王の祈り
「サンカナンから来たバルクルムとやらは、自らをワイジャーマと称したそうだぞ、シュタインセン」
「まったく、賢者くずれ風情がよくもそんなことを言えたものですな。図々しいにも程がある」
「まぁ、堂々と自分を賢者くずれと言うのもな。あるいは、本当に自分をワイジャーマだと考えているのかもしれんが」
「本物のワイジャーマが聞いたら、雷が落ちるところです」
呆れ声のダイスヒル宰相に対し、シャールベルム・リーベンフラウン国王はいつものように淡々と返す。
「それにしても『コウモリ』は、ずいぶんと頑張ってくれているようですな」
「元々が優秀なやつらだからな。今までろくに使われなかった方がおかしいのだよ。まぁ、ミハイルには感謝しかないよ。今回は助けられてばかりだ。コウモリを動かしてもらった上に『ハト』まで貸してくれたからな」
「この後はどうされるおつもりですか? 陛下」
「ファーブライエンの意図は分かった。だが、まだそれだけだ。賢者くずれが、いつ、どこで、何をする気かすら掴めておらん。ミハイルに任せきりになってしまうのは心苦しいが、ここはもう少し待つよりほかはないだろう。これで終わりにするつもりでいるのだ。取りこぼしてはならん」
シャールベルムの眉に、深く皺が刻まれる。
両の手を目の前で組み、しばしの間考え込んで。
「……できれば、すべて未然に防ぎたいものだが。さて、どうなるか」
「……そこはコウモリとハト次第、というところでしょうか」
「優秀な奴らだよ。もう十分よくやってくれているのに、申し訳ない気がするな。まぁ、こちらでやれることはやるとして、後は……うまくいくことを願うのみだ」
「エレアーナ嬢は大丈夫でしょうかね」
シャールベルムの眼差しが、少し遠くなる。
「……どうだかな」
「守れるといいのですが」
「あぁ」
その後、シュタインセン・ダイスヒルは王の執務室を辞し、そこにシャーベルム1人が残った。
考えなければいけないことは、山ほど、星の数ほどあって。
シャールベルムは、目を瞑り、静かにひたすら考えを巡らせた。
ミハイルシュッツが流してくれたコウモリからの情報で、少しの見通しは立った。
見境のない一部貴族の暴走を、どこでどう介入するのが最も正解に近いのか。
王たる者は一時の感情で決定してはならない。
国全体を見渡し、状況を俯瞰し、最小限の犠牲で最大限の益を得られるように動かねばならない。
王がそこにあるのは、王座を担う民の存在があってこそなのだから。
それは貴族たちにとっても同じことで。
その地位を享受するからには、伴う責任と義務も同時に負うべきであって。
自らの持つ地位と権力を、当たり前のように自分のためだけに用いるべきではない。
決して私欲に群がってはならないのだ。
もし、そのような罪を断じようとするのならば、その者は決して同じ愚かな間違いを犯してはならないのだ。
だから。私は。
今、私情で動いてはならない。
思うままに行動できれば、心はさぞや楽だろうに。
あの子だけを救いたいのであれば、それでいいのかもしれないが。
すぐにでも動いてしまいたい。守りたい……が
今は、まだ。
祈りにも似た呟きが零れ落ちる。
……コウモリ、そしてハト。
すまん。辛い思いをさせる。
だが、急いでくれ。
ルシウス
迷惑をかける。許してくれ。
エレアーナ
どうか……無事で。
ライナスバージ
もっと、煽れ。
あの子らに、その背を見せてやれ。
……レオンハルト、……ケインバッハ
もっとだ。
もっと、焦れ。
あがけ。
強くなりたいのならば。……エレアーナを守りたいのならば。
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