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陽ざしが徹夜明けの渇いた心に染みいる

 天高く馬肥ゆる秋。

 陽ざしが心地よかった。

 いや、よすぎた。

 眠気が十握を襲う。

 平素であれば心が癒される小川のせせらぎが忌まわしい。

 ニキビ跡の残る少年少女たちのまっすぐな瞳がなかったら手近な木に寄りかかって仮眠をとるところだ。キースをアーチーに委ねてベッドに潜るも、スケコマシへの不快感が揺曳していたのかまんじりともしないうちに朝を迎えた。十握は元々不眠症のきらいがあったが、新しい体になってから長時間睡眠者ロングスリーパーも併発している。美の女神が手塩にかけた特別性である。凡夫のそれとは異なりメンテナンスに時間がかかるのかもしれない。あるいは夢をつかさどる女神が別れを惜しんでいるのか。

 パン屋の接客は野暮用があると中座した。

 欠席しなかったのは、心根は小市民なので、せっかくきてくださったご婦人がたに挨拶だけでもとおもったのである。元々、エイリアとソフィーのふたりで切り盛りしていた店である。十握が不在でも店は回る。

 その野暮用で街の外にいる。

 森にほど近い平原である。

 石柱がある。途中で折れている。それでも街のどの建物より大きい。遺跡である。それが海を隔てて一万キロ以上先の石だというから栄耀栄華を極めていたことは容易に想像がつく。

 いわゆる超古代文明である。

 天と地の境界が曖昧だった頃の人は鼻から授かった霊気が強く、それこそギリシャ神話の英雄や眼鏡をかけて短い木の棒を振るう少年のような非才の持ち主が掃いて捨てるほどいたとか。

 その殷賑を極めた超古代文明が終焉を迎えたのは人々の不遜な態度に神罰がくだったからである。

 十握には身につまされる話である。

 新人冒険者の研修である。

 学校はないので人あたりのいい上位の冒険者が指導することになっている。

 十握は代役である。

 受け持つはずだったカミーラが貴族の急な横槍で出払うことになって十握にお鉢が回ってきた。

 珍しく十握はふたつ返事で引き受けた。ペイフォワードの精神である。十握に白羽の矢がたったのは他になり手がいなかったからである。実力はともかくランクは下から数えたほうが早い、人あたりがいいとはいえない者を教官に据えるのは前代未聞である。新人冒険者は平民ばかりとは限らない。元いた世界の飲食店の格付けのようにギルド本部の者や、腕試しと貴族の子弟が素性を隠して潜りこむことがある。新人など適当にそこら辺を走らせて、やめというまで木を殴らせとけばいいというわけにはいかなかった。

 本来、請け負うべき熟練冒険者は、運がとびぬけて太いカミーラが、急遽、出払うことになったのを啓示と受けとめて尻ごみした。日頃はなだめすかして労多くして益の少ない依頼をおしつけるギルドの猛者もこれにはお手あげであった。

 新人冒険者たちは薬草の採集に苦戦している。

 本に記載されているのは美品である。

 そうそう自然界にはない。紛らわしいものも多い。そのなかには毒草もある。

 見抜けなくては話にならない。

 利益を最大限にするにはまがい物を排除する必要があるのと、生存確率を少しでもあげるためである。携行できる薬などたかがしれている。活動範囲を広げる――より大金を得ようとするなら現地調達は必須である。そのために食用に適した植物と薬草の知識は不可欠である。

 合間に言葉遣いを教える。

 こちらが本命であった。

 五W一Hを指導する。

 苦手な者が多いのだ。とりわけ、浅黄裏――田舎者が顕著である。省略する癖がついている。顔馴染みと同じ話題をくり返していればそうなる。

 意思の疎通が円滑にいくようになればパーティーの連携の幅が広がるし、交渉事もスムーズにいく。時間がたりないので敬語は省略する。追々、各自が学べばいいことである。泥縄で間に合う。駆け出し冒険者が人を介して御簾の奥のかたと接する機会はウミガメの子どもが大きくなって再び海岸にもどる確率に等しい。

 言葉遣いを教えるのは、冒険者を辞めた後でも有用な知識を与えたほうがいいだろうという十握の親切心である。

 花形の模擬戦はカミーラに委ねる。

 十握に教える気は毛頭ない。下手に腕前を披露してつきまとわれたら面倒だ。

 事前に今いる場所を中心に五百メートル四方に針を刺してある。串刺しである。元いた世界の古式ゆかしい呪術――結界である。

 目立っては元も子もないので――冒険者の多くはカミーラの件でギルドで様子見だが――加減してある。うっかり女性専用列車に乗りこんでしまったサラリーマンのようないたたまれなさに、人を襲うというゆるい共通項でモンスターの列に加わる害獣ていどなら一キロ手前でUターンするだろう。

 十握は新人冒険者を見守っている。

 平等に見ようと努めているのだが、つい、視線はお下がりらしい大きな盾を持つ少年に向かってしまう。年端のいかぬ少年に劣情をもよおしたわけでは、無論、違う。正確を期すと注視する先は茶色の髪の上にある三角の耳である。

 少年は猫人族である。当人たちは誇り高く豹人族と呼ぶことが多い。

 十握は大の猫好きである。元いた世界では野良猫に挨拶したし、猫カフェに行っては帰りに鼻の頭を掻き毟ったものである。こちらの世界では猫は希少である。聖獣と崇められている。大貴族か教会でしか飼うことは許されていないとしった時の十握の落胆ぶりといったら、白米を一食一八〇グラムに制限された成人病患者の悲哀なみであった。

 猫人族が差別らしい差別もなく平穏な生活を送れているのもこれが影響している。

 十握はあくびを噛み殺した。

 暇である。睡魔も相まって雑念が湧く。

 十握は異世界にきた。ならば、相互主義ではないがこちらから元の世界へ行った者もいるのではないか、と。なかには十握のように過分な才を授かった者もいるだろう。十握と違って自制の働かぬ者も。

 おもいあたる節がある。

 誘蛾灯に群がる羽虫のように深夜のコンビニの駐車場で炭酸飲料とスナック菓子と猥談で無為に時間を潰すのが似合いの手合いが芸能界いりすると、どこがいいのか首を傾げているうちにあれよあれよと露出を増やし、スキャンダルなどどこ吹く風、瞬く間に大物の仲間いりを果たすも、まるで傲岸不遜の帳尻あわせがきたかのように難病にかかって消えてゆく……いや、もっと端的なのがいる。世界は炎と氷の対決であると断じた独裁者。絵が少しばかり得意なオーストリア人。時限爆弾をしかけた日に限って演説を早く切りあげて難を逃れたちょび髭の伍長。戦時下で――それも有利とはいいがたい状況下で南極に学術調査のためと兵力を割くなど正気の沙汰ではない。

「――かくも、平和はなりがたし、ですか」

 十握はひとりごちた。

炎と氷の対決はありですね。

端的な人物は誰のことかわかりますか?

ヒントはチベット仏教と関わりのある人です。

十握は地に足つけた活動がモットーなので話の展開はゆっくりです。

美しい者が淡々と物事を解決する――深夜ドラマを観るような感覚で楽しんで頂けたら幸いです。

投稿までに時間がかかるのはご勘弁を。

なるべく映像に浮かびやすいように動きをだして、説明は簡潔に、でも誰にも必要とされない雑学を盛りこんで、同じ単語を舌の根も乾かぬうちに繰り返すのは癪だから違う言葉に言い換えたりすると手間がかかります。

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