良かった
前代未聞の二人同時の告白大会が終わった後。
限界値を超えて、頭の中がぐるぐるしているエレアーナの邸を辞し、僕たち3人は馬車で王城へと向かっていた。
しばらくは、みんな黙って窓から外の景色を眺めていたけれど、ふと、通り道だし、と思いついてケインに声をかけた。
「せっかくだから、ダイスヒル邸の前を通ろうか。そしたら、そのままケインも帰れるしね」
「・・・ああ、そうだな。すまない」
「いいよ、ケインも疲れてるでしょ? ・・・慣れないことしたから」
横で、護衛のライナスがぶっと吹き出しそうになって。
あ、でも、なんとか堪えたみたい。
当のケインは、僕のからかいの言葉に、少し顔を赤くしただけで。
それから、ただ一言。
「・・・そうだな」
って、言った。
ふふ、本当にお疲れさま。
よく頑張ったよね。ケインなのに。
なかなか格好よかったよ。
君の誠実さが・・・あふれてて。
「その・・・、レオン・・・」
「うん?」
「・・・」
「・・・どうしたの? ケイン」
「・・・」
言葉を探してる。
どうしたのかな。僕を相手に言いよどむなんて珍しい。
にこにこと笑みを浮かべながら、ケインの言葉を静かに、待って。
「・・・ありがとう。俺に機会を・・・くれて」
さんざん悩んだ後に出て来た言葉は、今日の僕の無茶振りのお礼で。
そうか、よかった.
ずっと、謝りたかったんだ、君に。
僕ひとり、浮かれててごめんって。
君の大事な人を、危険な目に遭わせることになってごめんって。
・・・うん。よかった。
「・・・そろそろ、着くみたいだよ。ダイスヒル邸」
「ああ。・・・それじゃ」
「うん。またね」
軽く手を上げて、ケインを見送って。
再び馬車は、走り出す。
「・・・オレが口を出すことじゃないんですけど」
今までずっと黙っていたライナスが、二人きりになって、ようやく口を開いた。
「・・・良かったんですか? あれで」
僕は思わず、ふ、と笑む声が漏らしてしまう。
君は優しいからな、ライナス。
今だって気が気じゃないんだろう?
僕のことも、ケインのことも、まるで弟のように大事に思ってくれてるものね。
どちらを応援するにしても、君は辛いだろうな。
「・・・僕ね、エレアーナが大好きなんだ。あんな素敵な女の子、そうそういないって思ってる」
だから、ライナス。君にもちゃんと正直に話そう。
「王族や貴族は政略結婚が普通だし、王家や親が決めた縁談に従うのは貴族の義務でもある。そんな事はエレアーナもよく分かってるはずだ。だから、僕ひとりの意思で彼女との結婚を決めようが、このまま進めようが、そこにはなんの問題もない、よね?」
「・・・その通りです」
「だから、今回、僕が言い出した事は、まったく意味がないって自分でも分かってるんだ。本当に馬鹿馬鹿しい事を言ってるってね」
「・・・」
「もし、エレアーナが王妃になることを夢見るような子だったら、そして、・・・もし、僕のことを始めから好いてくれていたら。そしたら、きっと、遠慮なんかしなかったと思う。・・・あんな無様な失敗話なんかさらけ出さないで、前に進んでいたと思うよ。手放す可能性なんて考えないで、さ」
手放す可能性・・・言ってるそばから、胸がチクリと痛む。
「僕さ、けっこうショックだったんだよね。エレアーナが命を狙われているこの現状は、僕が作り出したものなんだってわかった時さ。・・・ケインはすぐにカーンに弟子入りを志願したっていうのにね」
「殿下・・・」
「もちろん、ケインだって、今みたいな事態を予測してたわけじゃない。僕と同じで、知らされていない情報が多かったはずなんだ。でもさ、同じ時間、同じ場所、そして同じ女の子に恋に落ちたっていうのに、えらい違いだと思わない? ・・・僕はすぐに彼女を手に入れようと動いて、ケインは彼女を守ろうと動いて。・・・あのときも言ったけどさ、最初から負けてるんだよ、僕は。このまま負けっぱなしで彼女を手に入れたって、あの子を幸せになんかできっこないじゃないか」
ライナスが息を呑むのがわかる。
こんな情けないこと、言ってごめん。
こんな未練たらしい男が、次期国王だなんて、笑わせる。
・・・でも、それでも、この意地だけは、どうしても張りたくて。
「エレアーナが皇太子妃になって、ゆくゆくは王妃になったとする。きっと民は幸せだと思うよ。あんな優しい子が国母になるのだったらね。そして実際、エレアーナは誠実に、心を込めて、その勤めを果たすだろう。でも、・・・でもね、彼女はそれで、誰よりも幸せになれるのかな。他の男と結婚するよりも・・・僕は彼女を幸せにできるのかな」
「殿下、それは・・・」
「だって、・・・だって、エレアーナは、もともと王太子妃なんて立場にも権力にも興味がないんだよ」
せめて、そんな憧れを、野心を、持っている人だったら。
婚約者候補の争いに巻き込んでも、仕方ないと思えたのに。
覚悟の上で頑張ってほしいと、言えたのに。
一緒に闘ってくれ、辛くても耐えてくれ、と。
きっと、僕は、言えた。
でも、そんな野心の欠片もないのが、エレアーナという人だから。
「・・・だから、せめて、この先はエレアーナ自身に選んでもらわないと、僕は・・・僕は、もう彼女の手を取ることが出来ない」
ライナスは大きく一つ、息を吐いた。
そして意を決したような、真剣な表情でこう聞いた。
「・・・無礼を承知で、伺います。これでもし、エレアーナ嬢がケインの手を取ったら・・・殿下は、どうされるんですか?」
「・・・ふふ。ライナスも言うねぇ。・・・うーん、そうだなぁ」
僕は握りしめていた拳を緩めて、ぽふん、と背もたれによりかかった。
「・・・もちろん、そのときは、王太子妃の座にふさわしい、素敵な令嬢をほかで探すさ。そして、誰よりも幸せになってみせるよ」




