表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/248

対峙

自分に向かって飛んでくる大石をじっと見据えて、ケインバッハは腰を落とす。

そして両手で柄を強く握ると、刃の向きを変えて柄を前面に向けた。


背後にはまだエレアーナがいる。

避けるという選択肢は無い。


・・・俺の実力では、こんな大きな石など切れる筈もない。

ならば、砕くか割るか。

それしかない。


握り替えた柄を思い切り大石に叩き付けた。


手首に大きな衝撃が走った。

鉄製の柄が石を三つに砕く。


「へぇ、以外と冷静に動けるもんだねぇ。大したものだ。・・・じゃぁ、二つにしてみようか。上手く躱せるごとに一個ずつ増やしてやるよ」


両手を上にあげようとする賢者くずれの肩の向こうに、遠くからこちらに向かって走る人影が見えた。


あれは・・・ベルフェルトとライナスバージ。

来てくれたのか。


先ほどの衝撃で痛めたのか、手首が軽く疼き始める。


大丈夫だ、まだやれる。


痛みを堪えて柄を握り直す。


背後の二人に気づかぬままバルクルムが両手を上げる。

今度は大石が二つ浮き上がった。


走り寄る二人が眼を大きく見開くのが見えた。


ライナスバージは、走りながら懐の短剣を取り出し、バルクルムに向かって投げる。


だが、それよりも早く、バルクルムは両手を横に交差するように振った。

右方向から、そして少し遅れて左方向から、それぞれ大きな石がケインバッハへと向かって行く。


バルクルムの右肩に、ライナスバージの投げた短剣が突き刺さる。


「ぐぅっ!」


痛みに顔を歪めるバルクルムだが、一度飛ばされた大石の速度は緩まない。


ケインバッハは、手首の疼きに構うことなく、再び柄を石に打ち付けた。

柄が石にぶつかると同時に、手首に大きな衝撃と痛みが走る。


右方向から飛んできた石は、めり込ませた柄によってケインバッハの目の前で二つに砕けた。

だが、左から飛んできた石がもう目前まで迫っている。


間に合わない。


ああ、でも大丈夫。

あの二人が来たのなら、エレアーナは無事だ。


良かった。


そう思った時。


恐ろしいほどの風圧を背後に感じて。

後ろから、何かが凄まじい勢いでケインバッハの頬をかすめた。


刹那、大石が眼前で砕けた。

粉々に。


「・・・え?」


横に見えるのは、太く逞しい腕。

突き出されたのは、固く握りしめた拳。


大石を割った拳は、血が滲んでいて。


呆然とするケインバッハの後ろから、聞きなれた声がする。


「ギリギリだったな。間に合ってよかった」


これは・・・。


「・・・カーン団長?」

「ああ。エレアーナ嬢はこちらで保護した。よくやったな、ケインバッハ」


そう言うと、後ろから大きくてごつごつした手が、ケインの頭をぽん、と叩いた。


保護、した。

無事・・・だった。


ほっとした途端、手首の猛烈な痛みに意識が向いた。

ケインの目線に合わせてカーンも視線を落とした。


「あー、こりゃ、ひどいな。骨にヒビが入ってるかもしれんぞ」


そう言うカーン団長の左拳は、ぽたり、ぽたり、と血が滴っている。

それだけではない。


見れば、同じく左側の腕に少し大きめの傷があり、そこからも出血している。


「カーン団長こそ大丈夫ですか? 拳と・・・その腕の傷・・・」

「ん? ああ、これか。大丈夫だ。自分で刺してみただけだから」

「は?」

「いやぁ、どうにも同じところをぐるぐる回ってたもんでな。惑わされてるのかと思って、こう、剣でグサッと・・・」

「これはこれは。おい、聞いたか、ライナスバージ。どうやら痛いのが嫌じゃない奇特な人物がいるようだぞ。それもよりによってお前の肉親に」

「・・・親父・・・。少しは加減しろよ」


存在を全く無視されたまま、話が進んでいることに気づいたバルクルムは、片方の手で肩の傷を押さえながら、懐にもう片方の手を突っ込んだ。


「賢者であるこの私を無視するなぁっ! ここにいる者ども全員、これを頭から被って死んでしまえ!」


そう叫んで、取りだした小瓶の蓋に手をかけようとした瞬間。


「させるか」


ライナスバージの抜いた剣が、バルクルムの首筋にぴたりと当てられた。


「ひっ!」

「動くと切るよ?」


普段の明るさをすっかり顰め、殺気のみを漂わせるライナスバージに、バルクルムの動きが固まる。


「いくら金を積まれたか知らないが、まだこれ以上やるってんなら、腕や足の一本や二本や三本、取られる覚悟は出来てるんだろうな?」

「・・・」

「おい、誰か手伝ってくれ。こいつを拘束する」


ふたりの騎士が駆け寄り、左右からバルクルムの腕を掴んだ。


後ろ手に拘束しようとライナスバージが手をまわした時。

バルクルムの足元が、一瞬、ふらついて。


ほんの少しの隙間が生まれる。


バルクルムは、にやりと笑った。


「おぉっと、手が滑った」

「っ!」


その間をついて。


バルクルムは、手に持っていた小瓶を空高く放り投げる。


「・・・!」


騎士たちから、声にならない悲鳴が上がる。


小瓶の蓋は閉まったまま。

だが、地面に落ちれば、確実に割れる。


「はっはぁ! 頭から被りたくなきゃ、落っことしてガスにしてやるよ。みんな仲良く永遠におねんねしちまいな!」


意気揚々と叫ぶバルクルムを嘲るように、冷ややかな声が背後から響いた。


「・・・死ぬなら一人で死ね。他人を巻き込むな。この愚か者の下衆野郎が」

「なっ、なんだと?」


顔を怒りに染め上げ、バルクルムが振り返る。


言葉と共に、前にすっと歩み出たのは、ラファイエラスだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ