ですら泥臭く感じて食指が伸びないんじゃないの。

 美しければなんでもありの状態であった。

セシルの正体は秘密です。と、いうか、まだ決めきれていません。

無難なのは竜ですが、安易すぎる気がして。

名状しがたい不快な存在は個人的には好きですが、やりすぎでしょう。

謎にしたままのほうが面白いかなともおもってます。

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