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街の雑談 メイド喫茶のMrローレンス

 間が悪いな、坊や。

 さっき、面談が始まったばかりでね。一時間くらいかかるかな。十握の旦那と膝つきあわせて話すんだ。たどたどしくもならあ。どうしたって長っ尻になっちまう。

 のっぴきならない用事ならとりつぐが、どうする?

 悪いな。気を使わせちまったか。

 男だったらどやしつければいいんだが、キャスト相手だとそうもいかなくてね。旦那との面談を──役得を邪魔だてしたなんてことになったら総スカン喰らっちまう。

 仮にギルドの緊急召集だろうと文句たらたらだろう。

 街の存亡より愛しい男との時間ってことさ。

 ま、男のおれですら慣れることがねえんだ。見惚れて躓くなんてざらだ。頬を赤く染めたキャストがおもいつめるのも無理からぬってことで。

 お詫びといっちゃなんだがコーヒーを奢るからそれで機嫌なおしてくれ。

 なんなら、飯もつけるぜ。

 ん、食事はいらない?

 ほう、旦那が目をかけるだけあってまじめだね。体作りのために食べていいものと食べる量が決まってるときたか。なるほど、それも旦那の教えってわけか。

 おれも下っ腹が気になってきたから見習わないといかんな。

 どうだい、うまいだろ?

 厳選した豆を、毎朝、ここで焙煎してるんだ。

 これだけでも充分に喫茶店としてやっていけるとおもうんだが、旦那がいうには意識高い系? 気どった連中に窓際を陣どられるのが嫌で俗っぽくしたいんだと。

 それでメイド喫茶ってわけだ。

 そういや、坊やがここくるのははじめてだったな。

 ひらたくいうと看板娘がわんさかいる喫茶店だ。

 営業時間は朝から夕方までだ。本当はもっと長くする予定だったらしいが飲み屋に配慮してこうなった。古巣に睨まれずにすむからおれとしてはそのほうがありがたい。

 キャストが多いぶん、普通の喫茶店より、当然、割高だ。

 テーブルチャージもかかるしな。

 メニューはコーヒーか紅茶に、焼き菓子か水菓子ってのが定番だ。アルコールはあるにはあるが、旦那がことあるごとに口にするギムレットと家に帰るための景気づけのホットカクテルだけで、おひとりさま二杯までとしみったれてるから捌けることは稀だ。

 ただ、実験店舗扱いなのか旦那のおもいつきに振り回されっぱなしだ。

 添え物のキャベツの酢漬けを旦那が実効支配しているラウド近在の村ではじめたシナチクだかメンマだかいったかな──竹の柔らかい根っこの部分を蒸して塩漬けにした後に細く裂いて天日に干したものに替えるっていった時は、まんざらしらない村でもないし役にたつならと諸手をあげたもんだが──そば切りには閉口したね。

 そば粉と小麦を八対二の比率でまぜて麺状にするというんだ。

 麺てのは捏ねて細長く均一に揃えたものだ。

 百聞は一見にしかずというし、次にくる特は腹を空かしといてくれ。

 とにかく、手間がかかってしかたがねえ。

 菊練りとかいうこねかたを店が終わってから練習して時は、なんでおれが陶芸家のまねしなきゃならねえんだって悪態ついたもんだ。

 盛りつけも麺を六束にする奇妙な決まりがあるし。

 それで、ない知恵しぼって、旦那にそば粉は殻がまざることがあってそいつで腹をくだすと信用問題になると遠回しに断念させようとしたんだが、そばを茹でた時のどろどろの残り湯を飲ませりゃ問題ないって逃げ道を塞がれちまった。

 酒に酸味の強い果実と塩と砂糖とうまみというのが多くあるらしいキノコや海草なんかで煮だしたつけ汁が納得いかないらしく数量限定商品になったのが不幸中の幸いだ。

 不思議なもんでそのつけ汁にちょいと振りかけるミックススパイス──七味唐辛子というのは満足いくものができてうちだけじゃなくギルドを介して──スパイスの大量入手となるとギルドの協力は不可欠だ──あちこちに卸している。

 軽くて土産にちょうどいいと観光客に人気だ。

 で、肝心のメイドなんだが──。

 ひとりずつメイド服の意匠が異なるのは、そこらの中古で服をすませるおれには呪文も同然だが、イエベだかブルベだとかで各自の容姿に合わせたらしい。

 複数の店に依頼したのは、ご用達のお墨つきをもらったと勘違い野郎がでてくるのを防ぐためと、競争させることで品質を高める目的があるといってたな。

 最初に構想を聞いた時はメイドの格好なんかで客が群がるのか? もっときわどいもんがあるだろうにと半信半疑だったんだが、やっぱり、旦那の見たてに間違いはねえな。

 露出なんざまったくねえのにどういうわけか妙に色気がありやがる。

 早朝、エイリアの姐さんのパン屋にならぶ本物のメイド服からは想像もつかねえ。

 こんなことおもいつくなんて旦那はかなりの変態──いや、今のは忘れてくれ。

 そのメイドが全員、獣人は旦那の趣味だ。

 こちらの人は総じてレベルが高くて顔で選べなないから直感を信じたようなこといってたが、いざ、蓋をあけたら共通項があるからありゃ好みだね。

 とはいっても、愛人候補とかそういう狙いじゃないぜ、たぶん。

 亜人への偏見を減らしたいという気持ちは本物だ。

 優秀な人材を育てたいという気持ちは本物だ。

 幸せになってほしいという気持ちは本物だ。

 だから、接客のイロハと読み書き暗算にとどまらず、魔法に武術と旦那の回りにいる連中が得意分野をレクチャーしている。それでもまだ不足だってギルドを通じて一流を呼んでる。旦那は話題作りにいいだろうってみずから奇術を教授する厚遇っぷりだ。

 貴族や大商家で奉公するよりいろんなもんが身につくって具合よ。

 前に勘違いした野郎がキャストに抱きついたことがあったがおれが手をだすまでもなく片がついちまった。それも抵抗した拍子に肘が鼻の下──人中にあたった偶然を装ってだ。横恋慕する坊っちゃんたちの手前、か弱い女性を演じたんだろう。本当は旦那がこれでもかと魔力を注いだメイド服に悪さした瞬間に野郎は意識を失ってるのにな。他のキャストも乗っかって嘘泣きだ。あざとくて見ちゃいられねえとおれはクソ野郎を担いで裏口に避難だ。

 な、これでおれが板挟みのつらい立場だってわかるだろ?

 お世辞にもいい暮らしといえない獣人の娘が旦那にスカウトされて生活が一変。ひとり部屋の寮に無料ただ同然で住むことができて、きれいな服をきて、うまい飯にありつけて、最低でも月に一回は旦那の面談がある。これで心酔しないわけがねえ。

 相手が十握の旦那だからなぎのように静かだが──和をもって貴しとなすという旦那の意向でキャスト間の競争を煽る要素は、無責任なブン屋が勝手に作る番付も潰す徹底ぶりだ──そうでなかったら恋の鞘当てであたり一面、血の海よ。

 おれなんか巻き添えでまっ先に殺られちまうだろうな。

 そうだ、坊や。

 まだ時間はたっぷりあることだし、ちょっくらサウナで整ってくるってのは?

 粋な客の遊びかたでね。

 旦那が気前よくサウナの割り引き券をくれるんだ。たんにきれい好きでそのお裾わけなのか、耳と尻尾だけで要素は薄いとはいえ、獣臭いというありがちな偏見への対策なのかはわからねえが、キャストだけで使い切れる量じゃねえんで客にも配ってるんだ。

 それで、サウナによってからってのが大通人の身だしなみになってる。

 もしかすると、キャストが接客しやすいようにって配慮なのかもな。

 お得なサービスでキレるアホはいねえ。

 汚ねえ野郎を腕ずくでつまみだすよかずっとスマートだ。

 そうそう、この際だから質問してもいいか?

 たいしたことじゃない。ちょっとした疑問さ。

 旦那について回ってる坊やななにかしってるかもしれねえ。

 表の看板は見たかい?

 丸に揚羽蝶をデフォルメしたマークがあったろ?

 あれが旦那の屋号なんだが、奇妙なことにそれを見ると旦那の頬が一瞬だがこわばるんだ。虫が苦手なら採用しなきゃいいのにとおもうんだが──なにか聞いてないかい?

 なるほど、そういうことか。

 旦那の郷里の偉人がそのマークの系譜でじぶんもあやかったと、と。

 で、その偉いさんはなにを成し遂げたんだい?

 増上慢の売僧に業を煮やして寺院の中心施設を焼き払った?

 そいつは豪気だ。なるほど、旦那が痺れる、憧れるわけだ。

 ほう、対抗馬の図案もあったのか。

 功績は甲乙つけがたいがそっちは丸に二本線で地味だからやめた、と。たしかに蝶のほうが女性うけするわな。

 そのもうひとりのあやかろうとした偉人はなにをしたんだ?

 ん、そっちも寺を攻めた──。

 ──噂には聞いてたが、旦那の生臭坊主嫌いは筋金いりだね。

 ほう、ラウドにきて日が浅いのにすでに売僧と悶着あった、と。

 なんと、まあ、身のほどしらずがいたもんだ。その汚ねえ面みせただけで涙を流してひざまずく信者に囲まれてるとなんでも許されるって根拠のない自信をもっちまうんかね。

 宗教なんざ、ラウドじゃ遊興費で手本引きと大差ねえのにな。

 焼き討ちできなくて残念だとこぼしてた?

 旦那と食事をする時は十字を切って神に感謝すると旦那が目に見えて口数が減るから、手をあわせていただきますと奪う命に敬意を払う習わしになっている?

 おれも気をつけねえとな。

 とち狂って告会こっかいした過去がバレたらどうなることやら。

 旦那のとり巻きは物騒なのが多いから。睨まれたらことだ。

 できるかどうかは別にして、もし、結婚する時は役所に婚姻届けをだして、内々のパーティーですませることにするよ。おれが喪主の時は葬式も自由葬だ。

 後学のために他に十握の旦那が嫌いなもんを教えてくれ。

 占い師も嫌い?

 それなら安心だ。あたればでけえ声で吹いてまわるが、はずれるとなかったことにする、あるいは屁理屈こねてごまかす卑怯者はおれも大っ嫌いだ。

丸に揚羽蝶紋は平氏です。

引両紋は源氏です。

戦国時代は源氏の血統は明確で潜りこむのが難しかったため、織田信長は平氏の家系ということにしていました。

他に平清盛が南都──奈良の寺を焼き討ちしています。

源氏は足利義教と細川政元です。

歴史上、極悪人扱いされてきた面々です。

坊主が恨み骨髄と日記にあることないこと書きなぐった結果ですね。

それでは、また、次回にお会いしましょう。

よろしければ高評価とブックマーク、乾燥とレビュー、家族友人知人に赤の他人への周知をお願いします。登録者100人の壁をこえたいんです。

最初のうちは強引なというかあまりのご都合主義に苦手だったのにいつしかそれが面白く感じられるようになった『陰の実力者になりたくて』を見返しながら。

追伸

ここは小物らしくわたしも尻馬にのって川に落ちた犬を棒で叩こうとおもいます。

吉本についてです。

前々から気にいらないことがあります。

「死ねばいいのに」

これ、例の大物コンビを筆頭に吉本芸人がいいますよね。

同じ関西でも松竹芸人がいってるのを聞いたことはないので吉本特有のフレーズです(もし、いってる松竹芸人がいたらわたしの見識不足です)。

なかなかに卑怯な言葉です。

彼らの間でどういう意図でいってるのかわかりませんが──もしかするとksonさんいうところのアメリカ南部のFワードくらいの気さくさで他意はないのかもしれませんが──だからといって全国に向けて発信していい言葉でありません。

違う文化圏にいえばそのままの意味になります。

「死ね」

これをいうのは躊躇しますが、

「死ねばいいのに」

遠回しな表現は心理的抵抗が薄い。

卑劣にも台本や野蛮と心ない声で深夜に追いやられたプロレスの復権を願う教師たちの期待を一身に背負う少年少女にとって実に使いやすい言葉です。

昔からひいきの引き倒しとでもいうのか、

「芸人の影響力なんか、直に接する親や学校の教師とくらべればどうってことはない」

と擁護するコラムニスト(?)があらわれますが、詭弁にもなってない。

じぶんの胸に手をあててください。

尻の穴が排泄専門と信じて疑わなかった子どもの頃、くっだらないフレーズを得意気に使っていませんでしたか?

低脳ほど変な言葉、強い言葉をまねしたくなるものです。

今なら、なぜと疑問符がつくことでしょう。

ネットミームみたいなバカらしいのひとことにつきるものは共通の認識のある者同士で面白がってればなんの問題もないのですが、悪意のある言葉はそれを助長させる。笑いが本業の芸人の言葉で苦しむ人が量産されては本末転倒です。

これを期にやめてほしいものです。

どうも吉本芸人は笑っていただくという謙虚さより、客を笑わせてやるという傲りが顕著な気がします。なんか博打うちに似たいびつな自尊心、虚栄心が見てとれる。

芸能界に多かれ少なかれある特権意識が肥料となって一般人を見下し、じしんの姉や妹、娘がされたら嫌なことを平然と行う悪しき土壌が形成されているのでしょう。

昔から遊びは芸の肥やしといいますが、肥やしってクソですよ。

さじ加減を間違えて根腐れしたら、ただのクソまみれのクソ野郎です。

あ、FUZIWARAの健全なほうの、

「死ね」

「生きる」

のネタはいいとおもいます。

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