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事情聴取は新人冒険者たちに押しつける

 気恥ずかしさが限界に達した十握は隊列から離脱した。

 煩雑な手続きは後回しにしてもらう。功労者の特権である。どの道、ギルドは通常業務に加えて、持ちこんだ巨獣の肉や爪の査定に高価な牙をより高く売るためのオークション開催の通知と、獲物を運んだ冒険者への駄賃で半日はてんてこ舞いである。形式的な書類に割く余力はない。

 十握は武具屋に寄る、というか好奇の視線から逃れるように避難する。

「お、早いな」

 店主のバッカスが顎の毛をしごきながらいう。

「研修が中断したので」

「それならいいが、てっきり兄ちゃんのことだから新人にうんちく垂れるなんて柄じゃないって適当に切りあげたのかとおもったぜ」

「カミーラさんの顔はたてますよ」

「そうそう、酷薄そうに見えて、兄ちゃんは妙なところで義理堅いんだよな」

「だいぶ街に明るくなってこたことですし、他所の武具屋に鞍替えするのもいいかもしれませんね」

「お、今日はご機嫌斜めだな」

「柄にもないことをしてきたので」

「そうだった」

 バッカスはカウンターに針をならべた。ざっと見て五十本ほどある。

 その針は先ほどの巨大な象に似たモンスターに使用したのより光沢があった。

「注文の品だ」

「金貨五枚でしたね」

「毎度あり。おれとしては金になるからありがたい話なんだが、こんなのに質の高い鉄と銀を使うなんて兄ちゃんくらいだぜ。道楽貴族だってそんなことはしねえ。針なんざ消耗品なんだからそこらの針子と同じものにすりゃかなり安く済む」

「それでは奪う命に敬意が払われていません」

「そういうものか?」

「そういうことにしてください」

「色男のいうことは違うねえ」

 厚みのある左手が額をピシャリと叩く。

 荒くれ冒険者と渡りあってきただけあってバッカスは利き手を空ける習慣が身についていた。

「ところで兄ちゃん、いい虫除けの道具が手にはいったんだがどうだい?」

 バッカスの店は冒険にまつわるあると便利だがなくても困らないグッズも取り揃えている。

「結構です」

「香油だと肌荒れするぞ」

「いえ、刺されたことがないので」

「――?」

「そもそも、こちらにきてから虫の姿を見たことがないのでてっきり存在しないものかと」

「――冗談じゃ……ないよな?」

「快適でありがたいのは本心です」

 バッカスは嗟嘆した。

「兄ちゃん、あんた、虫が嫌いだろ?」

「好きではないですね」

 好きではないどころではない。元いた世界では虫除けの芳香剤とスプレーと殺虫剤は夏の必須アイテムであった。とにかく足の多い生き物が苦手なのである。逆に足のない生き物は――蛇は触れはしないが見るぶんには平気であった。部屋に得体のしれない虫が――ムカデと似て非なる細長くてすばしっこい虫が侵入した時は、人は本当に恐怖を覚えた時は声をあげることができないという日本のホラー映画のお約束が真実であると身をもって証明した。そして硬直が解けた次の刹那、常備してある殺虫剤を手にして招かれざる闖入者へ執拗に噴射する姿はまるでトリガーハッピーのようであった。

「だからか」

 バッカスが合点する。

「虫嫌いの兄ちゃんは無意識に魔力で虫を威圧してるんだろうよ」

「――いるのか、虫が」

 困惑が眉目秀麗の相貌に広がった。

 異世界――それもゲームの世界であろうと十握が推測した有力な憑拠のひとつが虫の不在である。それが崩れたとなると……ここはリアルなファンタジーの世界ということになる? のか。

 もしかすると匂いに鈍感なのもただの体質?

 元いた世界では敏感がゆえに気苦労が絶えなかった――隣人の柔軟剤や同僚の体臭に苛まされた十握をあわれんであえて性能を低くしたというのならありがた迷惑な話である。

 ただ順応が遅れているだけ、という線も。

 わからない。

 断定するには情報が少なすぎる。

 こちらに招待した存在が、直接、話しかけてくれば手間は省けるがそれは勘弁願いたい。

 同じ人であっても独裁者は下々の困窮など歯牙にもかけないのである。マクロ経済の学者より上から目線の存在が矮小な人に心を砕くなど。古来より神と接した者は大きな代償を払うのが相場である。好々爺然の老人や性格に癖のある美姫が人の身に余る加護で世界の蹂躙を勧めるのは三文小説のなかだけである。神は畏れて遠ざけるものである。

 十握に落胆は薄かった。

 ここがどこであろうと適応するだけである。

 少なくとも最悪の予想――乙女ゲームの可能性が遠のいたのは慶賀である。平民でありながら貴族の学校に押しこまれて退屈な授業と歯の浮く科白に耐えるなど荒行もいいところである。

「ひとつくらい欠点があったほうが人間らしくていいってもんだぜ」

 俯く十握を落ちこんでいると勘違いしたバッカスが的外れな慰めをいった。

十握はああですが、乙女ゲームがモチーフの異世界ものは好きです。

爽やかでいいですよね。

細かい数値も後だし感満載のスキルもでてこないので読みやすいですし。

コミカライズにハズレがない(読んだ限りでは)のもいいです。ま、アクションシーンがないので画力の拙さがバレにくいだけということはありますが。

それではまた次回、お会いしましょう。

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