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過保護

「なぁ、リューク、一体どういう趣旨の茶番だったのかな? あのどうしようもなく下らない質問は」


笑みを堪え、僅かに震える声がリュークザインの背後から聞こえてきた。


「盗み聞きとは趣味が悪いな」

「盗み聞きではないぞ。お前は、オレが聞き耳を立てていた事に気付いていたのだからな」

「それを盗み聞きと言うのだ、ベル」


リュークザインからのもっともな指摘に、ベルフェルトは、くくっと笑う。


「それで、どういうつもりだったんだい? 不審者を調べるにしては、どうにも可笑しな質問ばかりのようだったが」

「可笑しくはない。どのような男か知るための質問だったのだからな」

「ほう、そうきたか。・・・それは兄として? それとも諜報機関の長としてか?」


何時もの事ではあるが、答えを分かっていながらこうして聞いて来るのだからこの男はタチが悪い。


「非番の夜に同僚と飲みに行っただけの事。諜報員が出張る必要などある訳がなかろう」

「成程、兄としての義務感か。・・・しかしだな、オレが思うに、その愛情は少々重たいぞ。恋話に兄がしゃしゃり出るのは無粋というもの。可愛い妹に嫌われでもしたらどうする気だ?」


最早、面白がっている事を隠しもしない。

クスクスと笑い声が聞こえて来る。


「嫌われる筈がない。誰であれ、私が決めた相手と結婚する、とアレは言っているのから」

「なんだと?」


笑い声がぴたりと止んだ。

余程、意外な返しだったのだろう。


「お前の決めた相手と結婚する、と? あいつが言ったのか? あのシュリエラが?」

「そうだ」

「いやいやいや。ちょっと待て、リューク。あのシュリエラがそんな事を言う筈がないだろう? だってあいつはどう見ても・・・」


と、そこまで言いかけて、ふむ、と何かに気づいたようで。


「・・・成程な」

「・・・」


合点がいき、再び笑いが込み上げてきたようだ。

また、クスクスと笑い出す。


「全く、兄馬鹿にも程があるな。普段の冷静沈着な態度はどこに行ったのだ?」

「仕方なかろう。あの子には幸せになって貰いたいが、その為には賢明な判断が必要だ」

「まぁ、それはそうなのだがな。それにしても、だ。ここまで過保護になるとは、流石のオレでも想定外だったぞ」


そこでぴたりと笑いが止まり、じろりと睨みつけるような眼差しを送る。


「当のお前は、さっさと見合いで結婚を決めたというのに」


至極、真面目な口調。

探るようにリュークを見つめながら。


「相手にはなんの不足もない。随分と素晴らしいご令嬢を紹介いただいた」

「・・・ほう」

「とにかくもう用は済んだ。・・・行くぞ」


そう言ってリュークは身を翻す。

ベルは軽く方を竦めると、その後に続き、王城の中へと消えていった。







「よっと。・・・はぁ、やっと着いた」


騎士寮内のライナスの部屋。

そのベッドの上に、ごろりとライナスの体を転がす。


その拍子に、何やらむにゃむにゃと口が動いたけれど、もう完全に寝入っているから意味など分かる筈もない。


「ったく。手間かけさせやがって」


文句を吐きながらも、口元は緩く弧を描いている。


お前と飲みに行く日が来るなんて、思いもしなかったけど。


まぁ、悪くはなかった。


「・・・また、行ってやってもいいぞ。ライナス」


聞いていないと分かっているから言える言葉。

なのに、何故か少し照れてしまう。


頭をがしがしと掻いて、はぁ、と溜息を吐いて。


「・・・ありがとな」


その小さな呟きを挨拶代わりに、部屋から出て行った。


それから、アッテンボローは自分の部屋に戻り、自分も横になって。


かなりの量のシーカーを飲んだが、どうにも酒に強いアッテンは軽いほろ酔い程度にしかならない。


少しふわふわした気分がなくもないが、先程の回廊での問答を思い出すと、そんな気分も吹き飛んだ。


あれは何だったんだろう。


気配を悟らせない動き。

絶対に只者ではなかった筈。


なのに質問の内容が、どうにもちぐはぐで。


大体、なんで俺の想い人のことなんか聞くんだ?

不審者に聞く質問じゃねーだろ。


しかも何故か真面目に答えちゃったし。


ああ、思い出すだけでも恥ずかしい。

凄い恥ずかしいこと言っちまったよ。


だけど、あの時の俺はどうしても、想い人はいないとなどとは言いたくなかった。


最初は見ているだけでいいと、本気で思ってた。

一度だけ踊って記憶の片隅にでも残せれば、それでいい、と。


俺みたいに諦めの悪い男が、そんな器用な真似なんか出来る筈がないのに。


そっと目を瞑る。


眼裏に鮮やかに浮かび上がるのは。


瞳の奥に宿る意志の強そうな光。

意地悪を仕掛けた令嬢たちをモノともしない、強くて素直すぎる眼。


鮮やかな朝焼けにも似た深紅の髪。

それは、抗っても、抗っても、俺を引きつけて止まない魅惑の色。

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