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初心者には高度すぎます

あれから数日して。

ブライトン家にマスカルバーノ家からの使者が来た。


アリエラとカトリアナのふたりが、ブライトン公爵家を訪問したがっているのだが、伺っても差し支えないだろうかと。


初めてのお茶会以来、こんなやり取りなどしたこともなく、3人で決めた日どりがくれば自然と集まりあっていた。


つまり。

マスカルバーノ家も聞かされたのだろう。

エレアーナの今の状態を。

賢者くずれに狙われているということを。


そして、それでもここに来たいと、エレアーナに会いたいと言ってくれているのだ。


ふたりの気持ちはもちろんだが、それを許してこうやって使者を立てた彼女たちの両親も随分と剛気な方々だと、エレアーナは驚いた。


危険だからもう会うな、と、自分たちの娘が巻き込まれないようにしても、おかしくない話なのに。

レオンさまやケインさまたちもそうだけど、みんな誠実すぎて。


嬉しすぎて、申し訳なくて、少し、苦しい。


父の了承を得て、早々に彼女たちの来訪の日が決まる。


ホルヘ孤児院のバザーで最後に会ってから、まだそんなに日も経っていないというのに、何だか随分とふたりの顔を見ていないような気がする。


まだ邸内に留まるようになって数日しか経っていないというのに、随分と長く閉じこもっているような気がして。


薬草畑もハーブ園も普通の温室だってあるから、どこにも行けないとしたって自分の好きなことは出来るのに。


みんなと一緒にあちこちに慰問に行って、何気ないお喋りをしながら笑い合うことが、どうやら自分が思っていたよりも楽しかったみたいで。


今まで、ひとりで過ごすのが好きだったのに。


不安のせいかもしれないけれど、みんなに会いたくてたまらない。


来訪を楽しみにみんなの顔を思い浮かべていると、マスカルバーノ家のふたりだけが浮かんでいるわけではないことに、はた、と気づいて。


・・・明後日いらっしゃるのはアリエラさまとカトリアナさまなのに・・・。


体が、ぶわっと熱を持つ。


自分で自分の頬を引っ叩いた日に、おふたりから伝えられた言葉が、お姿が、何度も何度も脳裏に蘇って。


・・・胸がどきどきして、苦しくなって、困る。


だって、あんな意識させるようなこと、おっしゃるから。


以前からあのお二方の人柄は、とてもご立派で、好ましく思っていたけれど。

今はもう、あんな、ほんわりした気持ちではなく、なんだろう、なんかこう、なんかこう・・・。


・・・もやもやする。


赤くなった頬を面白がられて、なぜか褒められて、はしたなくも泣いてしまって。

謝られて、跪かれて、髪に口づけを落とされて。

愛を告げられて、手を握られて。

・・・祈るように、懇願されて。


それを、あんな麗しい殿方おふたりに・・・。

もう、これは、恋愛初心者には高度すぎて。


あのときのことを思い出すだけで、顔が赤くなって、汗が出てきて、どうしたらいいかわからなくなって。


証明してみせるから、時間がほしい。

まだ答えを出さないで。

どうかしばらく、このままで。


・・・そんなことをおっしゃった、けど。


そもそも、すぐになんか答えられる自信が・・・ない。


経験の足りない私でも、おふたりの気持ちが生半可なものではないことくらい、よくわかっているから。


必ず、誰かが傷つくことも。


そして、傷つけるのは、私だということも。


だから、真剣に、誠実に、考えなきゃいけなくて。

答えはまだと言われても、やがてこの騒ぎが収束する頃、確実にその『時』がくる、から。


なのに。

あの日のことを、ちょっとでも考えようとすると。

・・・考えようとするだけで、自分が、自分じゃなくなるようで。


気が付くと花を切り落としてたり、お茶を思い切りこぼしてたり、水とお湯を間違えたり、している。


今は大好きなハーブティーさえ、うまく煎れられなくて。


もうポンコツぶりが凄すぎて、とんでもなく恥ずかしい。


ここ数日の、自分が仕出かした盛大な失敗を思い出し、思わず頭をぶんぶんと横に振る。

父や母や、兄からのぬるい視線も、どうにもいたたまれないのだ。


一つ、溜息を吐いて。


・・・ダメよ。今はまず、アリエラさまとカトリアナさまのことを考えましょう。


こんな緊迫した状況でも、変わらずここに駆け付けてくれようとする、大事な、大事な、私の友だちのことを。


・・・彼女たちだったら、何かいいアドバイスをしてくれるかしら。


一瞬、そんな考えが浮かんだものの、逆に彼女たちの妄想がどこまでも暴走しそうな気がして、やはり相談するのはやめようかなと、思い直した。


・・・でも、この時の私は、まだまだ分かっていなかったのだ。


恋愛初心者の私が、あのふたり相手に、その手の話を上手くごまかせる筈もないということを。


そして、自分が考える以上に、ふたりは私の幸せを思ってくれていることを。


私がそれを知るのは、彼女たちが来る、二日後のこと。

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