苦しくて、辛くて
アリエラさまとカトリアナさまは、エントランスに出迎えに出た私の顔を見るなり、泣きそうな顔で飛びついてきた。
「エレアーナさまっ! ご無事でよかったですわ!」
「知らないところで、そんな恐ろしい事が計画されていたなんて、もう、本当に、何て言ったらいいのか・・・」
息が出来なくなるかと思うくらい、ふたりに両側からきつく抱きしめられる。
一緒に迎えに出ていたアイスケルヒが、エレアーナへの親愛の情に感謝を示しつつ、そっとふたりを引き離す。
アリエラたちは真っ赤になって恥じらって、それがまたなんとも可愛らしい。
ふたりの恥じらう姿に薄い笑みで応えた後、アイスケルヒは、実に優雅にサロンの入り口まで皆を案内した。
エレアーナはそんな兄の姿を見て、氷の貴公子と呼ばれているとの話だったけれど、やはり噂は噂、兄はやはり優しい紳士な態度を崩さないわ、などと考えていた。
そんないつも友人同士の姦しさも、お茶を飲んでひと息吐いたら、なんだか少し様子が変わり始めて。
「・・・こんな事を言ったら、エレアーナさまに怒られてしまうのかもしれませんけど・・」
なんだか嬉しそうにアリエラが話を切り出した。
「お顔を見るまでは、心配で心配でたまりませんでしたの。・・・ですが、ふふ、ちょっと安心しましたわ。エレアーナさま、すごくお幸せそうです」
「へ?」
「ええ、本当に。それに、なんでしょう。もともと素晴らしくお綺麗でいらしたけど、さらにお美しくなられましたわ」
嫌味でも、好奇心でもなく、素直に心から、そう言ってくれているのは、わかる、けど。
幸せそう?
さらに美しく?
・・・それは、どういう意味なのかしら。
いま一つ、よくわかっていないエレアーナを他所に、マスカルバーノ姉妹は会話をどんどん進めていく。
「今までのエレアーナさまは、なんていうのかしら、気持ちに余裕があったというか、もっとさらりと受け止めていたというか・・・」
「ええ、わかりますわ。あの天然なエレアーナさまも、いい味出してましたけれど、今はもう完全に乙女ですわね」
「・・・乙女?」
今はって、私は前から乙女ですよ?
「そうですわ。恋する乙女」
途端に、ぷわっと顔が赤くなるのが、自分でもわかって。
ええ、なに? 妄想がたくましいだけかと思ってたけど、実はものすごく鋭いお方だったりするの?
「ふふ、エレアーナさま。お顔が真っ赤ですわ。なんてお可愛らしい」
「良かったですわね。これで殿下の今までの頑張りも報われるというものですわ」
・・・ダメだ、このふたりとは実力が違いすぎる。
というか、アリエラさまとカトリアナさまって、今の私の悩みの相談相手として最適なのでは・・・?
でも、ケインさまの話もしなきゃいけなくなっちゃうし・・・。
「まぁ、でも、ケインバッハさまには、お気の毒ですけれど」
「そうですわね。エレアーナさまを心からお慕いしているご様子でしたものね」
ぶっ。
・・・危うく、飲みかけてたお茶を吹きこぼしそうになって。
え? この方たち、千里眼か何か?
凄い。
頼りになる、かも。
「あの・・・」
ぷるぷるぷるぷる
アリエラの肩が震えている。
カトリアナは両手を頬にあてて、目をうるうるさせている。
「まぁまぁまぁまぁ! まぁまぁまぁまぁ! そんな素晴らしい、夢のような展開が!」
「さすがは殿下ですわ! なんて太っ腹なのかしら! ああ、二人の麗しい殿方から同時に愛を告げられるなんて・・・。これぞ乙女の晴れ舞台ですわ!」
「・・・」
・・・ああ、おふたりが嬉しそうなのは、なぜかしら。
「殿下のような方なら、きっとスマートにエレガントにすべてをびしっと決められたに違いないわ。ああ、でもケインさまはどうだったのかしら。やはり、ここは格好よく? いえいえ、普段はあんな涼し気な顔で澄ましてらっしゃっても、告白の段となると実は・・・なんてこともあるわよね」
・・・す、鋭い。
「そうですわ、お姉さま。わたくし、きっとケインさまは、ひどく純情でいらっしゃると思うんですの。きっと、ものすごく緊張して、エレアーナさまの元に向かう時に、右手と右足が同時に出ていたり・・・なんてしていたら、可愛らしすぎです!」
そこまでじゃなかったけど、かなり近いです。カトリアナさま。
「ああ、そうね! それをケインさまがおやりになったら、ギャップがすごすぎて、一瞬で心臓を撃ち抜かれてしまうわ!」
う、撃ち抜かれる・・・。心臓を撃ち抜かれるって。
・・・まぁ、確かに、あの照れたお姿は可愛らしいわよね。
普段との差が・・・。
「エレアーナさま? どうかなさいまして?」
あれ、ど、どうしよう。
あのときのこと、思い出したら。・・・また、心臓がばくばくしてきた。
もう、体が熱くて、胸のあたりがキュッとして、息が、しづらい。
これが、もし、恋というものなのだとしたら。
私は、これまで、ものすごい勘違いをしていたのだと思う。
だって、もっと楽しいものかと思ってた。
恋をするって、もっと幸せな気持ちになるものだと、そう思っていたから。
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