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俺は、ちゃんと

その日、シャルム・ライプニヒは少々むしゃくしゃしながら帰宅した。


なんだよ、大したミスでもないのに。


わざわざ人がいる前で怒らなくてもいいじゃないか。

あいつの無能を普段カバーしてるのは誰だと思ってるんだ。


いつもいつも俺の能力を過小評価しやがって。

たかが伯爵家の分際でどこまで偉そうなんだ。


つまらない。


何もかもが、やることなすことが、すべて気にいらない。


屋敷内のサロンに入ると、テーブルの向こう、茶を飲みながら新聞を読む父の姿が目に入る。


「父さん、例のワイジャーマは、いつ動くんですか? もう前金は払ったのでしょう? そいつ、まさか逃げたんじゃないでしょうね?」

「……帰宅の挨拶もできんのか、お前は?」


……なんだ? 父さんも機嫌が悪そうだな?


実際は、ここのところずっとファーブライエンの機嫌は悪かったのだが、あまり周りに気をかけないタイプのこの公爵家嫡男が、そんなことに気付いていたはずもなく。

かといって、面と向かって実の父に歯向かうほどの気骨もない。


「……ただいま戻りました。父さん」


少しトーンを落として帰宅の報告をした。それを父は華麗に無視する。


……そっちこそ、息子の挨拶に返事もできないのかよ?


とは思ったものの、やはり面と向かって実の父に言えるはずもない。

それでも悔しさはあったので、そのまま黙って父の前に立っていた。


すると、ようやく。


「……ああ」


おい、それで返事したつもりかよ?


でも、やっぱり面と向かって実の父に歯向えない。


もういいや。


ため息を一つつき、サロンから出て行こうと、くるりと体の向きを変えた、そのとき。

同じく帰宅したリュークザインが入ってきた。


うわ、こいつも帰ってきた。

最近よく顔を見るよな。

今まで、あまり家に寄り付かなかったくせに。


「兄上、そして父上。ただいま帰りました」

「ああ」

「ああ、お帰り」


あ、こいつにはお帰りって言った。

なんか腹立つな。


「父上、浮かない顔ですが、何かあったのですか? もしや、先日お話ししたとおっしゃっていたワイジャーマ殿が何かまずいことでも……?」

「いや、そういう訳じゃない、リューク。心配するな」


……それで、こいつにはちゃんと返事するんだ。

俺だって、さっき同じようなこと聞いたのに。


ひっそりと溜息をつく。


昔からそうなんだよな、ちょっと出来がいいからって、父さんはこいつに点が甘くて。


ずっと父さんとろくに口もきかなかったくせに。

急におべっかを使いたしてさ。

あんなのに騙されるなんて、父さんもおかしいんだよ。


それに、何でか知らないけど、父さん、最近はシュリエラのことも無視するようになっちゃったしさ。


あいつも最近暗いよな。


「ああ、そうだ。ワイジャーマと言えば、先ほど連絡が来たぞ。やっと材料が揃ったらしい。必要な薬やら何やらと言っておったが、たかがそれだけで、ずいぶんと待たしよるわ。ワイジャーマも、それほど大した力もないのかもしれんな」

「薬……。材料を揃えるだけでそんなに時間がかかるほど、珍しいものだったのでしょうか。一体、ワイジャーマ殿は何をするおつもりなんでしょう」

「私も詳しくは知らんのだ。いちおう説明は聞いてはみたんだが、実のところ、呪いがどうとか言われても、よくわからなかった」


父さん、こっちを見てくれよ。

俺の方が、ちゃんとしてるだろ。


「呪い……ですか」

「ああ。天罰を下したい奴らがいると言ったらな。呪いがいいだろうと」


俺の方が、ずっと、ちゃんとしてる。


俺の方が、ずっと、父さんと似てるんだ。


上手くいっている奴が、気に入らない。

そいつの顔が歪むところを見たい。


そうだろ? 父さん。


「ワイジャーマに任せてはいるが、呪いは1番長く苦しむものを頼むとだけは言っておいた。思い上がった連中には、身の程を知ってもらわんといかんからな」


ほーら、やっぱり。

俺と同じじゃないか。


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