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自慢の臣下

ルシウスとアイスケルヒが執務室を出て自邸に向かうと、その場にはシャールベルムとダイスヒル宰相とベルフェルトの3人が残った。


「いやはや、大したお方ですね、ブライトン公爵は」

「ああ。私の自慢の臣下だからな」


ベルフェルトの眼に、陛下の顔がどことなく穏やかに映って見えて。


安心したんでしょうかね。

まったく、こうも優しすぎると生きるのも大変でしょうに。


「大局を見据えながらも、一人一人を大事に思われるお姿を、卿もわかっておられるのでしょう。良かったですな、陛下」


シュタインセンが目じりをそっと押さえる。


おやおや、あんたが泣いてどうするんだ。

あの無表情息子の父親の割に涙もろいんだな。


何とはなしに考えを巡らせていたそのとき、ふと頭の中に、さっきまでは気にもしなかった陛下の言葉が、ぐるりとよぎり始めて。


ちょっと待て。

ダメだ、考えるな。


オレたちは、オレたちなりのやり方で生きていくしかないと覚悟したじゃないか。


なのに、気がつけば自嘲めいた言葉が口から吐き出されていて。


「それにしても、実に羨ましいものですね。アイスケルヒ殿は、あれほどに優秀な父君をお持ちで」

「……ベルフェルト?」

「……陛下に自慢の臣下と評されるほどの忠臣を父とした幸だけでも羨望に値するというのに。それのみならず、さらには、ご本人までとひきり優秀ときている。まったくこんな……」

「ベルフェルト・エイモス」


陛下がオレの言葉を遮った。


わかってる。わかってますよ、陛下。

こんなのはオレらしくもない。誰かを羨んで、自分を憐れむなんて。


わかっていますとも。きっと今のオレは、ろくなことが言えないって。

ですがね、それでも、言わずにはいられなくて。


「お前も自慢の臣下だということを忘れたか? ベル」

「……は?」

「お前も私の自慢の臣下だ。……知らなかったとは驚きだな。私だけじゃない、ミハイルにとってもだ。お前は私たちの、大事で有能な、自慢の臣下なのだぞ」

「へ……いか……」


陛下は椅子から立ち上がってオレの側まで来ると、肩にそっと手を置いた。

それから、ぽん、ぽん、と2回、ゆっくり肩をたたいて。


「今回のこと、よく知らせてくれた。辛かったろうにな。エレアーナが無事だったのは、お前のおかげだ」

「いえ、……そんな……」

「いや、お前のおかげだとも。本当によくやった。お前の王国に対する忠義、正邪を見分ける力、そのためならば一族とも袂を分かとうとする決断力、どれをとっても立派な忠臣ではないか」


一瞬、涙があふれそうになって。

その衝動をぐっと堪えて、オレは笑ってみせた。たぶん、口元は歪んでただろうけど。


本当、らしくもない。

こんな顔、リュークにだって見せたことがないのに。


「何をおっしゃるのです、陛下。今日のことは、元を正せば父が…… ブルンゲン・エイモスが……愚かなために起こったのですよ。その讒言のために、シャルム・ライプニヒの大馬鹿野郎めが……」

「ベルフェルト」


再び、陛下はオレの言葉を遮った。

オレの目をじっと覗き込んで。


なんて目でオレを見るんですか。オレはあの不届き者の息子なのに。

……なんで、そんな優しい目で、オレを見てくれるんですか。


「大丈夫だ、ベル。何も心配するな。私もミハイルも、お前たちを心から信頼している。お前たちがどんな者なのか、私たちこそがよくわかっているのだからな」

「……陛下……」

「ええ、ええ、そうですとも。もちろん、私だってわかっておりますよ」


猛烈に感動したところに割って入った緊張感のない声に、肩からどっと力が抜ける。

陛下の肩越しにその姿を見れば、奴は相変わらずのニコニコ顔で。


……ダイスヒル。


なるほどね、さっきのも泣き真似だったわけか。

で、ここでも、あえて口を出してくるんだな。


……いやはや、あんたのその面の皮の厚さは、国宝級だよ。

是非、見習いたいものだな。

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