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俺が強くなる理由

なぜエレアーナが狙われた?


そんな疑問が、あの後ずっとケインバッハの頭から離れなかった。


ライナスや、他の護衛の者たちが一斉に捕まえても、まだ取りこぼしが出たほどの人数を揃えて襲撃に臨んでいた。

それも誘拐や拉致などではなく、明らかに彼女に害を加えることが目的で。


第一王位継承者であるレオンハルトが、その場にいたにもかかわらず、彼らのターゲットは最後までエレアーナひとりだけで。


知らないうちに、あれだけの数の護衛がこちら側に揃っていたことも驚きだったが、結局はそのおかげで彼女は助かったのだ。


そうでなければ、彼女は今ごろ・・・。


言葉にするのも恐ろしい考えを、頭から振り払うかのように、軽く左右に首を振る。

普段はその意志の強さを示すかのような銀色の瞳も、今日ばかりは少し頼りなげで。


・・・俺は、何もできなかった。


守れるようになるのだと、努力をしてきたつもりだったのに。

少しは強くなれたと思っていたのに。


悔しさを噛みしめながらも、ずっと悶々と考え続けてわからずにいた疑問の答えは、翌朝、あっさりと父親のシュタインゼンから明かされることになる。


耳にするさまざまな単語に、少々気が遠くなりかけて。


・・・襲撃に、賢者くずれに、呪いって、一体、何がどうなってるんだ?


そんなケインを横目に、父はいつものように、天気の話でもするかのような何気ない口調で話を続けた。


「まぁ、お前の目の付けどころは良かったんじゃないか? カーンに剣の指南を頼んだあたりとかな。あの時は、お前もなかなか先が読める奴だと感心したよ。今回はお前の見せ場はなかったようだがねぇ。まぁ、正直言って、そんなのはどうでもいいよな。結局、彼女は無事だったわけだし。・・・それに彼女が危険だというこの状況が、これで終わったわけでもないし」

「・・・っ」


その言葉に込められた意味に、ケインがぴくりと反応する。

口元に蓄えた髭を右手で軽くさすりながら、シュタインゼンは物騒な話を淡々と続けた。


「賢者くずれの登場で、エレアーナ嬢はこの先もっと危険な目に遭うかもしれない。だがしかし、だ、もしかすると、うまく事前に防ぐことだってできるかもしれない。・・・相手が相手だからねぇ、陛下も私も、恐らく味方側の誰も、こればかりは先を読むことなどできやしないのだ」


そこで、シュタインゼンは髭を撫でる手の動きを止めて、ケインバッハをじっと見据えた。


「・・・なぁ、ケイン。我々皆が、どうしようかと考えあぐねている、この状況だ。お前が剣の鍛錬に励んだことで、エレアーナ嬢が無事でいられる確率が上がったのだとしたら、それは凄い事だよなぁ。であれば、だ。最終的に、お前の腕を見せつける機会がなかったとしたって、そんなことは構わないよな? ・・・それともお前は、まさかそこが大事だって思っていたりするのかい?」


頭から冷水をぶっかけられたような、頬を思い切り拳で殴られたような、胸ぐらを掴み上げられたような。

そんな、強い衝撃に身が引き締まる感じがした。


・・・その通りだ。

誰がエレアーナを守るかなんて、どうでもよかったんだ。


・・・彼女さえ無事なら。


それが俺である必要は、まったくなくて。


万が一の時、彼女を守る盾のひとつとして数えられるのなら、それで。

彼女を守れる確率が上がるのなら、それで、いいんだ。


自分の手で守りたい、そうでなければ意味が無い。

そんな気持ちは、俺のつまらないエゴで。


エレアーナの無事とは、なんの関係もなく。

・・・くだらない、ちっぽけな、俺の見栄でしかなくて。


父が俺の顔を見て、満足そうに笑う。


「・・・ふむ、ちょっとはマシな顔になったかな?」


そして、くいっと紅茶を飲み干すと、父はおもむろに立ち上がり、それからじとり、と少し悪戯っぽい眼で俺を見た。


「まぁね、男として生まれた以上、惚れた女くらい自分の手で守りたいと思う気持ちはわからんでもないがね」

「・・・」

「だが、男としての矜持よりも、惚れた女が最後まで無事でいてくれる方がよっぽど大事じゃないか。・・・まぁ、少なくとも、私なら、そう思うがね」


顔を赤らめる自分の一人息子を面白そうに眺めながら、言うべきことは言ったとばかりに踵をかえす。


じゃあ仕事に行ってくるよ、と部屋を出て行く父の背を見て、ケインは、なんだろう、とても大きな何かを感じて。


敵わないな。


いっそ清々しいほど、人としての、男としての差を感じて。

だから、今日のところは、あっさりと負けを認めることにして。


ぐっと握った拳に力がみなぎる。


なるほど、さすがは一国の宰相。

人をその気にさせることなど、お手のものなのだな。


あの腹芸を、自分もできるようになる日が来るとは到底思えないが。


とにかく、父のおかげで自分の見つめる先が何なのか、はっきりと見えてきた。 


すっと立ち上がり、てきぱきと王城に行く用意を進める。

心の中で自分を叱咤しながら。


これ以上、くよくよするな。

見栄もプライドも捨てろ。


くだらないものは何もかも捨てて、一番欲しいものだけを手に入れるんだ。


そう、強く誓った。


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