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俺は彼女の盾だから

「それから、息子を君にも会わせておこうと思ってね」


シュタインゼンは、それまで隣で黙って話を聞いていた息子、ケインバッハに視線を向けた。

ケインバッハは、静かに黙礼する。


「今のうちに、こいつにも誰が味方か、ちゃんと知ってもらっておいた方がいいだろう? その方が、何かあったときの混乱が少なくて済むし、助けを求めるにしても伝令を頼むにしても、敵味方がはっきり識別できなければかえって危ないしね」


相変わらず、にこやかな顔で、さらっと物騒なことを言ってくれるよ。

何かあったときって、それ、あんたの息子が惚れた女に危険が迫ったときの事だよな?


オレは、従者としての後ろの立ち位置から、さりげなくケインバッハの様子を観察する。


・・・だが、顔色も変えないか。


「確か、ご子息は、ロッテングルム騎士団長から個人的に剣の指南を受けていると、お聞きしましたが?」


リュークが興味深げな顔で、ケインバッハに話を振る。


「騎士団長から指導を受けて、まだ半年ほどです。まだまだ剣の腕は未熟ですが、何かの時には盾の一つくらいにはなれるかと」

「盾・・とは。大した覚悟ですな」


リュークザインが、薄く笑みを浮かべる。


気に入ったか。

うむ、リュークは、こういう真面目な奴が存外、好きなのだ。

悲しいことに、これまでオレたちの周囲に、このような、誠実、真摯をモットーとする男は皆無だったしな。


そして、この生真面目男は、なかなか愉快な気分にさせてくれる男でもあって。


馬車の中で既に顔合わせを済ませてたオレは、あの、とぼけたシュタインゼンの息子とは、とても思えないケインバッハの生真面目な対応に、腹を抱えて笑いこけてしまった。


もちろん、本人の目の前で。思いっきり。


多少の思惑もあって意図的にやった行為ではあったのだが、ケインバッハは怒りもせず、侮辱ともとらず、ただ、ぼそりと、ロッテングルム親子にも、初めて会った時に同じように大笑いされたな、と呟いただけで。

そして、心底、理由が分からないのだが、と。


ほら、そういうとこだよ、と父親にまで突っ込まれて、笑い飛ばされて。


なるほど、これまた随分と真っ直ぐ育った男なのだな、と感心させられた。


オレのような絡め手が好きな男でも、なぜか、真正面からぶつかってみたくなるような、四つ手を組んで勝負したくなるような、そんな気分にさせられて。


こいつが相手の勝負では、いくら王太子殿下といえど、なかなか厳しいかもしれんぞ、などと外野から考えたりしたのだ。


「リュークザイン・ライプニヒ公爵」


ケインバッハは、居住まいを正し、よく響く声で言った。


「これまで陰ながら助力頂いたこと、父から聞きました。心から感謝申し上げます」

「む・・?」

「今後、賢者くずれが現れた際、もしくはエレアーナ嬢に何らかの危険が迫った際には、いつ如何なる場合でも構いません。どうぞ、何なりと役目をお申し付けください。どんなことであれ全力を尽くし、必ずやお役に立ちますことをお約束いたします」


そうして、深々と礼をとる。


リュークザインは、一瞬、呆けて。

そして、くっ、と軽く笑んで。


おお、流石だな。リューク。

お前が腹を抱えて笑うところを、是非とも見てみたいと思っていたのだが。


その時、少しばかり、リュークとオレの目が合って。


オレが軽く肩を竦めると、リュークはやれやれという顔で笑った。


そのとき、オレは少しばかり驚いたのだ。


リュークとは、かなり長い付き合いだが。

それこそ生まれた時から兄弟のように共に過ごしてきたが。


そんな温かい目で誰かに微笑みかけるリュークの姿を見るのは、初めてだったから。

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