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氷の微笑

 芸能の世界が夜型なのはこちらも同じである。

 隣室からジェシカがあくびを噛み殺しながらあらわれたのはホテルの厨房の竈から空腹を誘う匂いがたちのぼりはじめた昼前のことであった。

 黒のネグリジェ姿である。

 裸でいるより卑猥な姿であった。

 それは服と呼ぶにはあまりにも脆弱で、秘めやかな部位をレースがかろうじて隠しているにすぎず、目を凝らせば見えるのではと錯覚させる扇情的な代物であった。無論、野暮なラインなどない。天然の美である。下着の援用なくとも双丘は重力に抗い、きれいな稜線りょうせんを描いている。

 加えて甘い香りが鼻孔を刺激している。桃や胡桃に似た男を誘惑するそれは彼女の体から発する自然じねんと、わずか一グラムの採取に二千本を必要とする薔薇の精油──ラクトンと最上級の香水の混合である。この合わせ技には慣れたはずのマネージャーも抗しがたいようで頬がうっすらと上気していた。

「おはよう」

 芸能人らしい時間を無視した挨拶をなげやりに放ってから十握に気づくとジェシカの紅唇がポカンとOの字となった。

「あなた、本当に冒険者?」

 手持ち無沙汰から十握は支援者からのプレゼントのチェックを手伝っている。

 しかも、添えられた手紙に目を通している。

 関係代名詞を多用した、大仰な形容と古典の引用が鼻につく、知識階級特有の持って回った文章である。

 これが冒険者という括りで考えればいかにおかしいことか。

 敵娼あいかたに送るラブレターですら代筆させるのが彼らである。活字など報告書以外は見たくもない。そんな時間があれば酒を優先する手合いである。

 冒険者は死と隣りあわせゆえに享楽的で傲岸不遜な傾向がある。

 常時、アドレナリンやテストステロンを脳が分泌していればそうなる。

 ギルドの一階で安く酒を提供するのは刃傷沙汰を防ぐ飴である。

 酒屋の角打かくうちより安く飲めて肴が豊富とくれば──しかも、ツケが利く──九九はからっきしの連中でも配慮と遠慮は覚えるようになる。

 素手ゴロならどうぞご自由に、ちょうどいい酒の肴と野次馬根性剥きだしでやんやの喝采が飛ばし、金を賭ける者まであらわれる始末だが、激昂した三下が剣を抜こうものなら福利厚生を奪われては大変と一致団結して袋叩きにする。

 窓口のクレアもそう。

 美しいものを前にすると人は心穏やかになる。怒りを忘れる。

 よくおもわれたい一心で紳士的な振る舞いを心がけるようになる。

 そのさいたるものが十握である。

 だから、十握がいるとギルドは図書館もかくやの静けさとなる。

 だから、息を飲む凄絶な美を前にして、心ここにあらずのウェイトレスが坊主頭の額に坊主頭がおのれの股間に酒を注ぐ悲喜劇がおこる。

 車夫や火消しとならぶ無頼漢の代名詞らしからぬ行動はベッドに未練のあるジェシカの目を醒ますに充分なインパクトがあった。

「よく、いわれます」

 よくあることなので受け答えは慣れている。

「いろいろと掛け持ちしてますので」

「なるほど。で、これは素朴な疑問なのだけど本業ってどれになるの? パン屋の用心棒? トラブルシューター? 遠出するのもパーティーを組むのも拒否していて冒険者がメインは考えにくいし──」

 そうそう、裏社会の顔役というのもあったわね、とジェシカはいう。

「一番、身の丈にあってしっくりくるのは釣り堀のオーナーですかね」

「らしくないとこを選ぶのね」

「平和主義者じゃないので喧嘩は苦手でして。──で、今日の予定は? わたしとしては部屋で読書などおすすめしますが」

「そうね」

 ジェシカは椅子に座ると足を組む。

 そこに恥じらいは微塵もなかった。

 貴人は裸を見られることに抵抗が少ない。元いた世界でも身分の壁が顕然と存在した頃はそうである。同じ人と見なしていないからだ。使用人など道具でる。道具の感情など歯牙にもかけない。だから、妙齢の女性が着替えから入浴と肌を晒して平然としていられる。椅子の位置のわずかなズレすら下の者に直させる封建社会において──貴族のなかでも武を重んじる家柄は、比較的、緩い。常在戦場である──ハリウッド映画にありがちのソファーにふんぞり返った白人の悪役が現地住民を顎で使うシーンにいたたまれない気持ちになる十握のほうが異端である。

「体が鈍ってるから動かしたい気分ってところかしら」

「乗馬でもしますか?」

「それもいい案だけど」

 艶冶な笑みを浮かべてジェシカが足を組み替える。

「あなたのレッスンを受けてみたいの」

神さまが欠点のひとつもあったほうが魅力的と十握の嗅覚を鈍くしてあるのでせっかくの甘い香りも効果は今ひとつのようですね。

お久しぶりです。深層組の二次創作がひと段落ついて、さあ、続きを書こうとなったのですが、ストーリーに齟齬がないように読み返していたり、システムの違いに戸惑っていて遅くなってしまいました。

特にこちらは上書き保存は手間です。集中力が切れるので改善してもらいたいところです。

さて、今回はなにをお話しましょう。

オリエンタルラジオの中田さんの発言にしましょうか。

みなさん、ご存じのこととおもいますので説明は省きます。

これってダウンタウンの松本さんをガンダムに置き換えたら単純明快な話です。

いつまでも一線にいられると新規のロボット物が育たない。ここらで退いて後進に道を譲ってはくれないか?

ファンからすればうるせえ、他人が楽しんでるものにケチつけるな、おまえの事情などしったこっちゃないという話ですよね。

そりゃ、ま、上がつかえていることは確かでしょう。いなくなればじぶんが繰りあがるのではととらぬ狸の皮算用はわからなくもない。

ですが、この手の裏事情を一般に発信するのは野暮というもの。

しかも、発言者が中田さんとくれば反発は必至です。

どう考えたってそれをいっていいのは──愚痴をこぼして大目に見てもらえるのは──なんとか表舞台に引っ張りだそうとするもののうまくいかず、面白い若手が埋もれている現状を嘆く中堅どころの芸人であって、外野の中田さんではない。

それと、松本さんの『遺書』の引用という、知的レベルが要求されるうんぬんは悪手でしたね。笑いの質が違う。中田さんのしゃべりで声をだして笑ったことないですし。ま、これは個人差があるのでわたしと合わないだけかもしれませんが。

話題性が目的だったとしたら、少々、攻めすぎましたね。

YouTubeで教鞭をとる大変聡明であらせられる中田さんが対案なく──松本さん不在の穴埋めを提案するでもなく──投げっぱなしのジャーマンみたいに強い口調で訴えるだけなんてそこらの夜は峠で運動会のチンピラでもできることして大きな事をやりとげた気になるとは考えにくいので売名の可能性は高いとおもっています。

ま、根強いファンがいることですし、やりすぎたからといってただちに人気が凋落するということはないでしょう。おそらくですが、新規を獲得するために古巣をネタに露出する必要があったのかもしれませんね。ひと昔前の夏になると日本にもどってきて他の芸人ではなかなかいえないことをズバッといって話題をさらう野沢直子さんの焼き直しみたいなものです。

野沢さんは当時の大物占い師をババア呼ばわりして喝采を浴びました。

今は誰をいじったら適任になるのでしょうね。

少なくとも、松本さんでないことは確かです。

それでは、また、次回にお会いしましょう。

江戸前エルフを観て、東照大権現さまが召喚したご神体とはいえ、その美しさの前に理性を溶かした社人や氏子がいたのではと妄想を膨らませながら。

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