バザー会場にて その4
今日、殿下は婚約者候補のエレアーナ嬢に会いに行くという。
なんでも、そのご令嬢が南区にある孤児院のバザーを手伝うそうで、その様子を見に行きたくなったらしい。
しかもその孤児院の場所をなぜか殿下もご存知だと。
殿下に誘われて、ケインも一緒に付いてくることになり、結果、護衛のオレを含めた3人でジュールベーヌ孤児院にやって来たわけだ。
でもオレは知っている。
オレの他にも護衛が何人かこっそりついて来ていることを。
なに、オレ、そんなに信用ないの?
オレって結構強いんだよ?
そう思ったけど、まぁ、しょうがないよな。
王太子と宰相の1人息子だもん、何かあったらまずいってことだろう。と、1人納得する。
いやいや、それにしても、平民の服に着替えてはきたけど、殿下もケインも目立ちまくりで全然溶け込めてない。
カッコよすぎんだよ、おま……貴方たち。
オレを見習え、オレを。オレは普通にカッコいい程度だぞ。
噂じゃ、殿下は随分とそのご令嬢に惚れこんでるらしいけど。
それ、ホントみたいだな、ソワソワきょろきょろ、落ち着きがないったら。
……うん? 気のせいか、ケインもなんか微妙に挙動がおかしい。
護衛の観察眼を侮るなよ。
いつもは威風堂々って感じなのに、ちょっと目は泳いでるし、動きもなんか固いし。
……あ、ケインの好きな子も来てるとか? 例の『守りたい人』ってか?
あー、もう2人して、羨ましいこって。
例のご令嬢は、孤児院への寄付の受付窓口で手伝っていると聞いて、ぞろぞろと向かう。
やっぱり目立ってますよ、オレたち。みんなチラチラ見てるもんな。
殿下が嬉しそうに話しかけてるのが見える。うわっ、すっごい可愛い。ていうか綺麗。
『突然やって来てどういうつもりよ、この人たち』って顔してるけど、もしや殿下の片思いか?
でも、オレたちの『せっかく来たんだから案内してよ』オーラを察知したのか、そそくさと受付の仕事をほかの人に変わって、バザー会場を案内してくれた。
孤児院のバザーって言っても、なんか色々やってるんだな。
一角では、子どもたちの作った飾りやら置物やらを売っていて。
エレアーナ嬢の友人だというご令嬢2人が、そこで手伝いをしていた。
殿下たちを見て、ビックリして声が裏返ってたりして。そうそう、あれが普通の反応。
屋台では美味しそうなスナックと飲み物を売っていた。ジュースが良かったんだけど、エレアーナ嬢のお薦めを聞いて、ハーブティーを何種類か頼むことにして。
オレが買いに行かされそうになったから(いや、オレが行くべきなんだけど)、ちょっと渋ったらケインが代わりに行ってくれることになって。
で、やっぱり名前がよくわからないからってエレアーナ嬢が付いて行って。
それにしても、殿下のエレアーナ嬢を見る目の甘ったるいこと。
元々穏やかで優しい方だけど、眼差しとか声とか、段違いで甘い。
エレアーナ嬢も殿下のことを嫌ってはなさそうだけど、いや、むしろ、好ましいって思ってそうだけど。
……これはもうちょっと押しが必要だな。頑張れ、殿下。
あれ?
お茶が出来上がるのを待ってるのか、スタンド前で2人が、並んでる、……けど。
何を話してるんだろ? エレアーナ嬢の顔が赤くなってる。
ああ、ケインから殿下の話でも聞かされたのかな?
うん? ケインも顔が……。おい、どうした? 真っ赤じゃないか!
え? あれ? どういうこと?
ケインには守りたい人が……いるって。言って、た。
嫌な予感しかしない仮説が頭に浮かぶ。
確認するのも恐ろしくて、ちらりと目だけで殿下の方を見る……と、殿下は。
殿下は、微笑んでいた。
穏やかに、切なげに。
互いに顔を赤らめながら、お茶を持ってこちらにやって来る2人を、優しく見つめながら。
「お待たせしました。こちらから順に、カモミール、ジャスミン、レモングラスです」
「ありがとう。あれ、これは?」
「わたくしが頼んだラベンダーですわ」
気が付けば、殿下はいつも通りの殿下で。
見間違い……ではないよな。
エレアーナ嬢が説明したハーブの栽培や販売についての計画はなかなかすごいもので、殿下もしきりに感心していた。
うまくいけば孤児院の定期収入につながるし、子どもたちの教育にもなる。お茶の感想が聞きたいと言うので、オレたちも早速試してみた。
初めてのハーブティーは見た目も綺麗だったけど、思っていた以上に香りもよく、そして飲みやすかった。
胃腸の調子を整えたり、リラックス効果があったり、体にもいいらしい。なんかすごい。
内心でこっそり感心していると、突然、エレアーナ嬢はくるっと横を向いて、今度はケインにお茶の説明を始めた。
「えぇと、ケインさまのお茶は、レモングラスですね」
……うん?
殿下の顔を盗み見る。
やっぱりオレの予想通りで……殿下は笑っていて。
いつものように、優しく。でもさっきと同じ、目が、微かに揺れていて。
そうか、……知ってたのか。
それでも、一緒に行こうって、誘ったのか。
殿下は、オレが思っていた以上に、立派な男で。
オレより3つも年下だけど、なんか、人として男として負けてるような気分になったりして。
オレ、どうしたらいいんだろう? どっちを応援したらいいの?
ケインも弟みたいに大事に思ってるけど、ある意味、殿下も大事な弟分だから。
殿下、ちょっと邪魔しちゃえば? ……って思ったりして、たら。
「……ねぇ、エレアーナ嬢のお茶は? ラベンダーだっけ? すごい鮮やかな紫色で綺麗だね」
ハイ、殿下、邪魔しました!! と拍手してたら、さらに……。
「ケインさま、なんでしょ? だったら僕も、レオンさま、でしょ? ね?」
出ました! まさかの「レオンさま」呼び指令!
なに、これ、殿下ってこんな人だったの?
上目遣いでお願いしてるよ。艶のある眼差しでエレアーナ嬢をじっと見つめてるよ。
エレアーナ嬢、真っ赤になってるじゃん。凄いよ、殿下、負けてないじゃん。
意外、意外過ぎるよ、殿下。
友情も大事にしながらの、まさかの正面対決って。
「……ほら、言ってみて? レオンさま」
「……レオンさま」
「はい、よくできました」
うわー、すっごい満足気に笑ってる。
ケインが苦笑してるよ。そっか、お前も覚悟してるんだな。
いや、でもお前、油断してると負けるぞ、これ。
くっそー。面白れーっ! オレも入れろー!
「はいはいはい! だったらオレも! オレも、ライナスさまで!」
「ラ、ライナスさま……」
「はい! ライナスさまです! 何か御用ですか、エレアーナ嬢?」
「えっ……と。……呼んでみただけです」
「ですよねー!」
ですよねー! 関係ないのがすいません。
でもね、オレ、どっちも応援してるんで!
勝手に兄貴の気分になってるんで!
だからどうか。……どうか。
エレアーナ嬢、頑張って、真剣に悩んでくださいね。




