表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/158

環形彷徨

「もう、この辺でいいんじゃねえか」

 愚痴をこぼしたのは剣を携えた男である。

「見つかりませんでしたって報告して終わらせようぜ」

「ここらは森の入り口でヤバいモンスターは少ない」

 返事をしたのは槍持ちだ。

「あの女が魔物避けの香でも持ってりゃ、あと一時間は保つ」

「早くもどったらサボってんじゃねえって親分にどやされるか」

「そういうこった。給料分の働きはしねえとな」

 ふたりは盗賊である。それなりに年はいっている。ニキビ面の新入りに捕縛は心もとない。かといって、たかが小娘ひとり──シェリルを捕まえるだけに上が出張ることでもない。そういう次第で彼らが森にいる。これも中間管理職の悲哀であろうか。

「なあ、もし、見つかった場合だが──」

 粘ついた声に、

「好き者め」

 槍持ちはげんなりとした顔をする。

「誰彼かまわず姦ってると小便があっちこっち飛ぶようになるぞ」

 元いた世界と違ってこちらは魔力という便利な代物がある。とりわけ、聖地であるラウドはそれが顕著だ。濃い魔力のおかげで住民は怪我の回復が早かったり、病気に強いと以前に説明したが、なにごとにも限度はある。性病はこちらでも猛威をふるっている。男の冒険者の多くは無趣味で酒と女だけが楽しみの慎ましい手合いである。事態を重く憂慮したギルドが高ランク向けの娼館を検討したほどだ。

「そうはいうがな」

 剣持ちが喰いさがる。

「どんな時でも楽しみを見いだすってのは大事なことだぜ」

「そいつは一理ある」

「──だったら」

「いいか、おれたちはラウドの住民だ」

 穴蔵や掘ったて小屋に潜む山賊ドサンピンじゃねえんだ、と槍持ちがいう。

「こんなところでアホ面さげて尻などだせるか」

「やっぱり、ムードは大事ってことか」

「そういうこった。女を見つけたらさっさと殺って、証拠と耳と服の切れ端も持って帰って──それからひとっ風呂浴びて色街にと洒落こもうじゃねえか」

「いいねえ。浮き世の垢を落とすにはもってこいだ」

 気の早い剣持ちが鼻息荒く、

「金は天下の持ち回りっていうし、せっかくだから船に乗ってくりだそうぜ」

「そいつは豪気だ」

 下卑た笑い声が重なった。

 ──リミットの一時間が経った。

「クソ、どうなってやがる」

 剣持ちが唸った。

「これじゃもどることもできねえぞ」

 そういうと忌々しげに右手の木に一瞥をくれる。真新しい傷は目印にとつけたものだ。

 ふたりは道に迷っていた。

 環形彷徨リングワンダリングである。

 意図して違う道を選んだつもりが、いつのまにか同じところをぐるぐる回っている。

「喚くな、モンスターを刺激する」

 そうたしなめる槍持ちの相貌も疲労の色が濃い。

 臆面もなくあたり散らす剣持ちが反面教師となってかろうじて踏みとどまっているが、もし、無言が続いていたら彼も焦燥感に押し潰されていたであろう。

 いいしれぬ不安がヤスリと化して心をざらつかせる。

 腰にさげた袋にひっきりなしに手が伸びるのはそこに護符アンクがあるからだが、効果が元いた世界の熊避け鈴ていどの安物では気休めである。無為に時間を費やせば費やしただけリスクが高まる。これで落ちついてなどいられるか。

 ベテランの彼をして初めての異常な体験であった。

 違和感がいくつもある。

 そのさいたるものが生物の不在だ。

 森は命で満ちている。

 招かれざる侵入者に小動物やモンスターが警戒して、あるいは様子見で身を潜めるは充分にありえることだが、鳥のさえずり、虫の羽音すら聞こえぬのは、一体? 月なみな表現を許すなら嵐の前の静けさという言葉が脳裏に浮かぶ。

「おい」

 弾んだ声が槍持ちを現実にもどした。

「まだ、主よ、いずこへと天を睨むには早かったみたいだぜ」

「森林火災ってわけじゃなさそうだ」

 節くれだった指がしめす先で煙があがっている。

「おおかた、冒険者が野営でもしてるんだろう」

「盗賊に追われて森に逃げたとでもいって助けを求めるか」

「だな、堅気のふりならお手のもんだ」

 その言葉に嘘偽いつわりはない。槍持ちが浮かべた柔和な笑みは──双眸の奥に宿る禍々しい意思の光さえ瞑目すれば──上得意客に揉み手する大店の三番番頭のそれである。元いた世界の創作マナー詐欺師が顔色なからしめる武張ったな仕草も、生き馬の目を抜くラウドの住民が相手とあれば許される。こちらではお客さまは神さまと仰ぐのは必要条件で、疫病神を排除する胆力も必要とされる。

「場所が場所だから低ランクの坊やってところだろう」

「なら、用ずみになったら後ろからばっさり殺るのはわけねえか」

「ちょいと心は痛むながな」

「仕方がねえ。冒険者に死はつきもんだ」

 十年もふりを続ければ否が応でも顔はしられちまう。どこで勘のいい餓鬼があらわれるかわかったもんじゃねえ、と剣持ちは肩をすくめる。

「では、行くか」

「ああ、行こう」

 ふたりは足どり軽く煙を目指す。

なろう系の漫画を読みふけってました。

ちょっとした勉強のつもりだったのですが、乱読の結果、どれがどうだったかさっぱりな状態です。設定が似通いがちのジャンルものあるあるですね。

それでも、ストーリーそのものはおぼろげでも、ここの箇所はキラリと光るものがあったと印象に残っている作品はあります。

願わくばわたしの物語もそうであって欲しいものです。

それでは、また、次回にお会いしましょう。

よろしければブックマークと高評価、いいね、感想、レビューをお願いします。

名城食品の2食味噌煮込みうどんを食べながら。

追伸

映画やドラマはネタバレしてたほうが見やすいという意見があるようですが、その気持ち、少しわかります。

と、いっても、わたしの場合は違う理由ですが──。

重大なストーリーに関することは知りたくないです。ですが、枝葉で確認しておきたいことがあります。

近頃の風潮とでもいいますか。武士の情けで名は伏しますがとある作品を観ていた時のことです。脈絡もなくLGBTがでてきまして、気になって原作(元ネタ?)を確認したところそういう要素は薄く、つまり蛇足でして本筋の邪魔にしかなってない。

LGBTをとやかくいうつもりは毛頭ありません。

仲良きことは美しきかな、です。

誰だって幸せを求める権利はあります。

が、しかし、ストーリーを遮ってまで社会や政治問題を娯楽作品に強引にそれも長尺でねじこんでくるのは良識を疑います。

そういった主義主張が是が非でもしたいのであれば他人さまのものを拝借せずに、ドキュメンタリーなりそれに適した作品で発表してください。

騙し討ちみたいなやり口はかえって反感買うだけです(ま、圧力を怖れて保険につけたしたというのなら同情の余地はありますが)。

重いテーマを盛り込んで後味を悪くしたら高尚という考えはわたしの苦手とするところです。あてこすりは別として、表だってとりあげるつもりはありません。

ただし、悪辣にもFBIの警告から始まる動画を売りつけてルッキズムを助長する極悪人に正義の鉄槌をくだすべく意識の高い市民がたちあがり、モデルと似ても似つかない醜女をヒロインにする洋ゲーを見習えと声高に叫ぶ姿を見たら、さすがに目頭が熱くなるなど悠長なこといってられずに悲憤慷慨して抵抗運動に参加します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ