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夜会

 ドアベルの音にバッカスが夢の世界から帰還したのは家々の壁が緋に染まり、竈から煮炊きの匂いが漂い始めた夕刻のことであった。

「いらしゃい」

 値踏みするような視線を送ったバッカスが来客を認識した途端に満面の笑みを浮かべる。

 睡魔は一瞬にして消失した。

 なのに視界は薄く紗がかかっている。

 無理もない。夢で見た理想の女性アニマより美しい男が眼前にあらわれたら夢現にもなろう。

「届いてるぜ」

「すみませんね。保管所みたいなことをお願いして」

 十握がいうと、いいってことよとバッカスは手を振る。

「大事なお得意さんへのサービスさ。それに、兄ちゃんが落とす額を考慮したら、本来は、こっちから参上するのが筋道ってもんだ。居候の身でそれは大袈裟だって兄ちゃんがいってくれるおかげで楽させてもらってるんだ。これくらいやっても罰は当たらんよ」

 大きな麻の袋がカウンターに置かれた。

 中身はクリーニングにだした替えのコートである。

「助かりました。さすがに血のついたコートでディナーと洒落こむのは気が引けます。かといって脱いだら寒い」

 十握はコートを着替える。

「珍しくモンスターでも狩ってきたか?」

「刃傷沙汰にでくわしまして」

「そいつは災難だ」

「まったくです」

 玲瓏たる相貌にわずかだが翳りが生じる。

「親の仇だ。刑に服す覚悟はできている。だから、見逃してくれと切々と訴えれば、どうぞ、本懐を遂げてくださいという話だったのですが──」

「莫迦が舐めた口きいて台無しにしちまったか」

 雉も鳴かずば撃たれまいに、と十握は慨嘆する。

「あきれたいいぶんですよ。『法律に殺しをしてはいけないって条文はどこにもねえんだ。仇討ちの邪魔するんじゃねえ』と鳩を追っ払うみたいに手を振る始末で」

 普通は、虫けらを追っ払うみたいに、であろう。不自然なのは、十握は元いた世界のハロウィンに自販機を壊して怪気炎をあげる人のコスプレより虫が嫌いで、口にするのもおぞましく、それで鳩にいいかえたのである。

「背伸びしてそのていどとは情けねえ。一知半解もいいところだ。あたり前のことは紙の節約で省略するもんさ」

「腹がたって気がついたらモジャモジャの髪を掴んで川に投げこんでました。泳ぎが苦手らしくてあっという間に視界からいなくなりました」

「当然の報いだね」

 バッカスは毛量の多い相手となると、俄然、辛辣になる。男の価値は髪じゃない、筋肉だと胸を張っていても、どこかに、まだ、未練が残っているようだ。

「となると、親の仇と目された野郎はモジャモジャの失言で命拾いしたわけか」

 片手落ちは釈然としねえな、とバッカスは唇を尖らせる。

「あれが命拾いになるのかどうか」

「お、含みのあるいいかただな」

「恨まれるだけのことはあります。開口一番が『助けてくれと頼んだわけじゃない。おまえが勝手にやったことに金は払わねえぞ』でした」

「蛮勇でもそこまでいえりゃたいしたもんだ」

 いいぞ、おれ好みの展開になってきた、とバッカスは誕生日プレゼントを前にした子どものように相貌を輝かせて先を促す。

「学習能力が皆無の者に説教しても徒労に終わるだけですからね。利き足の関節を増やすと川に放流してきました」

「下流か常世で喧嘩の続きをしてるかもな」

「では、予定がありますので」

「デートかい?」

 バッカスが弄うように訊く。

「そうおもいますか?」

「ひとりで外食が──特に晩飯が苦手な兄ちゃんがめかしこんでディナーとくれば同伴者が女だということくらい、兄ちゃんのいうベーカー街の探偵でなくったって見当がつくってもんさ」

「及第点はさしあげますよ」

「詰めが甘かったか」

「デートというよりはおもてなしですね」 

今回もVtuberの続きです。

あれからいろいろと覗いてみるといっぱいいるんですね。

王道のアイドル売りにとどまらず、酒クズやらお水やら前科者やら心が風邪を引いている人だったりと実に多岐にわたる。

そのなかで、ひと際、目を引いたのが深層組です。

これ、絵じゃなくて生身で配信してたら間違いなく引いてたでしょうね。

長女は口が悪いだけですが、深層というだけあって妹たちは常軌を逸しています。

アングラ感がいい。ニコ生は見たことないでわかりかねますが、コメント欄に昔のニコ生みたいとありましたから相当なものでしょう。

FBIの警告から始まる動画の冒頭のインタビューが重くてプレ賢者になるタイプのかたは遠慮いただくとして、よくも悪くもYouTubeは覗き窓で非日常の刺激を求めているかたは視聴をおすすめします。──ま、とある理由で十握は見れないでしょう。よくも、まあ、あれと同居できるものだとあきれを通りこえて感心を覚えます。

ただ、これは性格の悪さゆえでしょうが、心の片隅で疑っているじぶんがいる。

YouTubeは百鬼夜行みたいなとこありますからね。

企業が運営していながら、ハングリー精神のアピールや同情心を引こうと、貧乏人が一か八かの勝負でなけなしの金を叩いてチャンネルをはじめてみましたみたいのあるじゃないですか。

笑いのために盛ったり嘘をつくのはいいんですよ。でも、不幸話でそれはいただけない。善意を踏みにじられた気になる。

あ、彼女たちが嘘をついてるといってるわけではないです。

わたしが疑り深いだけです。

Vだからあけすけにしゃべれるというのが真相でしょう。

特に齟齬は見受けられませんし。

それでは、また、次回にお会いしましょう。

よろしければ、ブックマークと高評価、感想やレビューをお願いします。

クリスマスイヴ、感謝の正拳突きの切り抜きを見ながら。

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