表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/248

真夏の太陽

「・・・ケインバッハかエレアーナ嬢から、何かお聞きになったんですか?」

「まさか」


低い声で問い返したアッテンボローに、苦笑を零す。


「あくまでも、わたくしの受けた印象の話です。あのお二人は、伺ったお話を人に漏らすようなことはされませんわ。・・・ですが、アッテンボローさまがそう仰るということは、あのお二人には何かお話になったということなのですね」


カトリアナの答えに、アッテンボローはぐっと言葉に詰まった。


「ご安心くださいませ。何かお節介をやこうとしている訳ではありません。人には人の事情があります。そして起こす行動には、それだけの理由も」

「では何故・・・」

「ただ一つだけ、申し上げたかったのです」

「俺に?」

「ええ。アッテンボローさまは、とても立派な騎士さまである、という事を」

「・・、は?」

「わたくしやエレアーナさま、そしてシュリエラさまをお守りくださったでしょう? ・・・たったの数日間で、騎士としてあれだけの有能さを示して下さった方なのです」


アッテンボローの眼が、微かに揺れる。


「杞憂であれば良いと願っていますが・・・どうか、これまでアッテンボローさまが成し遂げてきた事に自信をお持ちくださいませ」


カトリアナは、ふわりと笑った。


一瞬、呆けた表情を見せたものの、それはすぐに苦笑いへと変わる。


「・・・観察眼がおありなのですね。流石、王太子殿下が見初めた方だ」

「まあ、わたくしなど姉の足元にも及びませんのよ?」

「そうなのですか。それは少しばかり恐ろしい気もしますね」

「ふふ、今のお言葉、姉には黙っておいて差し上げますわね」

「ええ。是非とも、そう願いたいものです」


気づけば、重苦しい空気は雲散し、和やかに笑いあっていた。

王太子殿下の女性を見る目は確かだな、などど、アッテンボローが感心したことは、勿論口にはしない。


任務が終わり、王城の外れにある騎士寮に戻った後も、ベッドに横になりながら、カトリアナに言われた言葉について考えていた。


「自分が成し遂げてきた事に自信を持て・・・か」


自信がない、とまでは言わない。

言わない・・・が。


自信を持つ程のものか、と、考える自分がここにいるのも事実で。


天井を見つめながら、大きく息を吐く。


「聞いてみれば、殿下も昔、随分と難儀な恋をなさったのだな」


声をかけられず、ただビクついているだけの俺とは、比べるのも痴がましいが。


だが、殿下はその難儀な恋を経て、今の婚約者に出会えたのだから。

その想いも、決して無駄ではなかった筈だ。


では、俺は。

俺は、いつか、これまでの事が無駄ではなかったと言える日が来るのだろうか。


これだけのことを成してきた、と、胸を張って言える日が。


「はっ・・・」


なんて情けない男だ。


他に誰もいない部屋の中、自分の掠れた笑い声だけが響いた。






「あれ? アッテン、お前、なんか今日、目の下の隈、酷くないか?」


早朝鍛錬の後、汗を拭いていた時に、騎士仲間の一人から心配そうな声がした。


「少し寝不足でな」

「新しい任務に、まだ慣れない、とか?」

「未来の王太子妃の護衛だもんな。責任重大だし、緊張するよな」

「ま、お前なら大丈夫さ。なんてったって、唯一、あのライナスバージと互角に渡り合える奴だからな」


・・・互角なんかじゃない。


そう思ったけど、口には出さなかった。


「あー、しかし、同期がどんどん出世してくなぁ。俺たちも頑張んないと」

「鍛錬の時間、もっと増やすか」


大声で笑いながら、皆で冷たい水を呷る。


「アッテンの家は、騎士としての功績が認められて家格が上がった家だったろ? まぁ、強くて当然か」

「寧ろ、弱いなんて有り得ないよな」

「ああ、北のロッテングルム、南のガルマルクってな」

「才能ある奴が羨ましいよ」

「・・・止せよ。そんな大したもんじゃない」

「まーたまたー! 謙遜するなって」

「・・・悪いが、まだやる事があるんだ。俺はここで」


話を遮って輪から抜ける。


足早に鍛錬場から立ち去って。


・・・あいつらに悪気がないのは分かってる。

ただ思った事を口にしているだけ。

それだけだ。


俺が気にしなければ良い事なんだ。

気にしなければ。


「あ、ここにいたのか、アッテン」


・・・お前なら笑って躱せるんだろうな、ライナス。


「なぁ、今夜って、オレたち二人とも非番だろ? ほら、殿下がマスカルバーノ家と会食するからさ」


比べられても、羨ましがられても、たとえ妬まれても。

きっと、笑って相手と真っ正面からぶつかれるんだ。


「だからさ、前に約束した飲み会、今日行こうぜ」


真夏の太陽みたいに、眩しすぎる笑顔。


その光に焼かれそうで、怖くて、ずっと距離を取っていたけど。


お前なら、教えてくれるだろうか。

俺が何をやってきたのか。


何か、やってきたのか。


前に、進みたいんだ。

もう、立ち止まるのは嫌なんだ。


「いいだろ? な?」


胸を張って、俺は俺だと言いたいんだ。


「・・・ああ」


俺でもいいんだと、前を向ける勇気がほしい。


「いいぜ。飲みに行こう、ライナス」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ