兄は意外と心配しているのです
「お前、好きな男はいないのか?」
別に回りくどい言い方が好みな訳じゃないけど、今のって、あまりにあからさますぎやしません?
少しイラっときたので、兄をじとり、と睨みつける。
「私に怒っても現実は変わらないぞ? シュリエラ」
あー、もう。
自分はお見合いでさっさと結婚相手が決まったからって、親切に私の心配までしなくてもいいのに。
条件だけで選別したリュークお兄さまのお相手は、意外と言っては失礼だけど、物凄く、それはもう物凄く素敵な方だった。
先日、顔合わせをしたけど、本当に政略結婚?って疑ったのが正直な感想だもの。
気のせいなのか、あるいは、身内びいきなのか、はたまた只の思い違いかも分からないけど、お相手のご令嬢は、リュークお兄さまの事を好いてらっしゃるように見えた。
いえ、きっとそれは私の気のせいだわ。
だって初めて顔を合わせたんだもの。
前から好きだったなんて、有り得ない。
でもね、私は当主であるリュークお兄さまとは立場が違うんだから、別にお相手がいるかいないかで目くじら立てないでもいいんじゃないかしら。
後継者問題とか、私には関係ない話でしょ。
だったらいっそ・・・なんて思わないこともない。
だからちょっとだけ、本音を漏らしてみた。
「別に、このまま結婚しないでもいいかな、とも思っているのですが・・・」
面倒だから言ってみただけ。
深く考えての事じゃない。
一人って気楽そうだし。
愛想振り撒くのも疲れるし。
思ったことがすぐ顔に出るから、駆け引きとか向いてないし。
挙句、我慢もきかないし。
なのに、お兄さまったら本気モードに入ってしまって。
「シュリエラ。お前はなかなかの美人だ。いや、相当と言ってもいいだろう。気性は激しいが、それがまた魅力だと言ってくれる男もいる筈だ。何より今は、お前は他人を思い遣る心を持っている。お前を妻としたい男は、それこそ星の数ほどいるのだぞ」
頭を撫でられながら、やたらと褒めちぎられてしまう。
もう、私、もう十五なのよ?
頭撫で撫でなんて、子どもじゃないんだから。
それに、真面目に慰められると、却って受けるダメージが大きいんですけど。
星の数ほどいる訳ないじゃない。
ふう、と大きな溜息を吐いて、まだ頭を撫ででいるお兄さまの顔を見上げた。
「わたくし、前に恋をした時、それはもう酷かったではないですか。相手の迷惑も考えず、ただただ殿下の後を追いかけ回して。それはもう、醜態と言っていい程の」
「シュリエラ・・・」
「そのせいで、当時、婚約者候補に挙がっていたエレアーナさまのお命まで危うくなるような事態に発展してしまいました」
頭の上の、兄の手の動きが止まる。
「恋をしたら、またあんな風になるのではないかと恐いのです。わたくしは、もう誰のことも傷つけたくありません」
目を見れば分かる。
兄は今、凄く困っている。
だから私は、ふふ、と微笑んでみせた。
「だから恋はもういいのです。結婚しなければならないのなら、そうですね、政略結婚がいいです。互いを好きにならなくてもいいというお相手が。だから・・リュークお兄さまが選んでくださいませんか」
「・・・お前は気になる男がいるのではないか? 前に夜会で踊っていた男がいただろう?」
兄は本当に細かいところにまで気がつく人だ。
なんて、感心したりして。
「ライナスさまのことですか? それともアッテンボローさま?」
「どちらもだ。もし、お前の心が向いている相手がいるのならば・・・」
「ライナスさまはわたくしにとって兄のような存在ですし、アッテンボローさまとは、夜会で一度、踊ったきりですわ。それきりお声もかけて頂いておりません。きっとわたくしのことなど、何とも思っておられない筈ですわ」
言った後で、しまった、と思った。
これでは、誰が気になっているのか、自分からバラしたようなものだ。
慌てて、兄が何か言いだす前に、こちらが口を開く。
「そういえば、ベルフェルトお兄さまとも踊ってますわ」
「わざわざ茶化さなくていい」
やっぱり、私の頭の中なんてお見通しなのね。
「リュークお兄さまが選んだお方ならば、何の不安も心配もありません。その方と結婚いたしますから、お兄さま、どうかわたくしに良いお相手を探してくださいませ」
「シュリエラ、お前は・・・」
兄は何か言いかけたけど。
私の顔を見て、言いかけた言葉を呑み込んで。
「・・・そうか、私が勝手に選んで構わないのだな」
いつだって、家族をなかなか突き放せないお兄さまは、最後には私の願い通りにすると頷いてくれた。




