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うってつけの場所

 風が雑木林の隙間を駆け抜ける。

 口笛のような音色。

 虎落笛である。

 噴水広場から歩いて十分ほどのところにある空き地である。

 強風が常に吹き荒れる場所で誰も近寄ろうとはしない。無論、買い手もつかない。欲の皮の突っ張った不動産屋がなんどか学者や魔術師を動員して原因究明に努めた結果は、ツタンカーメン王の墳墓を発掘したカーナボン卿一行のような惨憺たるものであった。

 泥棒になぶり殺しにされた土地の所有者の怨念であるとまことしやかにいわれている。

 建物は忽然と消失したとのこと。

 元いた世界なら一笑にふす話だが、剣と魔法の世界では一概に否定はしにくい。

 強風に煽られるのはその一画のみであることからオカルト的要素は明白であった。

「月がきれいですね」

 艶のある黒髪が風になびく。

 そよ風のようであった。

 なにぶん昔のことなので曖昧だったが、これで不動産屋に煮え湯を飲ませた土地の所有者は女性と判明した。

 そしてお月さまも――。

「あ、愛の告白ではないので誤解なさらずに」

「なに者だ?」

 強風で見るも無残な髪形の中年男が声を張りあげる。

「おや、ご存じのはずでは」

「しりえた情報では眼前の説明はつかんな」

「美しいからではないでしょうか」

「ふざけるな」

「本心なのですがね」

 その証拠に十握は冷静であった。勝手に口をついてでた言葉なら赤面している。

「セシルお嬢さまの評は近い立場ということでした」

「――?」

「そろそろ始めましょう」

「おれが行きます」

 顔に似ずうらなりが前にでる。

「遠慮なさらずにおふたりでどうぞ」

「ふざけるな。たかが色男ひとりを叩きのめすなど片手で充分だ」

「いや、ふたりがかりでいくぞ」

 冴えない中年男の命令は絶対であった。

 ふたりは散会した。

 前後から挟むように十握を強襲する。

 剣を抜いている。

 殺る気であった。

 こんなことでとおもうのは平和慣れした元いた世界の感覚である。

 疑わしきは殺っておけ。

 ここなら殺人は露見しない。好き好んで穢土にくる者はいない。死体は捨て置けばそのうちモンスターや餓えた獣の腹に消える。

 うらなりの剣は弾かれた。

 中年男の剣は残像を切り裂いた。

 たたらを踏んだ中年男のがら空きの胴に銀線が迫る――。

 まるで水面を突いたかのような手ごたえに十握の眉根が寄る。

 大のたり刃はさしたる抵抗もなく左胸から右の脇腹へすり抜けた。

 中年男は恬然とたっている。

 血の一滴も流れてはいない。

「なんとなく面妖な感じがしてたのですが――よもや、スライムだったとは」

「おい」

「死ぬ者の戯言くらい許してやれ」

 唇を尖らせるうらなりを中年男が諫める。

「とはいえ、昨日今日湧いた下等な輩といっしょくたは気分のいいものではないな」

「それは失礼しました」

 ふたり――二匹? は元いた世界でいうところの蛭子のような存在らしい。伊弉諾命と伊邪那美命が国生みの後に産んだ無形の神が蛭子である。

 

 



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