あなたの名前
あなたが生まれたときのお話なんだけどね。
なんて名前をつけようか、色々と考えたんです。
愛とか、美しいとか、望とか、いい言葉を使おうかと悩んだんですけどね。
なんといいますか、私の中で、そういう言葉が、ぼんやりしてまして。
すばらしいものではあるけれど、確実に目に見えるものではなくて。
何だろう、目標的なもの?とにかく、はっきりしないというか。
素敵な言葉ではあるけれど、名前に使うとなると、躊躇したんです。
それでね、どうしたもんかと考えまして。
色々と、考えましてね。
どういう人に、なってほしいかということを、考えたんですよ。
私は、どういう人になってほしいんだろうと考えましたらね。
なんていうんですかね、人あたりのいい人になってほしいと思ったんです。
いろんな人がいますからね。
優しい人も、怖い人も、おかしな人も。
人って、ガラス瓶みたいなものだと、常々思ってましてね。
丁寧に扱わないと、ひび割れてしまうとか。
ぶつかり合うと、砕けてしまうとか。
ガラスのハートとか言うじゃないですか。
なんだか、私の中で、そういうイメージが、固まってたみたいでね。
ガラス瓶同士がぶつかり合って傷がつくのを防いでくれるような、人になってほしいかな。
そう考えたんですよ。
当時、人の頭の固さにこっぴどく打ちのめされたことも、関係しているでしょうね。
私は、ひどくやわらかい名前をつけたいと思ったんです。
人と人がぶつかり合う前に、ふわりと衝撃を逃がしてくれる、柔らかい、布。
孤独で繊細な瓶を、そっと包み込む、柔らかな、布。
ずいぶん、育ってきたけれど、まだ少し、ごわついてるかな。
今はまだ、少しぎこちない布かもしれないけどね。
もうまもなく、ふんわり優しく人を包み込む、柔らかな布になると思ってるんですよ。
大丈夫。あなたのやわらかい考え方は、ずばり、名は体をあらわす。
柔らかい布は、瓶を守るだけじゃなく、磨いて輝かすこともできるはず。
そういう名前を、あなたは持っているんですよ。
あなたにそういう名前をつけた私は、ずいぶんいい名前をつけたもんだと、満足してるんですよ。
そう、おもちなんですね。