表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/248

上には上がいるもので

狙いは僕だと思っていた。

きっとライナスも。そしてケインも。


だからライナスは僕の側にケインを置いた。そして僕を守れと言った。

だからケインは僕の側にいた。そしてナイフを隠し持った男を見て、僕の前に飛び出した。


みんな僕を守ろうとして。

僕を庇おうとして。


僕自身、身を守ろうと腰に下げた短剣の柄を握りしめていた。


……でも。

僕じゃなかった。


狙われたのは僕じゃなかった。


なのに、誰も側にいなかった。

誰も……エレアーナの側にいなかった。


みんな僕を守ろうとしていたから。


男の目が向かう先は、僕じゃなく。

僕のいる場所よりも少し東にずれた販売スペース近く。

そこにいたのは、子どもたちに囲まれた……エレアーナ。


嘘だろ。


男の狙いに気づいた瞬間、背筋が凍りつく。


エレアーナと男との距離は僕たちとのそれよりも近く、どうやっても間に合わないことは一目瞭然で。


裏庭からこちらに戻りかけていたライナスの瞳が、大きく見開いて。


なぜ、油断した。

なぜ、自分だと思った。

どうする? どうしたらいい?


ケインが大きく足を踏み出して。走る。

その後に、僕も続く。


……ダメだ、間に合わない。遠すぎる。


そのとき、どこからか声が響いた。


「やぁやぁ、ハインツ。ここにいたのか。探し回ってしまったよ。ちょっと遅れたからってオレを置いていくとは、ひどいじゃないか」


ぶ厚い黒縁の眼鏡をかけ、ぶかっとした帽子にグレーの大振りのケープをまとった男が、ぶんぶんと大きく手を振りながら、ナイフの男の方に歩いていく。

その男が浮かべる満面の笑顔に、ナイフの男も逡巡して。


「……なんだ? ひ、人違いじゃないか? 俺はハインツなんて名前じゃないぞ」

「ん? 何を言って……。おや、これはこれは、失礼を。知り合いに大変似てたもので」

「わ、わかればいいんだ。……もういいだろ。そこをどけよ」

「まぁ、そう怒らないでくれ。そうだ、お詫びに一杯奢ろうじゃないか。こちとら友人に振られてしまってねぇ、ひとり屋台なんてわびしいと思ってたところなんだよ」


眼鏡の男が、やたらと人懐こく誘いをかけているうちに、背後からライナスが距離を詰める。


「結構だ、俺は用があるんだよ。どいて……」

「ほう、オレの誘いを断るとは、一体どんな急用なんだい?」


声色が急に変わり、一段低くなる。

するり、彼は男の胸元に手を滑らせ、内ポケットに隠していたナイフの柄をぐっと握った。


「まさか、こんな物騒なものを使う用事ではあるまいね……?」

「ひっ……」


小声で呟いた眼鏡の男の発する穏やかでない空気にひるんで、その場で思わず固まってしまった男の背後から、ライナスが腕を捻りあげて動きを封じる。

男は声も出せずに、ただ口をぱくぱくと開閉するだけ。


男がしっかりと拘束されたことを確認してから、眼鏡の男はゆっくりと握っていた柄から手を離した。


「なぁんだ、連れがいたのかい。じゃあ、どうかな? 後ろのお連れさんも一緒というのは?」

「ご一緒したいところだが、残念ながら、今からこいつと大事な用があってね」

「おやおや、それは残念。それでは、またの機会に誘わせていただくとしようか」


澄まして答えるライナスに、その男は肩をすくめてみせる。

そして、くるりと向きを変えると、ひらひらと手を振りながらそのまま去って行った。


……え? 今の、何?


目の前の出来事が信じられなくて、しばし呆然としてしまう。

同じく途中で立ち止まり、大人しく事の成り行きを見ていたケインの顔も、不思議そうな、どこか間の抜けた顔で。


……きっと僕も同じような呆けた顔してるんだろうな。


安心した。……安心したけど。


……なんだろう、これ。

感心したというか、驚いたというか、憧れるというか、胸がざわつくというか。


自分も、ちょっとは成長したつもりでいたんだけどなぁ。


上には上がいるって、こういうことなのかと、そう思ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ